26 / 39
第27話 完全な逆転
しおりを挟む
第27話 完全な逆転
王都からの使者が到着したのは、正式なざまぁが記録された翌日のことだった。
外交使節団。
肩書きだけは立派で、態度は――驚くほど低い。
「公爵夫人エリーカ・フォン・グラーツ殿」
深く、深く頭を下げる。
「本日は、王都より“お願い”があり、参りました」
――お願い。
私は、内心で小さく区切りをつけた。
(ついに、この言葉が出た)
かつては、命令。
その前は、招待。
そして今は、懇願に近い依頼。
順序としては、実に分かりやすい。
「内容を伺いましょう」
私は淡々と促す。
「王都は現在、周辺国との調整に難航しております。
そこで――」
使者は一瞬言葉を詰まらせ、それから続けた。
「貴女のお力を、お借りできないかと」
部屋が静まり返る。
アンクレイブは口を挟まない。
完全に、私の判断に委ねている。
「具体的には?」
「物流、税制、外交調整……
以前、貴女が担っておられた分野です」
――以前、ね。
私は少しだけ微笑んだ。
「それは、もう私の職務ではありません」
即答だった。
使者が、目に見えて動揺する。
「ですが……王都は、今……」
「存じています」
私は遮るように言った。
「ですが、それは王都自身の問題です」
冷たい言葉ではない。
ただ、境界線を引いただけだ。
「私には、今、果たすべき責務があります」
そう言って、窓の外に視線を向ける。
整然と動く街。
改革の成果が、日常として根付き始めている。
「この国の未来に、集中しています」
沈黙。
使者は、深く息を吸った。
「……条件を、提示してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「王都での地位。
正式な権限。
前例のない裁量を――」
私は、首を振った。
「不要です」
きっぱりと。
「今さら、地位や権限で動く理由はありません」
使者の肩が、わずかに落ちる。
それを見て、私は続けた。
「ただし」
一瞬、希望の光が戻る。
「公国と王都が、対等な国家として協議する場であれば、
技術的助言は検討します」
「対等な……?」
「ええ。
上下関係のない、正式な外交の場です」
それは、救済ではない。
最低限の礼節を守れ、という条件だった。
使者は、深く頭を下げる。
「……持ち帰り、検討いたします」
その背中は、完全に“お願いする側”のそれだった。
使者が去った後、アンクレイブが静かに言った。
「情けをかけすぎでは?」
「いいえ」
私は、首を振る。
「線を引いただけです」
助けない。
だが、突き放しもしない。
――それが、最も冷静で、最も残酷。
「……君は」
アンクレイブが、わずかに笑う。
「本当に、王都を必要としなくなったな」
「ええ」
私は、穏やかに答える。
「もう、“戻る場所”ではありませんから」
その日の夜。
王都では、重臣たちが頭を抱えていた。
「……完全に、立場が逆だ」 「条件を出しても、動かない……」
レヴァンテは、静かに目を閉じた。
(ああ……)
彼女は、
失われた存在ではない。
自分たちの手で、遠ざけてしまった存在なのだ。
完全な逆転。
それは、怒号も、復讐もなく、
ただ淡々と――現実として突きつけられていた。
---
王都からの使者が到着したのは、正式なざまぁが記録された翌日のことだった。
外交使節団。
肩書きだけは立派で、態度は――驚くほど低い。
「公爵夫人エリーカ・フォン・グラーツ殿」
深く、深く頭を下げる。
「本日は、王都より“お願い”があり、参りました」
――お願い。
私は、内心で小さく区切りをつけた。
(ついに、この言葉が出た)
かつては、命令。
その前は、招待。
そして今は、懇願に近い依頼。
順序としては、実に分かりやすい。
「内容を伺いましょう」
私は淡々と促す。
「王都は現在、周辺国との調整に難航しております。
そこで――」
使者は一瞬言葉を詰まらせ、それから続けた。
「貴女のお力を、お借りできないかと」
部屋が静まり返る。
アンクレイブは口を挟まない。
完全に、私の判断に委ねている。
「具体的には?」
「物流、税制、外交調整……
以前、貴女が担っておられた分野です」
――以前、ね。
私は少しだけ微笑んだ。
「それは、もう私の職務ではありません」
即答だった。
使者が、目に見えて動揺する。
「ですが……王都は、今……」
「存じています」
私は遮るように言った。
「ですが、それは王都自身の問題です」
冷たい言葉ではない。
ただ、境界線を引いただけだ。
「私には、今、果たすべき責務があります」
そう言って、窓の外に視線を向ける。
整然と動く街。
改革の成果が、日常として根付き始めている。
「この国の未来に、集中しています」
沈黙。
使者は、深く息を吸った。
「……条件を、提示してもよろしいでしょうか」
「どうぞ」
「王都での地位。
正式な権限。
前例のない裁量を――」
私は、首を振った。
「不要です」
きっぱりと。
「今さら、地位や権限で動く理由はありません」
使者の肩が、わずかに落ちる。
それを見て、私は続けた。
「ただし」
一瞬、希望の光が戻る。
「公国と王都が、対等な国家として協議する場であれば、
技術的助言は検討します」
「対等な……?」
「ええ。
上下関係のない、正式な外交の場です」
それは、救済ではない。
最低限の礼節を守れ、という条件だった。
使者は、深く頭を下げる。
「……持ち帰り、検討いたします」
その背中は、完全に“お願いする側”のそれだった。
使者が去った後、アンクレイブが静かに言った。
「情けをかけすぎでは?」
「いいえ」
私は、首を振る。
「線を引いただけです」
助けない。
だが、突き放しもしない。
――それが、最も冷静で、最も残酷。
「……君は」
アンクレイブが、わずかに笑う。
「本当に、王都を必要としなくなったな」
「ええ」
私は、穏やかに答える。
「もう、“戻る場所”ではありませんから」
その日の夜。
王都では、重臣たちが頭を抱えていた。
「……完全に、立場が逆だ」 「条件を出しても、動かない……」
レヴァンテは、静かに目を閉じた。
(ああ……)
彼女は、
失われた存在ではない。
自分たちの手で、遠ざけてしまった存在なのだ。
完全な逆転。
それは、怒号も、復讐もなく、
ただ淡々と――現実として突きつけられていた。
---
70
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします
たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。
荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。
「この猫に構うな。人間嫌いだから」
冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。
猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。
白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活
しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。
新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。
二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。
