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1 ファウスト
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久々に母国のファウスト帝国に転移で戻ってきました。
約1年ぶりでしょうか。
街並みは今も変わっていませんね。
過去に殿下とお忍びで街へおり、果実水を飲みながら眺めた女神像がありました。このファウスト帝国の建国者、ファウスト様です。
殿下は自身がファウスト様の子孫であることを、何度も誇らしげに語っていましたね。血筋マウントって頭悪いですよね。
ああ。侯爵令嬢だったあの頃が懐かしい。婚約破棄されたあの頃が怨めしい。そして今となってはちょっと恥ずかしい。いつかあんな事もあったなと笑い飛ばせる仲間が欲しい。
なんて晴れ渡る空を仰ぎつつも、ポケットに手を入れてファウスト帝国の通貨を握る。
広場に向かい、野菜や果物、精肉店を歩きながら眺め、活気のある人々の姿に安心しました。市場で買い物するのも久々です。ドーナッツ店で足を止め、ファミリーパックになっていた十個入りのドーナッツをお買い上げすることにしました。
「べっぴんさんだな。ひとつ……いや三つおまけしとくよ」
「あらやだこの男前! 口説いたって投げキッスくらいしか返せないわよん♪」
「美女の投げキッス、悩殺されたぜ♪」
太っ腹な店主でした。
「おまけのドーナッツは今夜全裸で頂くわ」
「おう。なら今夜のオカズにするぜ」
なかなかのノリがいい店主です。
もう少し会話を楽しみたかったのですが、そろそろ時間切れです。遠くから私に気付いた殿下が走ってこちらに向かってきてます。
「リースベル・パパイヤ侯爵令嬢! 貴様いつの間に戻ってきていた!」
「あらロビンソン・バナナ王太子殿下、ごきげんよう」
ファウスト帝国ではいまや私は第一級犯罪者です。そこらじゅうに指名手配書が貼られています。今いる市場にも。
「……悪ぃな。わざと会話を繋げて、時間稼ぎをさせてもらったぜ」
もちろん先程のドーナッツ店にも私の似顔絵が貼られています。
「いいの。貴方との会話は、とても素敵な時間だったから」
「……そうか。来世では妻になってくれ」
「それは私の為に毎日ドーナッツを揚げたいと、そういう意味と捉えるわよ?」
「あんたの為ならいくらでも揚げてやるぜ。俺のドーナッツを毎日食べてくれるなら、手酷く火傷したって構わない」
「ほんと時間稼ぎがお上手だこと」
とうとう殿下に肩を鷲掴まれてしまいました。
「リースベル、貴様!」
「ロビンソン殿下、お久し振りですわね。その節は色々ありましたが今となっては思い返す度に笑えますわねぇ~」
「ふざけるな!」
ですよね。
笑い飛ばせるお友達にはなれませんわよね。
「何故戻ってきた! 貴様は国外追放処分だろう!」
「ええ。でも余った小銭を全部使いきろうかと」
「ふざけるな! この国に再び足を踏み入れたからには極刑に処す! 王宮まで拘束させてもらうぞ!」
「はいはい」
「なんだその態度は!」
「はいはい。いいですよ別に。そんなに怒らなくても去りますよ。はいさようなら」
「っ、」
約1年ぶりでしょうか。
街並みは今も変わっていませんね。
過去に殿下とお忍びで街へおり、果実水を飲みながら眺めた女神像がありました。このファウスト帝国の建国者、ファウスト様です。
殿下は自身がファウスト様の子孫であることを、何度も誇らしげに語っていましたね。血筋マウントって頭悪いですよね。
ああ。侯爵令嬢だったあの頃が懐かしい。婚約破棄されたあの頃が怨めしい。そして今となってはちょっと恥ずかしい。いつかあんな事もあったなと笑い飛ばせる仲間が欲しい。
なんて晴れ渡る空を仰ぎつつも、ポケットに手を入れてファウスト帝国の通貨を握る。
広場に向かい、野菜や果物、精肉店を歩きながら眺め、活気のある人々の姿に安心しました。市場で買い物するのも久々です。ドーナッツ店で足を止め、ファミリーパックになっていた十個入りのドーナッツをお買い上げすることにしました。
「べっぴんさんだな。ひとつ……いや三つおまけしとくよ」
「あらやだこの男前! 口説いたって投げキッスくらいしか返せないわよん♪」
「美女の投げキッス、悩殺されたぜ♪」
太っ腹な店主でした。
「おまけのドーナッツは今夜全裸で頂くわ」
「おう。なら今夜のオカズにするぜ」
なかなかのノリがいい店主です。
もう少し会話を楽しみたかったのですが、そろそろ時間切れです。遠くから私に気付いた殿下が走ってこちらに向かってきてます。
「リースベル・パパイヤ侯爵令嬢! 貴様いつの間に戻ってきていた!」
「あらロビンソン・バナナ王太子殿下、ごきげんよう」
ファウスト帝国ではいまや私は第一級犯罪者です。そこらじゅうに指名手配書が貼られています。今いる市場にも。
「……悪ぃな。わざと会話を繋げて、時間稼ぎをさせてもらったぜ」
もちろん先程のドーナッツ店にも私の似顔絵が貼られています。
「いいの。貴方との会話は、とても素敵な時間だったから」
「……そうか。来世では妻になってくれ」
「それは私の為に毎日ドーナッツを揚げたいと、そういう意味と捉えるわよ?」
「あんたの為ならいくらでも揚げてやるぜ。俺のドーナッツを毎日食べてくれるなら、手酷く火傷したって構わない」
「ほんと時間稼ぎがお上手だこと」
とうとう殿下に肩を鷲掴まれてしまいました。
「リースベル、貴様!」
「ロビンソン殿下、お久し振りですわね。その節は色々ありましたが今となっては思い返す度に笑えますわねぇ~」
「ふざけるな!」
ですよね。
笑い飛ばせるお友達にはなれませんわよね。
「何故戻ってきた! 貴様は国外追放処分だろう!」
「ええ。でも余った小銭を全部使いきろうかと」
「ふざけるな! この国に再び足を踏み入れたからには極刑に処す! 王宮まで拘束させてもらうぞ!」
「はいはい」
「なんだその態度は!」
「はいはい。いいですよ別に。そんなに怒らなくても去りますよ。はいさようなら」
「っ、」
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