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第十九話 通らぬ命
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第十九話 通らぬ命
王城の軍務室。
王太子は立ち上がり、机に広げられた地図を睨んでいた。
「南部街道に王家軍を増派する」
側近と軍務官が顔を見合わせる。
「理由は?」
「公爵家騎士団が主導した件だ。王家の威信を示す」
軍務官は慎重に答える。
「南部街道は現在、公爵家の保護契約下にあります」
「だから何だ」
「兵を動かすには、補給と諸侯の同意が」
王太子は声を荒げる。
「王命だ」
部屋の空気が凍る。
王命。
それは最後の札。
切れば、後戻りはできない。
軍務官は膝をつき、形式通りに答える。
「王命として、各領主へ通達いたします」
その日のうちに、各領地へ命が送られた。
三日後。
返答が届く。
辺境伯。
「兵は現在、国境警備に集中しており、動かせず」
西方伯。
「補給不足により即応不可」
北方侯。
「契約再確認が必要」
すべて拒絶ではない。
だが、動かない。
王家直轄兵三千のみが、準備に入る。
だが三千で威信は示せない。
王城。
軍務官が報告する。
「諸侯の兵、動きません」
王太子の顔が赤くなる。
「反逆だ」
「形式上は、正当な理由です」
契約。
補給。
国境。
どれも正当。
否定できない。
平民娘が震える声で言う。
「殿下……皆様、恐れているのでは」
「私を恐れているのだ」
王太子は言う。
だが恐れは従属を生まない。
距離を生む。
兵舎。
王家直轄兵がざわつく。
「諸侯の兵は来ないのか」
「王家だけで動くのか」
不安が広がる。
兵は数で戦う。
数が揃わなければ、士気は落ちる。
公爵領。
報告が届く。
「王命、通らず」
公爵は低く笑う。
「王家の剣は鈍い」
ヒロインは静かに答える。
「剣ではなく、柄が折れています」
王家軍は名目。
実体は諸侯。
諸侯が動かなければ、王命は紙だ。
「父上」
「何だ」
「次は文官です」
軍が動かなかった。
次は行政。
王城。
王太子は怒りに任せて言う。
「命令に従わぬ者は処罰する」
側近が蒼白になる。
「それは……諸侯全体を敵に」
王太子は沈黙する。
怒りはある。
だが処罰できない。
処罰する力がない。
夜。
王城の塔に立つ王太子。
王都は静かだ。
だがその静けさは、従属ではない。
離反だ。
命令が通らない。
その事実が、最も重い。
公爵領。
ヒロインは地図から目を離す。
「王命は、空でした」
「次はどうする」
公爵が問う。
「何もしません」
彼女は微笑む。
「事実が、十分に働きます」
王家の命令が通らない。
その噂は、明日には王都に広がる。
王家はまだ王家。
だが王太子の声は、届かなくなった。
それが、空洞の証だった。
王城の軍務室。
王太子は立ち上がり、机に広げられた地図を睨んでいた。
「南部街道に王家軍を増派する」
側近と軍務官が顔を見合わせる。
「理由は?」
「公爵家騎士団が主導した件だ。王家の威信を示す」
軍務官は慎重に答える。
「南部街道は現在、公爵家の保護契約下にあります」
「だから何だ」
「兵を動かすには、補給と諸侯の同意が」
王太子は声を荒げる。
「王命だ」
部屋の空気が凍る。
王命。
それは最後の札。
切れば、後戻りはできない。
軍務官は膝をつき、形式通りに答える。
「王命として、各領主へ通達いたします」
その日のうちに、各領地へ命が送られた。
三日後。
返答が届く。
辺境伯。
「兵は現在、国境警備に集中しており、動かせず」
西方伯。
「補給不足により即応不可」
北方侯。
「契約再確認が必要」
すべて拒絶ではない。
だが、動かない。
王家直轄兵三千のみが、準備に入る。
だが三千で威信は示せない。
王城。
軍務官が報告する。
「諸侯の兵、動きません」
王太子の顔が赤くなる。
「反逆だ」
「形式上は、正当な理由です」
契約。
補給。
国境。
どれも正当。
否定できない。
平民娘が震える声で言う。
「殿下……皆様、恐れているのでは」
「私を恐れているのだ」
王太子は言う。
だが恐れは従属を生まない。
距離を生む。
兵舎。
王家直轄兵がざわつく。
「諸侯の兵は来ないのか」
「王家だけで動くのか」
不安が広がる。
兵は数で戦う。
数が揃わなければ、士気は落ちる。
公爵領。
報告が届く。
「王命、通らず」
公爵は低く笑う。
「王家の剣は鈍い」
ヒロインは静かに答える。
「剣ではなく、柄が折れています」
王家軍は名目。
実体は諸侯。
諸侯が動かなければ、王命は紙だ。
「父上」
「何だ」
「次は文官です」
軍が動かなかった。
次は行政。
王城。
王太子は怒りに任せて言う。
「命令に従わぬ者は処罰する」
側近が蒼白になる。
「それは……諸侯全体を敵に」
王太子は沈黙する。
怒りはある。
だが処罰できない。
処罰する力がない。
夜。
王城の塔に立つ王太子。
王都は静かだ。
だがその静けさは、従属ではない。
離反だ。
命令が通らない。
その事実が、最も重い。
公爵領。
ヒロインは地図から目を離す。
「王命は、空でした」
「次はどうする」
公爵が問う。
「何もしません」
彼女は微笑む。
「事実が、十分に働きます」
王家の命令が通らない。
その噂は、明日には王都に広がる。
王家はまだ王家。
だが王太子の声は、届かなくなった。
それが、空洞の証だった。
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