ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星

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・偽わりの花嫁と竜のイノセント

2 オウルの歌声 sideイブキ

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 大広間には大勢の貴族たちが集まっていた。ユキの歌と祝福を見るために人だかりになっている。あんまり人混みが多いところは苦手なんだよな。でも、アルミュール国のためだ。

「ピィピ?」
「あ、ああ。大丈夫だよ。さあ、ユキ、素敵な声を聞かせておくれ」
「ピ!…ピィーピピピ。ピィピー……♪」
 ユキの澄んだ歌声が響き渡る。そのまま、ぱたぱたと飛び立つと一周して僕の肩に戻ってくる。

「んまあ、きれいだわ」
「なんだか、心が洗われたようですわ」
「ええ。体が軽くなりましたわ」
 よし、披露したぞ。いつもこの後が大変なのだ。僕はすぐにぺこりとお辞儀をすると逃げるようにその場を去る。
「ご清聴ありがとうございました!」

「その聖獣はどうやって手に入れたんだい」
「我が国にも一匹欲しいものだ」
「ちょっと。お待ちになって。ぜひお話を…」
 貴族の一人に腕をつかまれそうになって、護衛騎士であるデニスが前に出る。
「イブキ様にご無体をなされぬように。聖獣使いのイブキ様は陛下と同等の地位であられますぞ!」

 凄い地位になっているけど、これもエルシドが考えのひとつらしい。今まで、聖獣の使いなんて現れたことがなかったんだから、そんな位付けなんてのもなかったらしい。でも、これからは、聖獣はこの国の象徴ともなるだろうから、意思が通じる僕は、その位の立場にしておかないと、後々いろいろなことに巻き込まれる可能性が高いと言われたんだ。まあ、この期間限定だと思うけど。

「そ、それでも、話しくらいいいでしょ!」
「だめだと言ったらだめだ!」
 今日のご婦人達は、やけにしつこいな。デニスが対応してくれてる間に、この場を離れなくちゃ!

 来賓客は王宮の奥部までは来ることはできない。大広間さえ抜ければ何とか逃げ切れるかも。エルシドの前では、僕も役に立ちたいなんて言ったけど、人見知りはまだ解消できそうにもないや。

「こっちよ!」
 柱の陰から手招きをする人が居た。見たことがある来賓の方だけど、どうしようか。
「ピピッ!」
 ユキも同意するように返事をした。じゃあ、ついて行くしかないか。
 きれいな金髪の巻き毛が揺れる。この方の名前は確か…アリアージュ姫だ!
「さあ、あちらの生垣の陰に!」
「は、はい!」
 すごい。この姫様、足が速い!僕ってば運動不足なのかな。それに、この人、体幹がしっかりしている。体操選手みたい?運動が趣味なのかな?

「……イブ……さまー!どこ……か?」
 後ろの方で声がする。僕を追ってきたのか?デニスなのか?
「見つかるわ!」
 ぼすっ!とそのまま植え込みに突っ込まれた。ぐぇっ。乱暴だなと思ったが、姫も一緒に突っ込んできたから、何にも言えなくなってしまった。

「ピピッピッ」
 ユキが笑ってるように聞こえる。どうやら遊んでいると思っているようだ。
「しぃ。かくれんぼだよ。大人しく僕の懐に入っていてね」
 言われるままにユキが僕の胸元で丸くなる。ふわふわしてて暖かい。

 コツコツと靴音が聞こえる。僕たちを探しているのだろうか。足音が聞こえなくなるまで息をひそめてじっとしていると、やがて聞こえなくなる。
「行ったかしら?」
「そうみたいですね。助かりました」

 がさがさと植え込みを抜けると花壇に出た。隣にいるアリアージュ姫はドレスは土埃で汚れ、頭には葉っぱがついている。せっかくの綺麗な巻き毛が乱れ、ヘヤスタイルが崩れてしまっていた。

「ふっふふ。あ、ごめんなさい!女性を見て笑うなんて」
「そんなにひどい恰好になってるかしら? くくく。あなたもかなりひどいわよ」
 足元をみると靴はどろどろだし、ズボンもシャツにも葉っぱがついていた。きっと僕の頭にもついているのだろう。

「ふむ。まさかと思うが、こんなところで、逢瀬を楽しんでたっていうんじゃないだろうな?」
「へ? アーベル様?」
「え? アーベル様ですって?」

 突然声をかけられて、振り返ると、そこにはアーベル王が立っていた。あれ?この状況ってマズイの?女性と二人きりで、服や髪が乱れてるって、変な想像されないのか?

