スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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マレと会う

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(柳沢 希)

 マレとメッセージのやり取りをした時に、すぐに会う約束を取り付けていた。
 予定は直近の日程で決め、場所はマレの住む街にした。

 
 私が居候させてもらっている要さんの家も、マレが今身を寄せているマレの祖父母の家も、都内までは一時間かからずに出ることができる。
 同県内ながら、うちからマレの最寄まで行こうとするとやはり一時間弱はかかる。
 近いように思えて、意外と遠い。
 
 そんな位置関係もあって、この地に降り立ったのは初めてだった。
 
 マレと同じ家に住んでいるのんちゃんや、同じ地域に住む姫田姉妹も住む街だ。みんなここから『ソルエス』の練習場まで通ってるのかと少し感心した。
 
 
 今日はやや蒸し暑いが良く晴れていた。

 都心には出やすく、人口は多く、商店街は活気があり、でも都会という感じではなく大きな公園がたくさんある住みやすそうな街だ。
 好天が似合う街だと思った。

 
 私は待ち合わせの十五分前には駅についていて、改札を出たところでマレを待っていた。
 ゆっくりとした時間が流れている平日の昼下がり。駅の利用者も道ゆく人も、多くはないが閑散や寂れているといった印象はない。穏やかな街、というのが適切な感想だろうか。

 駅舎の雰囲気も、都会というよりはどちらかと言えば田舎の風情だ。栄えている街だが風情がある。一方、他所から敢えて訪れる人よりも住人のための街と思える印象で、「開放感のある閉じた街」といった感想を持った。

 
 待ち時間は五分ほど。見通しの良い通りの向こう。
 駅舎に辿り着くために超えなくてはならない踏切の先に、マレの姿を認めた。マレも私に気付いたようで手を振りながら、警報音は未だなっていない踏切を走って越えてきた。

 
「お待たせ。遠いところ来てくれてありがと」
 
「良いところだね。それに気持ち良い天気」私はマレに微笑んで、気にしないでと首を横に振った。
 
「どこかお店入る? それとも少し歩く?」
 
 私が尋ねると、マレは「よくイベントやってる広場があるの」と、来た方向の逆に歩き出した。
「まだこっち来たばっかりであまり色々行けてないんだ」マレは言う。

 マレにとって、駅を起点にして家のある方角の逆方向のエリアはほぼ未開拓らしく、行ってみたかったのだとか。
 マレの祖父母の家は、マレとのんちゃんが幼い頃、両親と一緒に住んでいた家でもあるのだが、遊ぶエリアが家の近隣から少し遠くまで足を延ばせるほどまで成長した頃には、マレはバレエを始めていてこの街を遊び場にする機会は得られなかったのだろう。

 少し先を往くマレ。
 バレエの練習と食事制限の賜物か、余計な贅肉のない身体つきには、必要な筋肉も備わっていて美しい。しかしその後ろ姿は、どこか心許なく見えた。
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