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マレの想い
しおりを挟む(柳沢 希)
電話の向こうで語るお父さんの言葉を、わたしは頷きの言葉を返しながら聞いていた。
「定期連絡していても、望からは何らかの要求がなされることは無かったな。一応毎回尋ねてたんだがな。でもそれが望に何も手を掛けなくても良い言い訳にならないことは自覚しているよ」
それはさっきのお父さんの言葉でも承知している。
別に疑ってもいない。ありがたいとも思っている。
「一方、この期に及んで希のことで、『やっぱ希ばっかじゃん』と言われても仕方ないのだが、そっちに戻った希はやっぱり心配だった」
いや、それはそうだと思うよ。
どう言い繕ったところで、留学して何ヶ月も経っていないなかでのマレの帰国は、やっぱりイレギュラーだ。
我が子の身に起こったイレギュラーを心配し、手をかける親を咎める者など居ないだろう。
輝かしい実績を重ね。
獲得した権利を行使し。
鳴り物入りで本場への留学を果たしたマレ。
それは、その世界で更に上に行くための通過儀礼。
ゴールではなく通過点。
半ばであるはずのマレが、一時その足を止めたのだ。
そのまま途絶えてしまうと考えるほどに窮してはいなかったが、ライバルが皆走っている中、歩みを止めている様子は焦燥感と心配を両親にも与えていたことだろう。
「焦らせるわけにはいかない。でも心配だ。様子を伺いたいし、今後どうしたいのかも聴きたい。そんな思いを抱えながら、希とはなるべくコミュニケーションを取ろうとしていたんだよ。で、最初の話だ。今は比較的安定しているようで、母さんやお前のお陰だと思っているよ、ありがとう。そんな直近のマレとの話でな、最近はおまえと仲良くしてるなんて話をきいたときは素直に嬉しかったが、その少し前にケンカをしてしまったということも話していたよ」
マレがバイトすることになったきっかけのあのケンカのことだ。
「望が何かに打ち込むでもなく遊んでばかりだったことには以前から苛立ちを覚えていた。そのこともあってきつい言葉をぶつけてしまったこと、傷つけてしまったことを、悔やんでいたよ。仲直りした後でもね。希には希で、ずっと抱えている想いがあって、自分が両親を独占していることにずっと引け目を感じていたそうだ」
当初マレが抱えていた苛立ちは、同じ双子として、わたしも熱中できるものがあれば良いという思いからだったそうだ。
それが、そのうち自らの負い目が軽くなるために、わたしも何かやれば良いと思うようになっていたことに気付き、更に自己嫌悪に陥っていたらしい。
そんなこんなの苛立ちを、言葉でぶつけたことも理不尽過ぎたと後悔しているマレ。
おばあちゃんのお陰で仲直りしたとしても、放った言葉が無かったことになるわけじゃないと、消せない後悔を抱えていたマレ。
「その話をしていた時、俺と美夢の望への想いを希に伝えたんだ。そしたら、『それはすぐに言葉にして望に直接伝えてくれ』と言われてしまってね。遅まきながら気づいたんだ。想っていても伝わらない。伝わらずにいたせいで積もっていくものがあるとしたら、後になればなるほど遅きに失する。希の言う通り、すぐ言うべきだ、と」
それで早速連絡をくれたというのか。
日々忙しいだろうに、なんて律儀。
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