スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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【幕間】 祷 cor primária do céu 12

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 深夜、中継地点を飛び立った一同は思惑の通り機内で熟睡していた。

 
 目を覚ました祷は、時間が反転していることに気付いた。

 空の上だから日の高さはわからないが、少なくとも夜でも明け方でもないだろう。
 スマホを傾けると画面が灯った。
 座位で熟睡できるものだろうかと心配はあったが、現在時間は搭乗時から十時間は経っていた。
 

 到着まであと五時間ほどだろうか。

 
 寝ている間に半分以上進んでいるのは喜ばしかったが、それでも五時間も残っているというのだから、やはり地球の裏側は遠いし、地球は大きい。
 いや、ものの2日3日で地球の裏側まで行けてしまうのはむしろ小さいと言えるのかもしれない。

 
 地球がまだまだ大きかったころ。
 ルーブル・アブタビで見たそれぞれの時代、それぞれの地域で文明を築き生活を営んでいた人々は出会うことの無かった遠い異国の人々と、文化。

 
 そのとき。
 その場所に。
 たまたまガブリエルがいた。

 
 総てはそこから始まった。そして今、地域に根を張ったソルエスは、遠い異国の、異なる文化を発信し続けている。

 小さな芽は、いつしか樹木となっていた。
 樹木は果実を実らせ、種子をまき、種子からは芽が出る。

 祷もまたそんな萌芽のひとつとなろうとしていた。



  十時間近い時間は睡眠時間としては充分と思えたが、目を瞑った祷はほどなくささやかな寝息を立て始めていた。



 
 
「Bem-vindo!」

 
 空港で一同を出迎えたガブリエルは、数人の現地人らしき男性を伴っていた。


「ガビー!」

「Olá!」

 
 出迎えに口々に反応するメンバーたち。


 
「そっか、初対面は私だけか」

 
 誰にともなくつぶやいた祷に、隣の穂積は「創立時の在席メンバーだけじゃなくて、少し前の浅草にガビが来てくれたことがあって、新しいメンバーたちもそこで会ってるしダンスも楽器も教えてもらったから」とほほ笑んだ。

 
「Prazer em conhecê-la. Eu sou Inori」

 
 これであっているかな? 発音は伝わっているかな? そんな不安が滲んだままの笑顔で、「はじめまして」とあいさつをした祷に「イノリ? 素敵な名前ね。Rezarと同じ意味だよ」
 

 不思議な魅力を湛えた深みのある青い瞳が祷をまっすぐ見つめていた。
 癖のある黒髪に、まばらに生やした髭。
 しかし祷は、ガブリエルが醸し出していた妙な色気の正体は、表面的な要素ではないと感じた。

 
 きっと、このすべてを包んでくれそうな優し気な笑顔の奥に共存している、寂しさのようなもののためではないだろうか。
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