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1 覚醒*
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都市部を抜け、街道を過ぎ、ものすごいスピードで景色が駆け抜けていく。
「は、速い……。まるで新幹線みたいだ……」
「駿足コードを使っている。揺れるか?もう少しだから辛抱してくれ」
シュラウドの片手が僕の背中に回る。ぎゅっと抱きしめられてドキドキする。こんなにも近くで誰かと触れ合ったことなどない。
「ひぇ。だ、大丈夫です」
処刑場から僕を助け出してくれたのが冷酷騎士団長というだけでも信じられないのに、僕は今まさに、コアラのごとくシュラウドに抱き着いている。風圧がすごくて前を向いていられないのだ。彼の鍛え上げられた胸板がすごい。同じ男として自分の体が情けなくなるくらいだ。
「さあ、着いたぞ」
「は、はひ……」
馬から降ろしてもらって、ふらふらと地面に座り込む。ここはどこなのかと、見上げると、目の前に古城がそびえ立っていた。どっしりとした石造りの壁。左右対称の造りに半円のアーチ。これって前世で習ったヨーロッパのロマネスク様式とかいうやつじゃなかったっけ?
「ここは古の要塞だった場所だ。今は俺の隠れ家的な場所だがな」
「要塞……なるほど」
そうか。じゃあ、今の文明都市になる前の文化が残っている場所というわけか。どおりで、コードがほとんど見当たらない。防御に特化したモノが組み込まれているくらいだ。
「中に入れば外からは見つかりにくい。防護壁で守られているからな」
ということは、すでにバリアの中なのか。馬の手綱を引きながら、シュラウドがついておいでと声をかけてくれる。見た目と違って優しい声に、思わずすべてを預けてしまいそうになる。いまだに彼の真意がわからないが、ここはついて行くしかないようだ。
重厚な門をくぐると、光あふれる中庭が現れる。かつては素晴らしい庭園だったのだろう。噴水らしき残骸もある。朽ち果てた過去の建造物といった様子だ。シュラウドが手綱を離すと、馬はわずかに草が生え茂る場所に向かった。あの場所が厩舎がわりなのか。賢い馬だ。この馬にはシュラウドとの主従コードが組み込まれているのだろう。
城の内部も石の壁で囲まれていた。中は大広間のようで、小さな窓がいくつかあいている。
「簡易なテーブルとイスならあるぞ。座って休め」
言われるまま椅子に腰を下ろす。同じ視線の高さになって、僕はシュラウドが美しい顔をしていることに気付く。くっきりとした二重に長いまつげが影を落としていた。金に光って威圧していた瞳も今は光の加減か、琥珀色に見える。カッコいい!また胸の鼓動が大きくなった気がする。
シュラウド・ヴェルディアは泣く子も黙る非道な男だと聞かされていた。敵と見なせば、情け容赦なく切り捨て、命乞いも許さない。感情を表に出さず、どんな状況でも、冷静沈着で無表情。常に冷淡な態度で業務に接する男。そのために周りからは『冷徹騎士団長』と呼ばれている。闇夜のような長髪に黒ずくめの服装で。『闇の魔王』とも陰でうわさされていたはずだ。
「あの!なぜ僕を助けたのですか? 僕はノンコードだって周りから言われ続けているのに……」
「お前はただのノンコードじゃない。俺の剣がそう告げている」
「シュラウド様の剣が?」
「俺の剣は魔剣だ。それにシュラウドでいい。様はいらない」
「そんな! 騎士団長様を呼び捨てになんか出来ません」
「よいのだ。俺もお前のことをルーンと呼ぶからシュラウドと呼んでくれ」
「しゅ……しゅら……うど」
「それにもう騎士団長ではない。今日限り騎士団とは無縁になるだろう」
「え?どうしてですか?……僕を助けたからですか?」
「……俺が助けたかったのだ」
「どうして?……わけを……おしえ……あ、あれ?」
ふいに眩暈におそわれる。胸の動悸が収まらない。僕の体どうしたっていうんだ?
「ルーン?どうした?おい!」
苦しくて、体が痙攣し始める。椅子から転がり落ちた僕をシュラウドが抱きかかえてくれた。
「あ、胸が苦しい。熱い。体の中をぐるぐると駆け巡って……うぐっ!」
「しっかりしろ! ……。まさか魔力が暴走しそうなのか?」
「魔力? ……僕、魔法を使ったことがなくて……制御がわからなくて」
この動悸や息切れはシュラウドがかっこよすぎるせいじゃなかったのか?確かに馬を降りたあたりから熱があがってきているようだったが、それが魔力のせいだったのか?
「なんてことだ。この年齢になるまでコードを使ったことがなかったのか。本来なら幼少時から少しづつ魔力を使ってコードを操るのだ。一度に多量なコードを操った反動が起きているのかもしれない」
「そんな……僕。本当に魔力なしだったのです。……でも、あのとき、覚醒したのかも」
「くそ。このままだと、魔力に食われ内側から崩壊するぞ」
そんな怖いこと言わないでほしい。崩壊って?僕の体が崩れ落ちるってこと?嫌だそんなの!
「い、嫌だ! やっと自由になれたのに……た、たすけて……」
「っ。わかった。出来るだけのことはしよう。一時的に俺の魔力に染め替えるぞ! そうすれば俺の力で制御できるかもしれない」
「なんでもいい……苦しい。だからお願い!た……すけて」
「ええい! 後で俺を恨むなよ!」
え?……と聞き返す前にシュラウドに僕の唇を奪われた。
これってキスされているんじゃないの?
