婚約破棄?責任を取らされた王太子はホームレスになりました

鷹 綾

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第二十話 辞表

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第二十話 辞表

王城の記録局。

朝の光が差し込む中、老文官が静かに封蝋を押していた。

王家文官長、エドリック。

三十年、王家に仕えた男。

その手元にあるのは――辞表。

「本日をもって、王家直属文官の任を辞する」

理由は簡潔。

「健康上の理由」

嘘ではない。

だが真実でもない。

王城内では、すでに噂が広がっていた。

「文官長が辞めるらしい」

「まさか」

「他にも……」

昼。

軍務補佐が辞表を提出。

夕刻。

財務局の若手書記が退職願を出す。

形式は整っている。

反逆ではない。

ただの“退職”。

だが、数が増えれば意味を持つ。

王太子は報告を受け、顔色を変える。

「辞職だと?」

「はい。三名が本日」

「理由は」

「一身上の都合」

王太子は机を叩く。

「裏切りだ」

側近が低く言う。

「殿下……辞職は法的に止められません」

止められない。

忠誠は命令できるが、心までは縛れない。

平民娘は震える声で言う。

「皆様、殿下をお見捨てになるのですか」

王太子は否定する。

「公爵が裏で手を回している」

証拠はない。

だが怒りは原因を外に求める。

王城の回廊。

若い文官が同僚に言う。

「評議会が開かれたら、証言する」

「王家に不利になるぞ」

「王家が国を傾けた」

その言葉は小さい。

だが、決意は固い。

公爵領。

報告が届く。

「王家文官、三名辞意」

公爵は目を細める。

「始まったな」

ヒロインは頷く。

「王家の中枢が、静かに空きます」

「補充は?」

「経験不足の者が昇格するでしょう」

経験は安定。

未熟は混乱。

王家の判断力が落ちる。

「接触は」

「不要です」

辞めるのは、彼らの選択。

公爵が強制したのではない。

それが重要。

王城。

翌日、さらに二名が辞職。

王太子は叫ぶ。

「王家への忠誠はどうした!」

沈黙。

誰も反論しない。

だが誰も賛同もしない。

夜。

記録庫の棚が空き始める。

引き継ぎも不十分。

帳簿に空白が生まれる。

財務処理が滞る。

補給命令が遅れる。

小さな綻びが、連鎖する。

公爵領。

ヒロインは静かに言う。

「王家は自ら削れています」

「我らは何もしていない」

「はい」

事実だけが、刃になる。

王家はまだ王家。

だが中枢の文官が去れば、命令は遅れ、判断は鈍る。

王太子は怒り、疑い、さらに監視を強める。

監視は信頼を奪う。

信頼を失えば、さらに辞める。

悪循環。

王都の夜。

灯りはいつも通り。

だが王城の一角は暗い。

机が空き、椅子が余る。

王家の中身が、静かに減っていく。

血は流れない。

剣も抜かれない。

だが空洞は、確実に広がる。

そして王太子はまだ理解しない。

辞表こそが、最初の断罪であることを。
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