スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem

桜のはなびら

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メロンパンを超えるもの

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(メロンパンを超えるブツ)

 私の切り札且つ自分へのご褒美のメロンパンを諦める決意を、しかしジョーは、「承知した。が、岡野さんに切るカードがメロンパンじゃ弱い。先日のゴスロリデー、彼来られなかったよな。その時の誉の写真渡しても良いか?」と返した。
 確かに、おかっちにメロンパンはあまり似合わない。

 
 お店でたまにやるコンセプトデー。
 先日はゴスロリだった。キャストは全員ゴスロリの衣装で接客した。『Three ducks』衣装室には、いくつかのコンセプトデー用にレンタル衣装が用意されているのだ。

 
「うん、大丈夫だけど」

 
 お店で撮影された写真はホームページでも使われたりしている。
 仕事中は公私で言えば公なので、撮られた写真は渡されても構わない。

 
「よし、ならそれで交渉しよう。メロンパンはとっておきなさい」

 
 ジョー!
 頼もしい……! メロンパンも手元に残せるならとても嬉しい。

 
「良かったのかい? 僕ならゆっくり待たせてもらっても構わなかったのだけど」
 ここはキャバクラと違い時間制ではない。そういう意味ではお待たせさせても「損した」という感覚は与えにくくはあった。

 
「大丈夫です! 私がキノさんと話したかったんです。あと、少しゆっくりしたかったの。私、キノさんに甘えすぎ?」
 

 そんなことはないよと笑ってくれた。
 私の言葉には、接客用の装飾はあるかもしれない。でも、言っている内容そのものに偽りはない。

 
「いつもキノさん私の話聴いてくれて、キノさん自身の話あまりしてくれないですよね。言いたくないこととかはもちろん聞くつもりはないですけど」
 
「僕のことねぇ……誰かに語って聴かせるようなことなんてひとつもないよ」
 
「学校はどうですか? 先生の立場で接するとしたら中学生、扱い難しい印象があります」
 これは下手したら言いたくないことを多分に含んでいる質問になる可能性があった。
 そういう日常を忘れたいからここに来ている可能性も考慮すれば、こちらからわざわざ尋ねるのはこの手の業種としては不適切かもしれない。
 でも、騒いで楽しむタイプではないこのお客様には、接客業と顧客による上っ面のやり取りよりも、人対人のやり取りができた方がより満足してもらいやすいと思えた。時間の長さではなく、内容の深さが大切だと思う。

 
「生徒ね……世の中、いろいろ言うけど、みんな素直な子たちだよ。たまたま受け持つ子が良い子たちばかりなだけか、個々の実態を把握できるほど密で深く関われてないだけかもしれないけどね」

 実際、中学生によるひどい出来事の話はニュースになるようなものばかりでなく、他校で起こったニュースにはならなかった出来事なども学校内で共有されたりもする。ひどいことはいつも何処かで起こっている。
 でもそれは大人でも同様だ。結局「中学生」がどうこうではなく、個人個人の話なのだ。
 そんなようなことをキノさんは穏やかに言っていた。
 
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