【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星

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プロローグ

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 近未来的なファンタジー都市ネオ・エリュシオンは魔法とテクノロジーが融合した帝国で、魔力は「コード」と呼ばれるナノマシン技術に接続されており、魔力の有無が社会階級を決定していた。貴族はコードを操る「マギアコマンド」として権力を握るが、魔力を持たない者は「ノンコード」として差別されていた。


 曇天の中、引きずられるように処刑台の階段を一歩ずつ歩かされる。どうしてこうなったのか意味がわからない。何度も無実を訴えたが誰も聞き入れてはくれなかった。
「早く歩け! 国家転覆を謀る反逆者め!」
「何かの間違いです! どうかもう一度調べて下さい!」
「うるさい! お前のようなゴミは断罪されるべきだ! 我が家名を名乗った事が腹正しい」と、異母弟のジェレミアの声が響く。そうだ、彼の方が僕なんかよりもよっぽど侯爵家の嫡男らしい。僕は唇を噛み、喉の奥で嗚咽を押し殺した。そんなに僕が邪魔だったのか。
 僕はルーン・ヴァルトゼーレ。側室の子として侯爵家に生まれた。最初に生まれた男子だったために嫡男として登録されたが、魔力測定の日に奈落に落とされる。僕は魔力「コード」を持たない「ノンコード」だったのだ。そのため母の不倫の子と噂され、家族からも貴族からも虐げられてきた。今までも数々の嫌がらせを受けてきたのだ。これも正室派の陰謀に違いない。ついに処刑台へと追いやられてしまったのか。

 冷たい鎖の感触が、僕の両腕を締め付ける。中央広場の公開処刑台の上。ナノマシンの光が無機質に瞬く都市は、まるで僕を嘲笑うかのようだった。広場を埋め尽くす貴族達の罵声が、耳をつんざく。
「ノンコードの分際で!」「国家転覆の首謀者め!」「首をはねろ!」
 髪が汗で額に張り付く。心の中は恐怖と屈辱で揺れていた。鎖で吊るされた両手は震え、膝が地面に擦れて血が滲む。だが、それ以上に僕の心を抉るのは、義弟ジェレミア・ヴァルトゼーレの冷ややかな視線だった。
「魔力を持たないノンコードが、謀反など起こせるはずがないだろう? だが、お前にはそれがふさわしい罪だ」
 ジェレミアは、僕にだけ聞こえるような小声でつぶやくと、高慢な笑みを浮かべ僕を見下す。
「家族に謀反者が出れば、お前もただでは済まないはずだぞ……」
「家族ならばな。だがお前は父上の子ではない。不義の子で我らを謀ろうとしていた反逆者だ。我が家はその証拠を掴むために、長年貴様を見張っていたという…筋書きだ」
「そんな……」
 では、父上もその考えに同意しているということか。僕を実の子と思っていなかったのか。視界が揺らぎ、絶望が胸を締め付ける。僕が侯爵家の嫡男だった歴史自体なかったことにするというのか?

「ルーン・ヴァルトゼーレ、帝国への反逆罪により、処刑を実行する!」
 処刑人の声が広場に響き、群衆の歓声が沸き上がった。ジェレミアが用が済んだとばかりにその場を立ち去っていく。
 処刑台の中央には六角形ヘキサゴンの「古代のコード端末」が、青白い光を放ち始める。ナノマシン技術と古代魔法が融合したその装置は、罪人の魔力を吸い取り、生命を断つためのものだ。僕の身体が引きずられ、端末に近づけられる。群衆の笑い声が耳を刺す。
「消えてしまえ、ノンコード!」「帝国の汚点め!」
 その瞬間、僕の指先が端末の冷たい表面に触れた。

――ギュィィィィン。

 頭の中で何かが弾けた。視界が白く染まり、記憶の奔流が僕の意識を飲み込む。

 狭い部屋。モニターの青い光。キーボードを叩く指。相沢唯人あいざわゆいと、27歳、ゲームプログラマー。締め切りに追われ、孤独にコードを書き続ける日々。日頃の不摂生が災いした過労死だった。

「僕は……相沢唯人……だった?」 
 唇が震え、言葉が漏れる。群衆の声が遠のき、頭の中で前世の記憶が鮮明に蘇る。だが、それだけではなかった。端末の光が僕の身体を貫き、胸の奥で何かが目覚める。熱い、脈打つような力。まるで世界そのものを握り潰せるような、膨大なエネルギー。頭の中で文字が浮かぶ。

「コード……ゼロ……?」

 広場の地面が震えた。群衆の歓声が悲鳴に変わる。処刑台の周囲で、枯れたはずの植物が突如として芽吹き、蔓が鎖を締め上げるように絡みつく。ナノマシンの光が暴走し、緑の輝きが広場を覆う。腕の鎖が軋み、ガシャンと砕け散った。
「な、なんだこれは?」 
 処刑人が叫び、群衆が後ずさる。
「僕は……無実だ! 何もしていないっ!」 
 僕の声が広場に響き、植物の蔓が処刑台を粉々に砕く。自由になった両手を握りしめ、覚醒した力を感じた。
「これが僕の力なのか? 僕も魔法コードが使えたのか!」
 だが、喜びも束の間。帝国の騎士たちが広場に雪崩れ込み、剣を構える。
「反逆者を捕らえろ!」
 僕は光を操り、蔓を盾にして応戦するが、数に圧倒される。魔法コードを思うように扱う事が出来ない。
「まだ……力の使い方が」
 頭の中が整理できていないのだ。突如として目の前にある景色にすべてコードが書き込まれているのがわかるようになった。前世の知識でコードの意味も理解できるようになる。だが体がついていかない。膝をつき、息を切らす。

 その時、雷鳴のような蹄の音が広場を切り裂いた。黒いマントに身を包んだ男が、漆黒の馬に乗って群衆を突き抜ける。男は馬から降りると、剣を閃かせ、騎士たちを一瞬で薙ぎ払う。闇夜のような黒髪が風に揺れ、褐色の肌に金の瞳。まるで魔王のようなで立ちだ。
 僕は彼を知っている。冷酷な騎士団長と呼ばれている男。シュラウド・ヴェルディアだ!
「ルーン・ヴァルトゼーレ!」 シュラウドの声は低く、鋭い金の瞳が僕を射抜く。
「はい……」
 名前を呼ばれ反射的に返事をしてしまう。ここでもう僕の命は終わるのだろうか…。
「俺と共に来い!」
「え?」
 助けてくれるのか?シュラウドの眼差しに心臓が跳ねる。絶望に沈んでいた世界が、初めて色を取り戻す。シュラウドが一歩踏み出し、僕の震える手を強く握った。
「お前は一人じゃない」 
 その瞬間、僕の胸に熱いものがこみ上げる。恐怖も、屈辱も、シュラウドの手の温もりに溶けていく。
「シュラウド様……どうして……」
 僕の声は群衆の騒めきにかき消される。シュラウドが剣を構え直し、僕を背に守る。
「行くぞ、ルーン。俺がお前を連れ出す」
 黒いマントが翻り、シュラウドが僕を抱きかかえる。馬が嘶き、広場の混乱を切り裂くように駆け出す。

 灰色の世界に居た僕の心は、絶望の淵から希望の光へと引き上げられていた。

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