15 / 39
第十五話 非公式
しおりを挟む
第十五話 非公式
王城の奥、記録庫の隣にある小さな会議室。
そこに集まったのは、王家直属の文官たちだった。
軍務官、財務補佐、法務書記、王室会計監査官。
誰も声を荒げない。
誰も正式な招集をかけていない。
だが全員が来た。
「これは非公式だ」
最年長の文官が言う。
「記録には残らぬ」
「残せぬ、だろう」
若い書記が小さく訂正する。
沈黙。
外では王城の衛兵が交代する足音。
「物価上昇は三週連続」
財務補佐が資料を広げる。
「王家軍補給遅延は七件」
軍務官が続ける。
「商会の掛け縮小、確認済み」
会計監査官が低く言う。
数字は嘘をつかない。
「原因は」
全員が分かっている。
だが誰も口にしない。
沈黙を破ったのは法務書記だった。
「契約再審査は合法だ」
「王太子の宮廷入りも形式上は可能」
「だが」
最年長の文官が続ける。
「順序が逆だ」
本来なら、諸侯との調整。
評議会での合意。
商会との協議。
それがなかった。
「殿下は政治より感情を優先した」
言葉は小さい。
だが重い。
「公爵は動いていない」
軍務官が言う。
「契約通りだ」
「だから反撃できぬ」
合法と合法の間で、王家が削られている。
「我々はどうする」
誰も即答しない。
忠誠は王家へ。
だが忠誠は国にも向く。
王家が国を危うくするなら。
沈黙が続く。
やがて財務補佐が言う。
「公爵と非公式に接触を」
全員が顔を上げる。
「裏切りか」
「保険だ」
言い換え。
裏切りではない。
備え。
「もし評議会が開かれれば」
最年長の文官が言う。
「証言は必要だ」
証言。
その言葉で空気が変わる。
王城。
王太子は側近に命じる。
「文官が動いているという噂は本当か」
「非公式会合の気配はございます」
王太子の目が鋭くなる。
「監視しろ」
監視。
それは不信の証。
平民娘はその言葉に顔を曇らせる。
「皆様、敵ではないのでは」
「敵になる前に押さえる」
王太子は言い切る。
だが押さえるほど、離れる。
公爵領。
報告が届く。
「王家文官、非公式会合を確認」
公爵は低く笑う。
「早い」
ヒロインは静かに頷く。
「まだ味方ではありません」
「だが」
「揺れている」
揺れは決断の前触れ。
「接触は」
「焦りません」
焦れば疑われる。
文官が自ら来るのを待つ。
王都の夜。
記録庫の灯りが遅くまで消えない。
文官たちは帳簿を整理する。
数字を揃える。
証拠を整える。
まだ裏切ってはいない。
だが、守る対象が変わり始めている。
王家ではなく、王国へ。
そして王国の流れは、今や公爵領へ向いている。
非公式の集まりは、やがて公式になる。
そのとき、王太子は気づく。
命令が通らない理由を。
だがそのときには、遅い。
王城の奥、記録庫の隣にある小さな会議室。
そこに集まったのは、王家直属の文官たちだった。
軍務官、財務補佐、法務書記、王室会計監査官。
誰も声を荒げない。
誰も正式な招集をかけていない。
だが全員が来た。
「これは非公式だ」
最年長の文官が言う。
「記録には残らぬ」
「残せぬ、だろう」
若い書記が小さく訂正する。
沈黙。
外では王城の衛兵が交代する足音。
「物価上昇は三週連続」
財務補佐が資料を広げる。
「王家軍補給遅延は七件」
軍務官が続ける。
「商会の掛け縮小、確認済み」
会計監査官が低く言う。
数字は嘘をつかない。
「原因は」
全員が分かっている。
だが誰も口にしない。
沈黙を破ったのは法務書記だった。
「契約再審査は合法だ」
「王太子の宮廷入りも形式上は可能」
「だが」
最年長の文官が続ける。
「順序が逆だ」
本来なら、諸侯との調整。
評議会での合意。
商会との協議。
それがなかった。
「殿下は政治より感情を優先した」
言葉は小さい。
だが重い。
「公爵は動いていない」
軍務官が言う。
「契約通りだ」
「だから反撃できぬ」
合法と合法の間で、王家が削られている。
「我々はどうする」
誰も即答しない。
忠誠は王家へ。
だが忠誠は国にも向く。
王家が国を危うくするなら。
沈黙が続く。
やがて財務補佐が言う。
「公爵と非公式に接触を」
全員が顔を上げる。
「裏切りか」
「保険だ」
言い換え。
裏切りではない。
備え。
「もし評議会が開かれれば」
最年長の文官が言う。
「証言は必要だ」
証言。
その言葉で空気が変わる。
王城。
王太子は側近に命じる。
「文官が動いているという噂は本当か」
「非公式会合の気配はございます」
王太子の目が鋭くなる。
「監視しろ」
監視。
それは不信の証。
平民娘はその言葉に顔を曇らせる。
「皆様、敵ではないのでは」
「敵になる前に押さえる」
王太子は言い切る。
だが押さえるほど、離れる。
公爵領。
報告が届く。
「王家文官、非公式会合を確認」
公爵は低く笑う。
「早い」
ヒロインは静かに頷く。
「まだ味方ではありません」
「だが」
「揺れている」
揺れは決断の前触れ。
「接触は」
「焦りません」
焦れば疑われる。
文官が自ら来るのを待つ。
王都の夜。
記録庫の灯りが遅くまで消えない。
文官たちは帳簿を整理する。
数字を揃える。
証拠を整える。
まだ裏切ってはいない。
だが、守る対象が変わり始めている。
王家ではなく、王国へ。
そして王国の流れは、今や公爵領へ向いている。
非公式の集まりは、やがて公式になる。
そのとき、王太子は気づく。
命令が通らない理由を。
だがそのときには、遅い。
5
あなたにおすすめの小説
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる