『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』

鷹 綾

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第22話 国を見る目

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第22話 国を見る目

 ノルディア王城の回廊は、静かだった。

 華美な装飾はなく、代わりに整然とした石造りの壁と、無駄のない導線。
 シルフィーネは歩きながら、この国の「考え方」を感じ取っていた。

「まずは、城内を案内します」

 エドワルドはそう言って、先を歩く。
 護衛も侍従も最低限。見せたいのは“権威”ではないのだと、すぐに分かった。

 最初に通されたのは、執務官たちが働く区画だった。

 机に向かう者。
 地図を広げ、議論する者。
 年齢も身分もばらばらだが、誰もが自分の役割を理解している。

「……静かですね」

「必要以上に声を荒らげる理由がないからです」

 エドワルドの答えは簡潔だった。

「意見は、声量ではなく内容で通す。
 それが、この国のやり方です」

 胸の奥で、小さく何かが腑に落ちる。

 ――感情ではなく、判断。

 この国は、それを徹底している。



 次に案内されたのは、城下の一角だった。

 市場は活気がありながらも、混乱はない。
 商人と役人が自然に言葉を交わし、問題があればその場で調整している。

「……距離が近いのですね」

「国が大きくなりすぎないよう、意識しています」

 エドワルドは、露店に並ぶ品々を一瞥しながら言った。

「統治する側と、される側。
 その境界が曖昧になりすぎると、どちらも歪む」

 シルフィーネは、足を止めた。

「……殿下は、ご自身を“統治する側”だと?」

 問いは、慎重だった。

「ええ。否定はしません」

 即答だった。

「ただし、“上”に立つつもりもない」

 振り返り、まっすぐに彼女を見る。

「私は、責任の位置にいるだけです」

 その言葉に、虚飾はない。

 ――この人は、逃げない。



 城へ戻る途中、二人は小さな橋の上で足を止めた。

 下を流れる川は澄んでおり、子どもたちが水辺で遊んでいる。

「……不思議です」

 シルフィーネは、ぽつりと言った。

「殿下の国を見ていると……
 “誰かに選ばれなければ生きられない”という感覚が、薄い」

 エドワルドは、少し考えてから答える。

「この国では、
 “役割を果たすこと”が、存在価値です」

 だから、と続けた。

「生まれや外見で、価値が決まることはない」

 その一言が、胸に静かに響いた。

 彼女は、思い出す。
 幼すぎると言われた日々を。
 外見だけで切り捨てられた、あの瞬間を。

「……殿下」

「はい」

「もし私が、
 今も幼く見えるままだったら……」

 言葉を探し、続ける。

「それでも、ここへ招いていましたか?」

 沈黙が落ちる。

 だが、長くは続かなかった。

「招いていました」

 迷いのない声。

「むしろ、その場合こそ、
 あなたが“どう考える人間か”を知りたかった」

 その答えに、胸の奥が熱くなる。

 これは、甘い言葉ではない。
 評価でも、口説きでもない。

 ――価値観の提示だ。

「……ありがとうございます」

 それだけを言うのが、精一杯だった。



 城へ戻り、別れ際。

「今日は、いかがでしたか」

 エドワルドが問う。

 シルフィーネは、少し微笑んだ。

「……国を見るということが、
 人を見ることと、こんなにも近いとは思いませんでした」

 彼は、満足そうに頷いた。

「それなら、今日の目的は果たせましたね」

 この滞在は、試験ではない。
 だが確かに――互いを測る時間だ。

 シルフィーネは、はっきりと感じていた。

 この国では、
 自分は“飾り”にも、“戦利品”にもならない。

 ただ――
 一人の人間として、立つことができる。

 その事実が、
 彼女の中で、新しい未来の輪郭を描き始めていた。
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