婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾

文字の大きさ
40 / 45

第四十話 じょおう に なりました

しおりを挟む

---

第四十話 じょおう に なりました

 その日、王宮はとても静かだった。

 悲しみは、もう荒れていない。
 疑いも、騒ぎも、落ち着いたあと。

 残ったのは――
 決めなければならないことだけだった。

 タナーは、大広間の中央に立っていた。
 背が届かないほど高い天井。
 けれど、不思議と怖くはなかった。

「第三王女タナー」

 国王の声は、いつもより少し低い。

「本日をもって、汝を
 次期女王に任命する」

 どよめきは、起きなかった。

 反対も、驚きも、ない。
 すでに、誰もが理解していた。

 第一王女と第二王女は、他国の妃。
 第一王子と第二王子は、事故で亡くなった。

 残る王族は――
 この、小さな少女だけ。

 タナーは、少し考えてから、頷いた。

「……はい」

 声は、小さい。
 でも、逃げていなかった。

「ひとつ だけ
 おねがい が あります」

 重臣たちが、息を詰める。

 国王は、静かに言った。

「申してみよ」

「……おみせ は
 やめ ません」

 一瞬の沈黙。

 だが、それは否定のためのものではなかった。

「問題ない」

 国王は、即答した。

「民の中で生き、民の声を知る女王は、
 悪くないどころか――望ましい」

 タナーは、ほっと息を吐いた。

「ありがとう ございます」

 儀式は、簡素だった。

 重たい冠は、まだ載せられない。
 長い誓いも、難しい言葉もない。

 ただ――
 名前が記され、
 印章が押され、
 未来が決まった。

 拍手は、控えめだった。
 それで、十分だった。

 午後。

 タナーは、いつものように街へ向かった。

 護衛は増えたが、距離を保っている。
 目立たないよう、静かに。

 看板は、変わらない。

 「かわいいもの やさん」

 扉を開ける。

「……ただいま」

 テイデイ・バトラーは、入口脇にいる。
 ドールは、静かに立っている。

 どちらも、何も言わない。
 それが、なにより安心だった。

 しばらくして、常連の女性が入ってきた。

「あ……」

 一瞬、視線が揺れる。

「……女王様、ですよね」

「はい」

 タナーは、頷いた。

「でも
 ここ では
 てんちょう です」

 女性は、少し考えてから、笑った。

「……じゃあ、いつも通りで」

「はい」

 お茶が淹れられる。
 冷めないカップ。
 静かな時間。

 誰も、玉座の話はしない。

 夕方。

 アンダーソンが、店に現れた。

「……おめでとうございます、陛下」

「ありがとう ございます」

「ですが……」

 彼は、店内を見回し、苦笑した。

「やはり、ここにいる時が一番、
 “あなたらしい”」

「はい」

「女王になっても、変わりませんな」

「……かわり ません」

 それは、誓いでも決意でもない。
 ただの、事実だった。

 夜。

 看板を裏返す。
 扉を閉める。

 通りは静か。
 でも、安心は残っている。

「……あした も
 あけ ます」

 返事はない。

 それでも、確かに。

 タナーは――
 女王になった。

 そして同時に、
 かわいいもの屋の店長のままだった。

 その両方でいられることが、
 この国にとっても、
 彼女にとっても――
 いちばん、よかった。


---
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。

ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。 王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。 しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!? 全18話。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...