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私の大学生活
しおりを挟む(色部 誉)
「ほまれちゃん大学生になったんだよね。どう? なんか大学生って楽しいイメージある」
大学生活だけではない。
マレはいわゆる「普通」の人が通るルートを捨てたのだ。高校生活だって人とは違ったものになるだろう。
特別なマレ。
特別になりたくて、普通にしかなれなかった私が、特別なマレに普通を語る。
それもまた、私が選んだ道だ。
私はもう、自ら選んだ道を否定しないと決めたから、普通を全うするし、良いところも悪いところも堪能する。
それを、普通を得ることのできない道を選んだマレに、少しでも伝えられたら良い。
「うん、楽しいよ。この前ね……」
大学で起こったエピソード、大学の仕組み、学んでいること、取り組んでいること。楽しかった出来事も大変だった経験も、普通の人にはごくありふれた、特別な世界にいるマレにとってはモノ珍しい物語。
なんてことの無い話ばかりだけど、マレは目を輝かせて聴いてくれている。
普通なら、ここで「マレは?」と訊くのが自然だろう。
マレの留学生活。
マレが自然とその話に入らないのなら、今はまだやめておこう。
マレはとにかく、私の話を聴きたいみたいだった。
「バイトもしてるんだよ」
勤め先のことを言ったらさすがに驚いていた。
「え、おみず⁉︎ ほまれちゃん大丈夫なの⁉︎」
「やってみたら楽しいよ。周囲が良い人多くて。とりあえず今よくくるお客さんも良い人多いし」
えー、とやや複雑そうなマレ。
ついでだ。開示しておこう。
正直お金がないこと、大学を卒業するためには高収入の仕事が不可欠だったことを明かす。
その根本の原因が、私が勝手にバレエをやめてしまったこと。親の過剰な期待と過分な支援には重さと感謝があるが、私の人生を私が選ぶことに、「親の期待に応える」という要素は相応しいとは思っていないこと。
ちょっと場が重くなるのは承知の上で、その辺りの私の考え方と心情を真摯に伝えた。
少しずつ、深いところを話すことで深い話をしやすくする。
同時に、私の意思決定に、マレが気に病む必要は無いのだと、説明ではなく私を理解することで自ずと解るように持っていきたい。
「じゃあ、今楽しいんだね」
お金はないし仕事は大変だし。
大学生って暇って印象があるけどレポートの作成はそれなりに時間が掛かる。
試験で必要な成績を収めるためには、講義以外でも日々の勉強も必要だ。
そのうち就活なんかも始まることを思えば意外と時間はないし。
むしろ、自由に使える時間を、己を律して自己向上に励まなくてはならない。
そういう部分はバレエに少しだけ通じるかなと思った。
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