『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾

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第1話 「幼すぎる」と切り捨てられた日

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第1話 「幼すぎる」と切り捨てられた日

 それは、あまりにも一方的な宣告だった。

「――シルフィーネ・エルフィンベルク。お前との婚約を、ここで破棄する」

 王都の社交界でも格式高い夜会の席。
 公爵家と伯爵家、双方の関係者が見守る中で、婚約者であるライオネルはそう言い放った。

 静まり返る会場。
 音楽も、囁き声も、すべてが一瞬で消え去ったかのようだった。

「理由は明白だ。お前は――幼すぎる」

 冷たく、突き放すような声音。
 まるで、そこに立つ彼女が“対等な存在”ですらないかのように。

 シルフィーネ・エルフィンベルクは、ゆっくりと瞬きをした。

 今年で十七歳。
 年齢だけを見れば、決して幼いわけではない。だが、成長が遅い体質のせいで、背も低く、体つきも華奢なまま。幼さの残る顔立ちは、昔から変わっていなかった。

 それが――罪だとでも言うのだろうか。

「……それが、理由ですか?」

 絞り出すように問うと、ライオネルは苛立たしげに眉をひそめた。

「当然だ。社交界に出しても見栄えがしない。隣に立たせれば、まるで子どもだ。将来を共に歩む相手として、相応しいとは言えない」

 その言葉に、周囲の貴族たちがひそひそと囁き始める。

「確かに……」 「公爵令嬢とはいえ、あの見た目では……」 「かわいらしい、とは思うけれどね」

 好奇と同情が入り混じった視線が、容赦なく突き刺さる。

 シルフィーネは、唇を噛みしめた。
 反論したかった。
 幼い見た目であっても、礼儀も、学問も、誰より努力してきたことを知ってほしかった。

 けれど――その言葉を口にする前に、ライオネルは追い打ちをかける。

「安心しろ。すでに次の婚約者は決まっている」

 そう言って、彼は一人の令嬢を手招きした。

「伯爵令嬢アメリアだ。聡明で、美しく、社交界でも評価が高い」

 アメリアは、勝ち誇ったような微笑みを浮かべ、シルフィーネの前に立つ。

「ごきげんよう、シルフィーネ様。……今まで、お疲れさまでしたわ」

 その声は柔らかいのに、瞳の奥には、隠しきれない優越感が滲んでいた。

 ――ああ、そういうことなのだ。

 シルフィーネは、すべてを悟った。

 “幼すぎる”という理由は、ただの口実。
 本当は、もっと分かりやすい理由があったのだ。

「……承知いたしました」

 驚くほど静かな声が、自分の口からこぼれ落ちた。

 周囲がざわつく。
 泣き叫ぶでもなく、縋るでもなく、ただ頭を下げるだけのその姿が、逆に異様だった。

「婚約破棄、受け入れます。これ以上、あなたのお時間を煩わせるわけにも参りませんから」

 ライオネルは一瞬、面食らったように目を見開いたが、すぐに鼻で笑った。

「そうか。物分かりがいいのは結構だ」

 その言葉に、胸の奥がひどく冷えた。

 ――結局、この人は。

 自分がどんな思いでこの場に立っているのか、考えようとすらしない。
 幼いのは、どちらなのだろう。

 夜会は、そのまま再開された。
 音楽が流れ、笑い声が戻り、人々は次々とシルフィーネから興味を失っていく。

 まるで、最初から“いなかった”かのように。

 会場を後にする廊下で、シルフィーネは一人立ち止まり、深く息を吐いた。

 泣かなかった。
 声も震えなかった。

 ただ――胸の奥に、静かで重たい何かが沈んでいくのを感じていた。

 この夜が、すべての終わりであり、
 そして――彼女の人生が大きく歪み始める夜であることを、
 まだ、誰も知らなかった。
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