スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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マレはどうしたい?

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(柳沢 希)

 沈痛な面持ちで、少し俯いているマレ。

 目の前のパフェにはメロンがたくさん載っている。
 私はそれをフォークで刺し、マレの食べ終えたワッフルサンドのお皿に乗せた。ひとつ刺しては載せ、を繰り返し、半分ほど乗せる。空いていたマレの皿は、ちょっとしたメロン皿になっていた。

 
「え? えっ?」

 
 私は目の前のパフェのグラスに残ったメロンをひとつ食べて見せ、
「メロン、おいしいよ。食べて」

 
 じゃあ、とマレが自らのマンゴーを譲ろうとするのを制し、「とにかく甘いの食べよ」と促す。

 
「よく、物語とかでさ、頭を使うキャラが甘いの摂って頭脳戦に臨むみたいなシーンあるじゃない? やっぱ何かを考えるには糖分って必要だよね」

 
 それに、自分へのご褒美と称する場合、甘いものが候補に挙がる場合が多い。ということは、甘さは心にも効くのだ。

 
「甘いの食べたらさ、考えがまとまったり、良い考えが浮かんだりするかもしれないし」

 
「おいしい……」マレはもしゃもしゃとメロンをほおばり、自分のマンゴーも追加で投入していた。

 
 
「マレは、どうしたい?」


 
 思うがまま。思いつく限りを言って欲しい。その想いを聴かせてほしい。

 
 マレが望むなら、私にできることはなんでもしよう。したいと思っている。
 
 
 
 マレの柔らかな心の表面には、きっと細かな傷がたくさんついている。
 
 

 
 
 マレは先生に頼っていたことだろう。
 バレエの世界でどのように進路を進めていけば良いか。
 ダンスの技術、バレエダンサーとしての在り方、食生活などを含めた日常生活に至るまで。

 かつて私と語り合った「オペラ座バレエ団」で踊るという夢は、同団にてエトワールとして、その語源たる星のように輝かんばかりのダンサーだったルイーズ先生に憧れたからだ。

 先鋭的で斬新なコレオを作り、自らが誇る高いダンサーとしての技量を以て表現して見せる里奈先生を尊敬していた。

 そんなマレは、ことバレエに関してはふたりの先生を絶大に信頼していたに違いない。


 
 マレは両親にも頼っていたはずだ。
 お金や労力が掛かることを常に気にしていたマレ。
 自分の夢と進路は諦めない意志の強さを見せつつ、負担を掛ける両親の負荷を少しでも下げるための努力は尋常では無かった。
 結果として高い実力を発揮し、奨学金を獲得したマレ。

 そんなマレに応えるよう、両親は全力で彼女の夢を応援し、なんと自らの仕事をもコントロールしてフランス留学を決めた彼女を現地で支援できる体制を整えたというのだから、その情の深さには驚かされた。

 マレは生活と、夢を追うという点に関し、両親の多大なる支援を受け、大いに感謝していたことだろう。


 
 責任感と矜持を持った彼女は、良き生徒、良きダンサー、良き娘だったはずだ。
 
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