ブラッドフォード卿のお気に召すままに

ゆうきぼし/優輝星

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外伝

暁の回想3

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「……俺のような者に気安くそんな事をいうものではありません」
 王子からすれば俺は素性のしれぬ者のはずだ。賊と同じかもしれないというのに。
「いや、城内の者よりは信頼できる」
「城内の者より?ならばこういう事はよくあるということでしょうか?」
「そうだね。何故か兄さまより僕のほうがよく狙われる。先日も護衛騎士がやられてしまった。僕の警護につくものは早死にしてしまうらしいよ」
 苦笑しながら寂しそうに語る姿に胸が詰まる。兄より狙われるという事は第二王子ということか。俺が城を後にした時はまだヤンチャで笑顔の絶えない幼児だったのに。
「ヘルマンからは意志の強さと僕への敬愛が感じられる。物心ついた時から僕に対して悪意をもっているのかそうでないのかがわかるようになってきたんだ」
 それは王としての秘めた力なのか?
「その力の事は他言なさらないほうがよろしいかと存じます。誰が聞いているかわかりませんので」
「なるほど。それもそうだな。ヘルマン。護衛だけでなく僕の専属の執事になってくれないか」
「執事ですか?」
 なんと。俺は格闘技しかやってこなかった男だぞ。潜入捜査時に執事のまねごとをした程度だ。
「お前は強くて頭の回転もいい。それに僕に意見を言ってくるところが気に入った。常に僕の傍にいて助けてくれないか?僕には信頼できる見方が必要なのだ」
 常に傍にいる。それこそ俺が求めていた言葉だったのではないだろうか?兄王を救えなかった今、その息子である王子を守る事が俺の使命のように感じた。
「かしこまりました。このヘルマン命に代えましてもアーベル様にお仕えいたします」

 こうして俺はアーベル様の側近の座を得たのだった。

 心配した王からの尋問や打診すらない。部屋に忍び込んだものがいると探されると思っていたのだが、そんな形跡すらない。俺のことは幻影とでも思われたのだろうか。
「あれは王の覇気だった」
 あの王は俺の主なのか?いや、王弟なのだから王としての素質は持ち合わせていたのかもしれない。

「ヘルマン!」
 アーベル様の声だ。弾かれたように俺の思考が戻ってくる。
「いかがされました!」 
 すぐさま部屋に出向くと顔面蒼白で俺に抱きつく。アーベル様はときどきこうして夜中に飛び起きる事がある。
「怖い夢を見られたのですね」
「ヘルマン。僕は生きているか?」
 震える声で俺に確認を取る姿が痛々しい。この方はいったいいくつの歳から命を狙われていたのだろうか?
「ええ。元気でいらっしゃいますよ」
 ゆっくりと背中を撫でてやるとホッとしたのか顔色が戻ってきた。
「そうか。……夢だったのだな。呼びたててすまない」
「いえいえ。かまいませんよ。今夜はおやすみになるまで傍におりますゆえ」
「眠くなるまで、またお前の武勇伝を聞かせてくれないか」
「ええ。よろしいですよ」
 俺は兄王と回ったいくつかの旅の話を元に、面白おかしく、王とはこうあって欲しいという事を語った。アーベル様は旅の冒険談を聞くのが好きでよく俺にこの話を聞かせて欲しいとねだってくれた。

「この方を守らなければ」
 俺が傍につくようになってから、夜襲はかなり減った。だが未だに刺客は送られてくる。指図をしているのは第一王子派の貴族のようだ。何故なら王がまだ継承順位が第一位の王太子を決めかねているからだ。本来なら第一王子が指名されるはずなのだから焦らずまっておればいいものを。

 第一王子は物静かで、よく言えば温和で人当たりよく、悪く言えば自主性があまりないタイプだった。それに引き換え、第二王子は利発で幼いながらも直感が優れており問題解決能力などが高く、兄王を彷彿させるところが多かった。王子たちに悪気がなくとも自然と評判が良い方に視線が集まる。アーベル様は第一王子派にとって邪魔な存在なのだろう。

 王は相変わらずだ。王座に座り家臣の言う事に頷くだけだ。だが、兄王と共に国を守っていた頃を思い出すのか、時折王らしい威厳を見せる時もあるらしい。しばらくはそれでいいだろう。あれだけ諸国を回り国の為に尽力をつくした兄王の力が効いているだろうから。

 今はただ、アーベル様の成長だけを見守る事にした。俺が守らなければ誰が守るというのだ?王子に興味すら持たない王に失望と憂いを感じる。だがもう俺の言葉は王の耳には届かないだろう。それよりもアーベル様の、第二王子という立場をしっかりと安定させ、揺るぎないものにしなければならない。

◇◆◇

 王子たちの成長とともに月日は過ぎていく。アーベル様も最近はあどけなさが抜け、骨格が少年から青年へと変わりつつあった。ますます容姿が俺の主であった兄王に似てくる。誇らしいような懐かしいような気持ちでいっぱいになる。

 最近やっと第一王子が王太子として認められたようで、刺客の手がやんだ。少しは気が休めるかと思っていたが、ここでまた一つ不安要素がでてきた。
「アーベル様、昨夜はどこに行かれてたのですか?」
 本当は後をつけていたのでどこに行っていたのかは知っているのだが。
「ヘルマン。心配かけてすまないな。ちょっと友人のところに行っていたのだよ」
「ブラッドフォード家のご子息ですな」
「なんだ知っていたのか。勉学に勤しんでいたのだ」
「さようでございますか?しかし、私の耳にはどこぞの酒場でアーベル様とよく似た者がいたと」
「はっはっは。社会勉強だよ」
 あっさりと白状されてこちらのほうが慌ててしまう。
「お認めになるのですか?」
「ああ。ヘルマンには嘘をつかないと前に誓ったであろう?」
 俺がアーベル様に生涯かけて守ると誓った時に、同じくアーベル様は俺に嘘は絶対につかないと誓われたのだ。その時の誓いを今なお守っていただけている事が嬉しい。嬉しいが、それはそれだ。
「ブラッドフォード家のご子息はあまりいい噂をききません。学友にされるのはいかがかと」
「ヘルマン。彼には兄がいるのだよ」
 それも知っている。しかも第一王子の取り巻きの一人だ。
「二番目に生まれた者にしかわからない事もあるのだ」
「……それは……」
「彼とは気が合うんだ。私は初めて親友というものを得たのかもしれない」
「……ぐっ」
 アーベル様にそこまで言われると俺が言えることはないではないか。

 これは秘密裏にブラッドフォード家に忍び込み、その内情を探っておいた方がいいのかもしれない。もしも、アーベル様に害になるようなら早めに手を打たなければ。

「ヘルマン。忠告しておくけどエルシドは一筋縄ではいかないよ」

 にこにこと笑顔でアーベル様が答える。この方には俺の考えはどこまで読まれているのだろう。末恐ろしいが、またそれだけ大きい器として期待値も大きい。やはりこの方は王になる方だ。
 
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