ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星

文字の大きさ
37 / 99
・腹黒宰相は異世界転移のモブを溺愛する

36)ウォルフ sideイブキ

しおりを挟む
 馬車はここまでということで僕はまたエルシドの馬に相乗りさせてもらっている。

 昨日の泉から少し離れた場所に小さな森があった。静かすぎる気がする。馬を降りるとユキが僕の懐から出て来てエルシドに向かってぱたぱたと飛び出した。団長の目がそれを凝視している。ほんの20~30センチほど飛んだだけだが、朝よりも上手に飛べてる様に思える。

「ユキが飛んでいる」
「鳥だから飛ぶだろうよ」
「だが、こんなにも小さいのだぞ!」
「小さくてもオウルだ。叡智の王を馬鹿にするんじゃないぞ」

「なぜエルシドにも慣れているのだ。お前の肩にも乗るなんて」
「慣れたらお前の肩にも乗るんじゃないのか?」
「ほんとか!慣れるまでエルシドの元に通い続ける」
「やめてくれ。お前はお前の仕事をしろ!」

 二人のやりとりを聞いているだけで楽しくなる。喧嘩するほど仲が良いって言うけれど。この二人はいいコンビなんだな。



 森の奥は薄暗かった。ここまで瘴気の影響が出ていたのかもしれない。そうか、この辺りに出ていた魔獣って瘴気に侵されたこの森の動物達だったのかもしれない。
 
 グルル……。

 唸り声だ。僕らに来るなと威嚇しているみたいだ。


「いるな」
 団長さんが剣を抜くと辺りが明るくなった。きっと由緒ある代物なのだろう。

団長ユリシーズ、待て。様子を見るんだ」
「わかった。イブ、声をかけてみてくれ」
「僕らは悪い者じゃないよ。近づいてもいいかい?」

「ピィ!」
 ユキの鳴き声に反応したようで警戒感が薄まった気がした。団長が鬱蒼うっそうとした枝を切り視界を広げると、そこには青い犬がいた。違う、これは狼だ。辺りには黒い死骸が散らばっている。

「……ウォルフだ」
「この子はこの森の主でしょうか?仲間を守るために魔獣と戦ったのかもしれません」

「瘴気にも少し侵されてるようだな」
 後ろ足が少し黒ずんでいた。僕は迷わず駆け寄る。ウォルフはもう威嚇することもなかった。

「イブ、気を付けるんだぞ」
「わかっています。でも助けたいんだ」
 いつのまにか僕らの周りには動物たちが集まってきていた。皆心配していたのだろう。

「キミは仲間みんなを守るために戦ったんだね?偉いよ。本当に勇敢な戦士だ」
 僕が撫でると目を細めた。だが傷がかなり深そうだ。どうしてここには手術道具がないんだ!悔しい。でも僕の未熟な腕ではこんなに酷い怪我は治せないかもしれない。


「イブ、昨日の事を思い出せ。皇子に教えた通りにやってみるんだ」
「昨日の?そうか、手に力を集めてみる!」
 エルシドに言われた通りに。どうか治りますようにと願いを込めて僕はウォルフに手のひらを当て続けた。白い光が手の周りに現れる。傷がどんどん塞がっていく。同時に身体のチカラが吸い取られる感じがする。

「クゥン」
 ウォルフが僕の手を舐める。くすぐったい。後ろ足の黒ずみも消えている。もう大丈夫かな?さっきは必死だったからわからなかったけど。ウォルフは綺麗な毛並みだった。

「もふもふだね。ふふ。いいこだ」
 わしゃわしゃと顎の下や耳の後ろを撫でまわしてやる。ふわふわの尻尾が揺れているところを見ると気持ち良いんだな。とても賢そうな顔立ちだ。

 
 団長さんが僕のすぐ隣にしゃがみこんだ。大きい体を丸める様にしてウォルフを見つめている。

「俺が触っても怖がらないだろうか」
「クゥ……」

 ウォルフが、目の前でごろりと寝ころんだ。お腹を見せてくれるなんて。警戒を解いてくれている証だ。

「いいみたいですよ。優しく撫でてやってください」
「そ、そうか。では……」
 団長さんは確かめる様にゆっくりと撫でていた。尻尾が揺れている。ウォルフと団長さんは相性が良いのかもしれない。

「ウォルフは俺の守護獣なのだ」
 そういえば団長さんのミドルネームはウォルフだった。

「自分の守護獣に会えるのはまれなんだよ。一生かかっても会えない場合の方が多いのだ」
 エルシドが後ろから僕の頭を撫でる。また子供扱いしているな。

「イブのおかげだ」
「僕は何もしていませんよ」

「動物を惹きつけ、癒やすこともできるなんて。これがイブのチカラだと俺は思うぞ」

「僕のチカラ?それってもふもふ達と仲良くなれるチカラってことでしょうか?あんまり強くなさそうですね」

「ははは。強さは俺がいるではないか!」
「そうだな。賢さは俺かな?」
「エルシド。自分で賢いとおごりり高ぶる人間にロクな者はいないぞ」
「お前なあ、そこはそうだねでいいんじゃねえのか」

「ふふふ」
 やっぱりこの二人のやり取りは面白い。それにエルシドが僕にもチカラがあると言ってくれた。
 じゃあ、もう僕はモブじゃない?嬉しい。じんわりと胸に暖かいものが広がる。


 帰路の途中でエルシドが頬を撫でてきた。
「疲れてはいないか?チカラを使うという事は体内の魔力を使うという事だ。休めば徐々に復活するが無理はいけない。使うたびに自然と身体が覚えていくようになるからな」

「はい。もう倒れるようにな事はしません」
「ああ。帰ったらクラークに相談して少しづつ練習すればいい」
「はい。やってみます」

「でもまあ、たまに倒れてくれてもかまわないんだがな」
 魔力譲渡の事を言ってるんだな?自分の顔が熱くなっていくのがわかる。
「からかわないでください!」
 くくく。と僕の耳元で笑う。もう、人の気も知らないで!



しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

愛しの妻は黒の魔王!?

ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」 ――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。 皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。 身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。 魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。 表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます! 11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!

花屋の息子

きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。 森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___? 瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け の、お話です。 不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。 攻めが出てくるまでちょっとかかります。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」 最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。 そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。 亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。 「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」 ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。 彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。 悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。 ※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。   ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...