24 / 39
第二十四話 魔女
しおりを挟む
第二十四話 魔女
最初は、ただの噂だった。
「王都が揺れているのは、あの娘が来てからだ」
市場の片隅で、誰かが呟いた。
偶然かもしれない。
だが偶然は、重なれば意味を持つ。
「宮廷入りの直後に物価が上がった」
「軍の補給も不安定になった」
「王太子はあの娘に夢中だ」
そして、誰かが言った。
「魔女だ」
笑い混じりだった。
だが妙にしっくりくる言葉だった。
王都は昔から、不安を誰かに押しつける。
火事があれば魔女。
不作があれば魔女。
そして今、生活が重い。
ならば原因は――魔女。
王城。
侍女が平民娘に報告する。
「市井で……そのような噂が」
「魔女、と」
平民娘は一瞬だけ目を細める。
「……魔女?」
震えない。
泣かない。
鏡に映る自分を見る。
豪奢な衣装。
宝石。
かつて市場で見上げていた王城の景色。
今はその内側。
彼女は静かに笑う。
「嫉妬よ」
侍女が戸惑う。
「ですが……」
「貴族も民も、私が王妃になるのが怖いの」
王太子が入ってくる。
「愚民どもが!」
「噂を流した者を捕らえる」
彼女は手を伸ばし、王太子の袖を掴む。
「いいえ」
王太子が驚く。
「放っておいて」
「恐れている証拠ですもの」
その目は冷たい。
「殿下、あなたは強くならなければ」
「古い貴族に遠慮する必要はありません」
王太子は頷く。
彼女の言葉に安堵する。
彼女はさらに続ける。
「公爵家に頼るから、足元を見られるのです」
「流通も軍も、あなたの名の下に統一すべき」
それは助言の形をした煽動。
王太子は拳を握る。
「そうだ……私は王になる」
彼女は微笑む。
その微笑みは柔らかい。
だが計算されている。
王都。
教会前。
老女が言う。
「王太子を惑わせたのだろう」
「王家の秩序を乱した」
「魔女に違いない」
証拠はない。
だが理由は十分。
王太子は変わった。
会議を軽んじるようになった。
諸侯に対して強硬になった。
婚約破棄も急いだ。
その背後に、彼女の声があったと囁かれる。
王城。
平民娘は侍女を下がらせる。
一人、窓辺に立つ。
王都を見下ろす。
「魔女……ね」
小さく笑う。
「なら、そう呼ばれてもいいわ」
「王妃になれるなら」
その声に迷いはない。
王太子が背後から言う。
「君を守る」
彼女は振り向く。
「守るのではなく、支配なさって」
その言葉に、王太子は気づかない。
彼女が求めているのは愛ではない。
地位。
力。
王座。
噂は広がる。
彼女は否定しない。
むしろ煽る。
貴族を軽んじる言葉が侍女を通じて漏れる。
「古い血は時代遅れ」
「平民でも王妃になれる時代」
その発言がさらに反感を買う。
魔女。
その言葉は、ただの噂ではなくなる。
象徴になる。
混乱の象徴。
そして野心の象徴。
まだ公式ではない。
だが民は感じている。
王太子は変わった。
王国は揺れた。
そして彼女は、揺れを恐れていない。
むしろ利用している。
刃はまだ振り下ろされていない。
だが研がれている。
確実に。
最初は、ただの噂だった。
「王都が揺れているのは、あの娘が来てからだ」
市場の片隅で、誰かが呟いた。
偶然かもしれない。
だが偶然は、重なれば意味を持つ。
「宮廷入りの直後に物価が上がった」
「軍の補給も不安定になった」
「王太子はあの娘に夢中だ」
そして、誰かが言った。
「魔女だ」
笑い混じりだった。
だが妙にしっくりくる言葉だった。
王都は昔から、不安を誰かに押しつける。
火事があれば魔女。
不作があれば魔女。
そして今、生活が重い。
ならば原因は――魔女。
王城。
侍女が平民娘に報告する。
「市井で……そのような噂が」
「魔女、と」
平民娘は一瞬だけ目を細める。
「……魔女?」
震えない。
泣かない。
鏡に映る自分を見る。
豪奢な衣装。
宝石。
かつて市場で見上げていた王城の景色。
今はその内側。
彼女は静かに笑う。
「嫉妬よ」
侍女が戸惑う。
「ですが……」
「貴族も民も、私が王妃になるのが怖いの」
王太子が入ってくる。
「愚民どもが!」
「噂を流した者を捕らえる」
彼女は手を伸ばし、王太子の袖を掴む。
「いいえ」
王太子が驚く。
「放っておいて」
「恐れている証拠ですもの」
その目は冷たい。
「殿下、あなたは強くならなければ」
「古い貴族に遠慮する必要はありません」
王太子は頷く。
彼女の言葉に安堵する。
彼女はさらに続ける。
「公爵家に頼るから、足元を見られるのです」
「流通も軍も、あなたの名の下に統一すべき」
それは助言の形をした煽動。
王太子は拳を握る。
「そうだ……私は王になる」
彼女は微笑む。
その微笑みは柔らかい。
だが計算されている。
王都。
教会前。
老女が言う。