ところが。
◆市場に行けばついてくる
◆荷物は全部持ちたがる
◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる
◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる
……どう見ても、干渉しまくり。
「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」
「……君のことを、放っておけない」
距離はゆっくり縮まり、
優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。
そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。
“冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え――
「二度と妻を侮辱するな」
守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、
いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。
出来損ないと呼ばれた公爵令嬢の結婚
奏千歌
恋愛
[できそこないと呼ばれても][魔王]
努力をしてきたつもりでした。
でもその結果が、私には学園に入学できるほどの学力がないというものでした。
できそこないと言われ、家から出ることを許されず、公爵家の家族としても認めてもらえず、使用人として働くことでしか、そこに私の居場所はありませんでした。
でも、それも、私が努力をすることができなかった結果で、悪いのは私のはずでした。
私が悪いのだと、何もかもを諦めていました。
諦めた果てに私に告げられたことは、魔法使いとの結婚でした。
田舎町に住む魔法使いさんは、どんな方なのか。
大きな不安を抱え、長い長い道のりを歩いて行きました。
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
断罪されていたはずなのですが、成り行きで辺境伯様に連れ去られた結果……。
水上
恋愛
リリア・アシュベリーは婚約者である第二王子ジェラルドと彼の隣にいるイザベラ・ローズによって、断罪されようとしていた。
しかし、その場に現れた辺境伯アルヴィス・グレンデルのおかげで、窮地を脱することができた。
さらに……。
「冤罪は晴らした。だが、ここの空気は知性が欠乏していて息苦しい。行くぞ、リリア。君のような希少な検体を、こんな場所に放置しておくわけにはいかない」
その手は、ジェラルドが一度も握ってくれなかったほど力強く、リリアの手首を引いた。
こうして、成り行きで彼に連れ去られたリリア。
その結果、新たな運命の歯車が動き始めたのだった。
【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~
遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。
「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」
彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。
瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット!
彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる!
その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。
一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。
知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!
婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております
鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。
彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う!
「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」
「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」
貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。
それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム!
そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。
ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。
婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。
そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!?
「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」
復讐も愛憎劇も不要!
ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!?
優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!
冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました
鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」
そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。
しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!?
だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。
「彼女を渡すつもりはない」
冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!?
毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし!
さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜――
リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される!
政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー!
「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる