完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾

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第4話 王国の異変

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第4話 王国の異変

 エリーカ・フォルティスが王都を発った、その翌日。

 王宮の執務棟では、朝から妙な空気が漂っていた。

「……あれ? この書類、誰が確認した?」

 財務官の一人が、積み上げられた書類を前に眉をひそめる。

「え? いつも通り、エリーカ様が……」

 言いかけて、言葉が途切れた。

 ――そうだ。
 もう、いないのだ。

「では、誰が?」

 互いに顔を見合わせる。
 答えは、出ない。

 通常であれば、税収報告、支出計画、各領地からの嘆願書は、すべて一度エリーカの手を経由していた。
 彼女が優先順位をつけ、危険な案件を弾き、判断が必要なものだけを王太子へ回す。

 それが、当たり前だった。

「……とりあえず、殿下に?」

「いや、これは判断を仰ぐ前に整理が……」

「整理って、誰がやるんだ?」

 沈黙。

 その頃、別の部屋では外交官たちが頭を抱えていた。

「隣国からの抗議文だ。文面が……ややこしい」

「以前なら、エリーカ様が要点だけ抜き出してくださったが……」

「このまま殿下に渡したら、逆上なさらないか?」

 不安が、静かに広がっていく。

 そして、問題はついに王太子のもとへ届いた。

「何だ、この量は」

 執務室で、レヴァンテは不機嫌そうに机を叩いた。
 目の前には、未整理の書類の山。

「昨日から、処理が遅れております」

「どうしてだ」

 側近が、言いづらそうに答える。

「……エリーカ様が、いらっしゃらないため」

 その名を聞いた瞬間、レヴァンテは鼻で笑った。

「大げさだな。
 書類仕事など、代わりはいくらでもいる」

 そう言いながら、彼は一枚を手に取った。

「……これは、何の件だ?」

「それは……南部領の税率改定に関する――」

「なぜ、そんな重要なものを今?」

「エリーカ様が、三ヶ月前から段階的に準備されていた案件です」

 レヴァンテの手が止まる。

「……三ヶ月前?」

 側近は、慎重に言葉を選んだ。

「はい。問題が起きる前に、必ず先回りして……」

「もういい」

 レヴァンテは書類を机に放り投げた。

「彼女がいなくとも、国は回る」

 そう言い切ったものの、
 執務室の空気は、どこか重かった。

 一方、王宮の別の場所では。

「予算案が未確定のままです」 「商人ギルドが返答を待っています」 「地方貴族からの抗議が増えています」

 小さな“滞り”が、いくつも発生していた。

 それらは一つひとつ見れば些細だ。
 だが、積み重なれば――確実に、国を蝕む。

 夕刻。

 レヴァンテは再び机に向かい、眉間にしわを寄せていた。

「……エリーカは、どこまで関わっていた?」

 側近が、答えに詰まる。

「……ほぼ、すべてに」

 その言葉に、レヴァンテは一瞬だけ、言葉を失った。

 だが、すぐに顔を背ける。

「だからといって、戻すつもりはない」

 自分に言い聞かせるように、呟いた。

「完璧すぎる女など、不要だ」

 しかし。

 その夜、王宮の灯はいつまでも消えなかった。

 書類は減らず、判断は滞り、
 誰もが気づき始めていた。

 ――何かが、おかしい、と。

 そしてまだ、
 それが“始まり”に過ぎないことを、
 彼らは知らない。


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