「王太子を惑わせたのだろう」
「王家の秩序を乱した」
「魔女に違いない」
証拠はない。
だが理由は十分。
王太子は変わった。
会議を軽んじるようになった。
諸侯に対して強硬になった。
婚約破棄も急いだ。
その背後に、彼女の声があったと囁かれる。
王城。
平民娘は侍女を下がらせる。
一人、窓辺に立つ。
王都を見下ろす。
「魔女……ね」
小さく笑う。
「なら、そう呼ばれてもいいわ」
「王妃になれるなら」
その声に迷いはない。
王太子が背後から言う。
「君を守る」
彼女は振り向く。
「守るのではなく、支配なさって」
その言葉に、王太子は気づかない。
彼女が求めているのは愛ではない。
地位。
力。
王座。
噂は広がる。
彼女は否定しない。
むしろ煽る。
貴族を軽んじる言葉が侍女を通じて漏れる。
「古い血は時代遅れ」
「平民でも王妃になれる時代」
その発言がさらに反感を買う。
魔女。
その言葉は、ただの噂ではなくなる。
象徴になる。
混乱の象徴。
そして野心の象徴。
まだ公式ではない。
だが民は感じている。
王太子は変わった。
王国は揺れた。
そして彼女は、揺れを恐れていない。
むしろ利用している。
刃はまだ振り下ろされていない。
だが研がれている。
確実に。
5
あなたにおすすめの小説
虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……
くわっと
恋愛
21.05.23完結
ーー
「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」
差し伸べられた手をするりとかわす。
これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。
決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。
彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。
だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。
地位も名誉も権力も。
武力も知力も財力も。
全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。
月並みに好きな自分が、ただただみっともない。
けれど、それでも。
一緒にいられるならば。
婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。
それだけで良かった。
少なくとも、その時は。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他
猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。
大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
妹の身代わり人生です。愛してくれた辺境伯の腕の中さえ妹のものになるようです。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。
※※※※※※※※※※※※※
双子として生まれたエレナとエレン。
かつては忌み子とされていた双子も何代か前の王によって、そういった扱いは禁止されたはずだった。
だけどいつの時代でも古い因習に囚われてしまう人達がいる。
エレナにとって不幸だったのはそれが実の両親だったということだった。
両親は妹のエレンだけを我が子(長女)として溺愛し、エレナは家族とさえ認められない日々を過ごしていた。
そんな中でエレンのミスによって辺境伯カナトス卿の令息リオネルがケガを負ってしまう。
療養期間の1年間、娘を差し出すよう求めてくるカナトス卿へ両親が差し出したのは、エレンではなくエレナだった。
エレンのフリをして初恋の相手のリオネルの元に向かうエレナは、そんな中でリオネルから優しさをむけてもらえる。
だが、その優しささえも本当はエレンへ向けられたものなのだ。
自分がニセモノだと知っている。
だから、この1年限りの恋をしよう。
そう心に決めてエレナは1年を過ごし始める。
※※※※※※※※※※※※※
異世界として、その世界特有の法や産物、鉱物、身分制度がある前提で書いています。
現実と違うな、という場面も多いと思います(すみません💦)
ファンタジーという事でゆるくとらえて頂けると助かります💦
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる