ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星

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・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する

29)宿屋 sideイブキ

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 ファーストキスだったんだ。それなのに。いや、僕を助けようとしてくれた事には感謝している。相手がエルシドだった事もとても嬉しい。

 エルシドを好きだと自覚してからは一緒に居るだけでテンションが上がる。かっこいいし優しいし頼りがいがある。日に日に好きという気持ちが大きくなるけれど、エルシドはそうじゃないのだろう。

 キスされてるとわかった時は心臓が飛び出るかと思った。嬉しいのと恥ずかしいのと何故という疑問で頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。綺麗な青い瞳が僕の目の前にあって。エルシドの唇がしっとりと濡れていて。とっても艶っぽかった。

 まさかエルシドも僕に好意を持ってくれてるのか?と期待しそうになった。でも……

 彼は僕が魔力切れになるのを心配して自分の魔力を分けてくれていただけだったのだ。一瞬でも勘違いしそうになった自分が恥ずかしくってそこからはもう目が合わせられなくなってしまった。
 
 身体がだるかったのはエルシドと一緒に出掛けられるというのが楽しみすぎて、昨夜はなかなか眠れなかったせいだ。そのまま瘴気の沼まで緊張しながらやって来た上に皇子との事があって一気に疲れが出てしまった。それをエルシドは魔力切れだと思い違いをしたのだろう。僕もはっきり言わなかったのが悪いんだけど。

 エルシドとのキス。僕が寝込んでた時は毎日してくれていたのか。彼の唇が僕の……。

「ピィ!」
「わわわ!」
 耳元で急に鳴き声がしてびっくりした。馬車の中での出来事を思い返していたのでユキが肩に登ってきているのに気付かなかった。

「ごめんごめん。起きたんだね?おはよう」
「ピィ?ピー?」
「ああ。ここかい?僕とユキの部屋だよ。今日は宿屋に泊まるんだ」

 
 馬車が宿屋に着くまで結局二人とも無言のままだった。せっかくエルシドと二人っきりだったのに。何を言って良いのかわからなくなってしまったんだ。

 それでも屋敷以外の場所で泊まるのは初めてで、ログハウス調の屋根が見えた時はワクワクした。僕が貴族が泊まる宿ではなく普通の宿屋に泊まりたいと希望したので、旅の宿のような場所を選んでくれたようだった。

 魔道具らしい薄手のポンチョを羽織ると自動的に僕もエルシドも平民としか認識されなくなるらしい。

 一階が食堂で二階が宿泊施設。僕とエルシドは隣同士の部屋だ。部屋にはシングルベットがひとつ。小さなテーブルとソファーがひとつ。ビジネスホテルくらいの広さと思えばいいのかな?でもこの世界にはテレビもスマホもない。

 それで不便を感じるかと問われたらそうでもないと答えてしまう。デジタルや電動機器がない代わりに魔道具があるからだ。


「ピ!」
 ユキがふるふると身体を震わすとふわりと浮いた。丸い体の左右からちょこっと羽のようなものが見えいそがに動いている。

 パタパタ……ぽて。ころん。

 何今の?飛べるようになったってこと?今は転がっているけれど。

「凄いね!ユキ。飛べるんだね!」
「ピ!」
 パタパタ……ぽて。

「ピィ?」
 ユキが部屋の窓の方を見て首をかしげている。

「どうしたの?何が気になるの?」
 窓辺に近寄るとリスもどきが見える。リスに似てるけど尻尾がふたつ生えている小動物だ。ふりふりと尻尾を振ってこちらを見ている。ユキが気になるのかもしれない。

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