完璧すぎると言われ婚約破棄された令嬢、冷徹公爵と白い結婚したら選ばれ続けました

鷹 綾

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第34話 白い結婚の終わり

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第34話 白い結婚の終わり

 その夜、城は不思議なほど静かだった。

 評議会の余韻が残っているはずなのに、
 廊下には足音も少なく、灯りも控えめだ。

 私は、自室で書類をまとめていた。
 だが、文字が頭に入ってこない。

(……来るわね)

 理由は分からない。
 けれど、確信だけがあった。

 控えめなノック音。

「エリーカ」

 予想通りの声。

「入ってください」

 扉が開き、アンクレイブが入ってくる。
 いつも通りのはずなのに、空気が違った。

「……遅い時間に、すまない」

「いいえ」

 私は、椅子から立ち上がった。

「評議会の件だが」

 彼は、真っ直ぐこちらを見る。

「取り消すつもりはない」

「分かっています」

 即答だった。

「私も、同じです」

 一瞬、沈黙。

 だが、それは迷いではない。

「エリーカ」

 彼は、少しだけ言葉を選ぶ。

「我々は、白い結婚として始めた」

「はい」

「それは、合理的で、必要な選択だった」

「ええ」

 否定する理由はない。
 あの時は、それが最善だった。

「だが」

 彼は、一歩近づく。

「今も、それを続ける理由はない」

 胸が、静かに高鳴る。

 逃げ場はない。
 逃げたいとも、思わない。

「……同感です」

 私は、視線を逸らさずに答えた。

「私はもう、“役割”としてここにいるわけではありません」

 選んだ場所。
 選んだ相手。

「なら、確認させてほしい」

 アンクレイブは、低い声で言う。

「君は、私の妻であり続けたいか」

 それは、命令でも提案でもない。
 選択を委ねる問いだった。

 一拍。

 私は、はっきりと答える。

「はい」

 理由は、いくらでもある。
 だが、言葉にする必要はなかった。

「ただし」

 私は、少しだけ微笑む。

「一方的な溺愛は、お断りします」

 彼は、一瞬目を瞬かせ、
 それから――本当に珍しく、苦笑した。

「……努力はする」

「“努力”ですか」

「無理なら、無理だ」

 その正直さに、思わず笑ってしまう。

 それは、
 完璧な公爵ではない、
 一人の男の言葉だった。

「では」

 私は、静かに言った。

「白い結婚は、ここで終わりですね」

「ああ」

 短い返事。
 だが、重みは十分だった。

 彼は、手を差し出す。

 私は、一瞬だけためらい――
 その手を取った。

 指先が触れた瞬間、
 契約でも義務でもない“温度”が伝わる。

「後悔は?」

「ありません」

 即答だった。

「むしろ」

 私は、少しだけ本音を零す。

「ずいぶん、遠回りをしました」

「同感だ」

 彼は、私の手を離さない。

 その夜、何かが劇的に変わったわけではない。

 だが。

 白い結婚は、確かに終わった。

 形式ではなく、
 静かな合意によって。

 そしてここから――
 もう戻る道は、存在しなかった。

次は
👉 第35話「溺愛の自覚」
・アンクレイブ側が完全に自覚する
・エリーカはまだ冷静(でも逃げない)

続けますか?



 その夜、城は不思議なほど静かだった。

 評議会の余韻が残っているはずなのに、
 廊下には足音も少なく、灯りも控えめだ。

 私は、自室で書類をまとめていた。
 だが、文字が頭に入ってこない。

(……来るわね)

 理由は分からない。
 けれど、確信だけがあった。

 控えめなノック音。

「エリーカ」

 予想通りの声。

「入ってください」

 扉が開き、アンクレイブが入ってくる。
 いつも通りのはずなのに、空気が違った。

「……遅い時間に、すまない」

「いいえ」

 私は、椅子から立ち上がった。

「評議会の件だが」

 彼は、真っ直ぐこちらを見る。

「取り消すつもりはない」

「分かっています」

 即答だった。

「私も、同じです」

 一瞬、沈黙。

 だが、それは迷いではない。

「エリーカ」

 彼は、少しだけ言葉を選ぶ。

「我々は、白い結婚として始めた」

「はい」

「それは、合理的で、必要な選択だった」

「ええ」

 否定する理由はない。
 あの時は、それが最善だった。

「だが」

 彼は、一歩近づく。

「今も、それを続ける理由はない」

 胸が、静かに高鳴る。

 逃げ場はない。
 逃げたいとも、思わない。

「……同感です」

 私は、視線を逸らさずに答えた。

「私はもう、“役割”としてここにいるわけではありません」

 選んだ場所。
 選んだ相手。

「なら、確認させてほしい」

 アンクレイブは、低い声で言う。

「君は、私の妻であり続けたいか」

 それは、命令でも提案でもない。
 選択を委ねる問いだった。

 一拍。

 私は、はっきりと答える。

「はい」

 理由は、いくらでもある。
 だが、言葉にする必要はなかった。

「ただし」

 私は、少しだけ微笑む。

「一方的な溺愛は、お断りします」

 彼は、一瞬目を瞬かせ、
 それから――本当に珍しく、苦笑した。

「……努力はする」

「“努力”ですか」

「無理なら、無理だ」

 その正直さに、思わず笑ってしまう。

 それは、
 完璧な公爵ではない、
 一人の男の言葉だった。

「では」

 私は、静かに言った。

「白い結婚は、ここで終わりですね」

「ああ」

 短い返事。
 だが、重みは十分だった。

 彼は、手を差し出す。

 私は、一瞬だけためらい――
 その手を取った。

 指先が触れた瞬間、
 契約でも義務でもない“温度”が伝わる。

「後悔は?」

「ありません」

 即答だった。

「むしろ」

 私は、少しだけ本音を零す。

「ずいぶん、遠回りをしました」

「同感だ」

 彼は、私の手を離さない。

 その夜、何かが劇的に変わったわけではない。

 だが。

 白い結婚は、確かに終わった。

 形式ではなく、
 静かな合意によって。

 そしてここから――
 もう戻る道は、存在しなかった。


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