ポエヂア・ヂ・マランドロ 風の中の篝火

桜のはなびら

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東風治樹

維蕗の母親の反応

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 母親の反応は、ある意味安心でき、ある意味厄介と言える動揺した素振りのないものだった。
 大いに驚いた様子を見せており、本当に知らなかったのだと思えた。本当に知らないのならば、原因は不明のままだが、最悪のケースである母親による虐待の疑いは持たなくても良くなる。
 しかし、嘘だったとしたら真実が何であれ難易度の高い解決方法が求められる問題となる。少なくともすぐに見破られない嘘や演技を繰り出しているのなら、一筋縄ではいくまい。
 

 さて、ではもう一段踏み込んでみるとしようか。

 
「維蕗のこの様子では、お風呂はもうひとりで入ってるのでしょうね」

「そうなんですよ。お風呂は明るいから平気みたいで。深さが二段階あるユニットバスで、半身浴設定にしておけば浅い方なら安心かなと思って好きにさせているんです。万が一の時には操作パネルでリビングと通話もできますしね」

「なるほど。やはり自立心が強いな。
今日も治療を頑張っていたし、私から些細なプライズを渡してあげたいのですがよろしいですか? ロビーにアイスの自販機がありましてね」

「いえ、そんな、申し訳ないですよ」

「他の子どもの患者さんにもさせていただいていることですから。ご家庭の食育上問題がなければですが」

「特に制限をしているわけではありませんから……でも、本当によろしいのでしょうか?」

「がんばったのは維蕗ですから。
私としては報いたいのです。痛かっただろうに、本当に我慢強く治療がしやすかったのですよ」

 嘘ではない。実際にやり易くて助かったと思っている。

「そういうことでしたら……」

 横で聞いていた維蕗は、母親が受け入れたことに喜びを表している。
 それまではソワソワはしていたがねだるような動きは見せていなかった。やはり親の教育は行き届いているのだろう。しかしそこに萎縮の様子は見えない。杞憂である可能性が高くなり心が軽くなった。

「よし、種類いっぱいあるからな。自分で選ぶと良い」

 小銭を渡すと、維蕗は嬉しそうにロビーへと走っていった。病院内は走らないように声を掛けると、早歩きになった。
 迷わずに買ったとしても3分あるかないかか。

「維蕗の件でひとつ、お伺いしたいことがあります」

 なんでしょうか? と母親は目で訴える。

「背中に少し大きな痣があるのですがお気づきでしたが?」

「え? いえ、知りませんでした……お風呂もですが、着替えもひとりでしていましたから……その、ひどいけがなんでしょうか? 親なのに把握していなくてお恥ずかしい限りですが、状態はどのような? 良くないんですか?」

 痣については認知していない。
 息子の怪我の事実に少なからず動揺が見え、把握していないことへの後ろめたさはありつつ、心配しているそぶりもある。
 もしこれが演技なら、母親側から真実を探り当てるのは不可能に近いだろう。
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