「は、速い……。まるで新幹線みたいだ……」
「駿足コードを使っている。揺れるか?もう少しだから辛抱してくれ」
シュラウドの片手が僕の背中に回る。ぎゅっと抱きしめられてドキドキする。こんなにも近くで誰かと触れ合ったことなどない。
「ひぇ。だ、大丈夫です」
処刑場から僕を助け出してくれたのが冷酷騎士団長というだけでも信じられないのに、僕は今まさに、コアラのごとくシュラウドに抱き着いている。風圧がすごくて前を向いていられないのだ。彼の鍛え上げられた胸板がすごい。同じ男として自分の体が情けなくなるくらいだ。
「さあ、着いたぞ」
「は、はひ……」
馬から降ろしてもらって、ふらふらと地面に座り込む。ここはどこなのかと、見上げると、目の前に古城がそびえ立っていた。どっしりとした石造りの壁。左右対称の造りに半円のアーチ。これって前世で習ったヨーロッパのロマネスク様式とかいうやつじゃなかったっけ?
「ここは古の要塞だった場所だ。今は俺の隠れ家的な場所だがな」
「要塞……なるほど」
そうか。じゃあ、今の文明都市になる前の文化が残っている場所というわけか。どおりで、コードがほとんど見当たらない。防御に特化したモノが組み込まれているくらいだ。
「中に入れば外からは見つかりにくい。防護壁で守られているからな」
ということは、すでにバリアの中なのか。馬の手綱を引きながら、シュラウドがついておいでと声をかけてくれる。見た目と違って優しい声に、思わずすべてを預けてしまいそうになる。いまだに彼の真意がわからないが、ここはついて行くしかないようだ。
重厚な門をくぐると、光あふれる中庭が現れる。かつては素晴らしい庭園だったのだろう。噴水らしき残骸もある。朽ち果てた過去の建造物といった様子だ。シュラウドが手綱を離すと、馬はわずかに草が生え茂る場所に向かった。あの場所が厩舎がわりなのか。賢い馬だ。この馬にはシュラウドとの主従コードが組み込まれているのだろう。
城の内部も石の壁で囲まれていた。中は大広間のようで、小さな窓がいくつかあいている。
「簡易なテーブルとイスならあるぞ。座って休め」
言われるまま椅子に腰を下ろす。同じ視線の高さになって、僕はシュラウドが美しい顔をしていることに気付く。くっきりとした二重に長いまつげが影を落としていた。金に光って威圧していた瞳も今は光の加減か、琥珀色に見える。カッコいい!また胸の鼓動が大きくなった気がする。
シュラウド・ヴェルディアは泣く子も黙る非道な男だと聞かされていた。敵と見なせば、情け容赦なく切り捨て、命乞いも許さない。感情を表に出さず、どんな状況でも、冷静沈着で無表情。常に冷淡な態度で業務に接する男。そのために周りからは『冷徹騎士団長』と呼ばれている。闇夜のような長髪に黒ずくめの服装で。『闇の魔王』とも陰でうわさされていたはずだ。
「あの!なぜ僕を助けたのですか? 僕はノンコードだって周りから言われ続けているのに……」
「お前はただのノンコードじゃない。俺の剣がそう告げている」
「シュラウド様の剣が?」
「俺の剣は魔剣だ。それにシュラウドでいい。様はいらない」
「そんな! 騎士団長様を呼び捨てになんか出来ません」
「よいのだ。俺もお前のことをルーンと呼ぶからシュラウドと呼んでくれ」
「しゅ……しゅら……うど」
「それにもう騎士団長ではない。今日限り騎士団とは無縁になるだろう」
「え?どうしてですか?……僕を助けたからですか?」
「……俺が助けたかったのだ」
「どうして?……わけを……おしえ……あ、あれ?」
ふいに眩暈におそわれる。胸の動悸が収まらない。僕の体どうしたっていうんだ?
「ルーン?どうした?おい!」
苦しくて、体が痙攣し始める。椅子から転がり落ちた僕をシュラウドが抱きかかえてくれた。
「あ、胸が苦しい。熱い。体の中をぐるぐると駆け巡って……うぐっ!」
「しっかりしろ! ……。まさか魔力が暴走しそうなのか?」
「魔力? ……僕、魔法を使ったことがなくて……制御がわからなくて」
この動悸や息切れはシュラウドがかっこよすぎるせいじゃなかったのか?確かに馬を降りたあたりから熱があがってきているようだったが、それが魔力のせいだったのか?
「なんてことだ。この年齢になるまでコードを使ったことがなかったのか。本来なら幼少時から少しづつ魔力を使ってコードを操るのだ。一度に多量なコードを操った反動が起きているのかもしれない」
「そんな……僕。本当に魔力なしだったのです。……でも、あのとき、覚醒したのかも」
「くそ。このままだと、魔力に食われ内側から崩壊するぞ」
そんな怖いこと言わないでほしい。崩壊って?僕の体が崩れ落ちるってこと?嫌だそんなの!
「い、嫌だ! やっと自由になれたのに……た、たすけて……」
「っ。わかった。出来るだけのことはしよう。一時的に俺の魔力に染め替えるぞ! そうすれば俺の力で制御できるかもしれない」
「なんでもいい……苦しい。だからお願い!た……すけて」
「ええい! 後で俺を恨むなよ!」
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これってキスされているんじゃないの?
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