【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星

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13 試練-2

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「これは精神世界に飛んで自分自身と向き合う装置だ。その中の出来事は現実ではない」
「うん、わかった」
 端末に触れると頭の中で何かが弾けた。視界が白く染まり、記憶の奔流が僕の意識を飲み込む。

――ギュィィィィン。

 この感触は処刑台の時と同じだ。僕は魔力なしノンコードだったから、中央に吸い取られる魔力がなかった。僕が触れたことによりあの処刑台は本来の装置の役目として動いたのかもしれない。

 しばらくすると、意識がバーチャル空間に飛んだ。空間内では、過去の自分が次々と映し出された。
『なんでぇ。なんで旦那様は来ないの? ルーン、貴方嫡男なんでしょ? どうして魔力がないの?』
 母は日に何度も錯乱状態になる日があった。それまで食事や衣食住に困ったことなどなかった人だったから、僕がノンコードと認定され、状況が一変するなんて思いもしなかったのだろう。
『旦那様はきっと来てくれる……ぶつぶつ……お前なんか産まなきゃよかったんだ!』
 母はいつまでたっても夢見るお姫様で。白馬に乗った父上が助けに来る日を待ちぼうけて亡くなってしまった。
『お前のせいだ。お前がノンコードだったから私はこんな目に遭ってしまった』

 …………ごめんよ。かあさま、僕のせいだね。僕を生んだために貴女はこんな人生を送ってしまった。



『おい、ノンコード。どうしてこの屋敷に居るんだ。ここは貴族の屋敷だぞ』
 目の前には侯爵家の冷ややかな広間。ジェレミアの嘲る声が響く。ジェレミアは3歳違いで生まれた正室の息子。僕とは腹違いの弟だ。周囲の者たちも『魔力のないノンコードめ』とこそこそとあざ笑う。その言葉が胸を刺し、膝が震えた。
「僕は……必要のない人間だ……」
『扉も魔力で開けられないのか? お前は赤子以下じゃないか』
 ジェレミアが嘲笑する。魔力が豊富にあるジェレミアの方が嫡男としてふさわしいのだと誰もが言っていた。その意見には僕も賛成だ。生まれたときから正室派の者たちに守られ、統治者としての教育を受けている有能な弟。ただ少しばかり早く生まれただけの僕には何もなかった。
『ちっ。どけ! ああ、こんなところにが落ちていた」
 ジェレミアに押され、倒れたところを足で踏まれ、何度も蹴られた。普段から暴力は振るわれている。それも腹や背中など、外からは見えない場所。対外的にも嫡男の僕をなぶり者にしているとは表立って知られないためだ。
『普段からこそこそ隠れやがって。俺の方がふさわしいのに。お前など侯爵家の恥さらしだ』

 …………侯爵家に僕の居場所なんてなかった。僕は必要とされていなかったんだ。


『相沢! まだできていないのか!』
 モニター画面の向こうで怒鳴り声が聞こえる。相沢唯人だった前世の記憶だ。新しいものが好きで挑戦したくなる性格が災いして、プログラマーになったが、締め切りに追われ孤独にコードを書き続ける日々の連続で、心も体も疲弊ひへいしていた。
『お前、手を抜いてるわけじゃないだろうな? ちょっとばかり有名になって賞を取ったからってお高く留まってるんじゃねえだろうな』  
 僕の開発した作品がたまたま賞を取り、少しは名前が売れてはいた。だがそのせいか、社内の先輩方に目をつけられてしまったようだ。社内で嫌がらせが続き、僕は在宅勤務を選んだ。ソースコードを利用して開発するのなら自宅でもできる。だけどそれはさらなる孤独へと進んでいった。
『こないだ送ってきたデータ破損していたぞ! 一からやり直せよ』
 まさか。あれは徹夜して作ったものだったのに。もう嫌がらせなのか、自分のミスなのかも判断がつかなくなっていた。
『プログラマーなんて名前ばかりの役立たずめ!』


 …………僕はなんて無価値な存在なのだろう。結局、前世も今も僕には存在意義がないのだ。

  なに一つ、自分の手で解決できたものはない。僕なんかが、何をやっても誰のためにもならないのではないか。僕は孤独だ。誰にも相手にされず、ただ一人もがいている。このまま僕は消えてしまった方がいいのではないか。
 母やジェレミアが現れ口々に嘲笑する。視界がゆがんでいき、僕の体が薄くなっていく。

 幻影達が巨大な影の怪物となり、僕に襲い掛かってくる。追い詰められ、体が震えてくる。『お前は無価値だ、消去デリートする』と囁く声に、僕の身体が凍りつく。空間が歪む。どうすればいいのだ? ノンコードの僕には、力なんてないんだ。もうなにもかも終わり……。
「もう…ダメだ…」
 足元が崩れていくようで膝をつき倒れこみそうになったところを誰かに支えられた。

──ルーン。俺の声を聴け!──

 突然、温かな手が僕の現実の手を強く握った。 シュラウドの低く響く声が、仮想空間に光の粒子となって降り注ぐ。僕の脳裏に、漆黒の髪と鋭い金の瞳が浮かぶと、シュラウドの姿が光となって現れた。
「ルーン、俺を見ろ!」 漆黒の甲冑に身を包んだシュラウドが、剣を手に怪物に立ち向かう。
「お前は俺の希望だ。俺がここにいる限り、お前は折れない!」
「シュラウド…」
 彼の声にすがるように、僕は自分の意識を繋ぎ止めた。
「俺はここにいる。ルーンと一緒にいるんだ。お前は一人じゃない」
 シュラウドの声が続く。僕の心臓がドクンと跳ね、怪物の幻影が薄れる。
 
 シュラウドは僕の震える身体を抱き寄せ、額を寄せてくれた。 
「俺の声だけを聞け」
 僕の唇に彼の唇が触れた瞬間、世界がシュラウドだけで満たされる。柔らかく、熱い感触が僕の心を揺さぶる。シュラウドの光が僕を包み込み、唇から魔力が流れてきた。キスの余韻が僕の心を安定させる。
「ありがとう……僕に力をくれて」
 悲しい過去も孤独な日々もみんな僕の記憶だ。僕が生きてきた証となるんだ。絶望に打ちのめされた自分にけじめをつけ、出来ることに挑戦してみよう。だから僕は歩き出す。今の僕は何もできなかった子供でもない。ノンコードでもない。そして傍にはシュラウドがいてくれる。自分を信じるんだ。

「そうだ、僕はひとりじゃない」
 僕は【コード・ゼロ】を操り、光の刃を手に、怪物に立ち向かう。シュラウドと力を合わせ怪物を一掃できた。

 ぱぁぁあっと光が点滅し、幻影達は消えて去っていく。

 仮想空間が崩れ、現実に戻った僕は、シュラウドの腕の中にいた。ずっと抱きしめてくれていたんだ。
「よく戻ってきた」
「シュラウドが…いたから…」
 震える声で言うと、シュラウドが再び唇を重ねてきた。熱く濃厚な口づけに思わずうっとりとする。
「お前は強い。俺はこれからもルーンの傍にいる。ずっとだ」
「……うん。ありがとう」
 僕の頬を涙が伝う。見られたくなくて、シュラウドの胸に顔を埋めた。

 ああ。僕はシュラウドが好きだ。彼にならすべてを預けられる。

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