「ち、違うんです。ぼ、ぼく。あの、服は汚れましたが」
「服が汚れるようなことを二人でしていたのかい?」
「ひゃーっ。し、してません、いや、してたのか?ってやましいことじゃなくって」
 あわあわする僕を見て、アーベル王が噴き出した。
「ぷっくくくく。あははは」
「もぉ。アーベル様は人が悪いですね。私たちが植え込みをかき分けて出てきたところをみてらしたんでしょ?」

 アリアージュが苦笑しながら言うと、アーベル王が笑みを深めた。
「イブキだけならともかく、君が一緒だったからな。面白そうだと思ってな」

 あれ?なんかいい雰囲気なのかな?アーベル様のこんな優しそうな顔始めて見た。
「面白そうとは失礼じゃありませんか?」
「いや、だって、君。ドレス姿で植え込みに突っ込むなんて……あははは」
「あの。彼女は僕を助けてくれたのです」
「イブキを? 何があったんだい?」

 そこから僕は、ユキのお披露目が少し苦手になってきたことを話した。
「イブキに負担をかけるつもりはなかったのだが、悪いことをしたな。すまない」
「い、いえ、アーベル様が悪いわけではなくて、僕が頼りないのがいけないんです」

「もっと護衛を増やしたらどうだい?」
「それが、初日は警護が厳重すぎて、ユキが神経質になりあまり歌声を披露できなかったんです。徐々に人数を減らした結果、普段から一緒に居るデニスだけの時が、機嫌よく歌えることが分かったんです」
「そうだったのか。まあ、大広間には兵士たちが巡回しているから、イブキのまわりに集まらなくてもいいだろうが」
「この国が聖獣の国と印象付けるためにも、この期間はユキをもっとお披露めさせないといけないって、わかっているのにごめんなさい」

「無理にされなくてもよいのじゃありませんか?」
「え? どうして?」
「もう十分にすごいと思ってますもの」
「そうだな。ここ連日ユキは歌って祝福もしてくれていた。とても楽し気に飛んでいたから、イブキがそんなに苦労しているとは思っていなかったのだ」
「ユキは、おそらく遊んでもらっていると思ってるようです。お歌を歌って踊りましょうって感じでしょうか?」
「ふふふ。なあにそれ。聖獣って可愛いのね」

「ピィ?」
 ユキが呼ばれたと思ったのか、僕の懐から出てきた。
「まあ、こんなに近くで見られるなんて! 少し触ってもいいかしら?」
「やわらかいぞ。エルシドがいつも毛玉と呼んでいるくらいだからな」

 アリアージュがそっとユキの頭をなでる。なでられたユキは小首を傾けた。
「もふもふだわ! ふふ。可愛いわね」
「そうだろう? ユキは君に似ていると思うよ。アリアージュ」
 アーベル様がアリアージュ姫の頭についた葉っぱを取りながら笑顔で答える。
「あら、私に似てるなんて聖獣に失礼ですよ」

 何だろう。この展開。僕ってお邪魔なんじゃないかな。それにアーベル様ってこんな場所にいてもいいのだろうか? 花嫁候補たちのお相手をしないといけないんじゃいけないのかな?
 ひょっとして、アリアージュ姫を探していたのかな?

「ねえ、イブキ様。聖獣のことをもっと教えてくださいな」
「え? あ、はい。聖獣であるオウルのユキは、産まれたときに最初に見た僕を親のように慕ってくれているんです」  

 僕はこの世界に来る前は獣医になるつもりで動物の勉強をしていた。オウルは僕の世界のフクロウに似ている。だけどこの世界のフクロウは雑食だし、僕の食べるものやすることをなんでも真似ようとする。知能も高いし、ときどき神様みたいだって思うこともある。
「それに、ユキはほかの動物を呼んだり、僕と動物の間に入って通訳みたいなこともしてくれるんですよ」

「へえ、すごいわね。他の動物を呼べるなんて……」

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