スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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はじまり

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(色部 誉)

 配布された資料に目を落とし、また壁面のモニターに目を移す。
 爽やかな雰囲気の男性が、快活なプレゼンを続けていた。

 話慣れているのだろう。発音は明瞭で、聞き取りやすい話し方。抑揚の付け方も上手で、聞きやすいけど頭に入らないとか眠くなるとか、そういうことがない。
 とてもよく理解できるプレゼンなのに、どこか頭に入ってこないのは、どこか乗り切れないところがあるからだろうか。

 資料の横に、先ほどもらった名刺を置いていた。

 小国真幌おぐにまほろ


 バイト先の先輩が紹介してくれた人。
 先輩は私とほぼ入れ替わるような形でバイト先を去っていたので、あまり一緒に働けてはいない。
 しかし、そもそもそのバイトを始めるきっかけになってくれた人でもあり、バイトに入る前から何かと面倒を見てくれた恩人だ。


 そこでもたらされた話は、悪く無いものだと思えてはいるのだが......。




 ——一週間前。


 呼び出しを受けた私は、待ち合わせ場所として指定されたカフェでその話を聞いた。
 この少し前、運営と演者両方で私が関わったイベントで、サウンドオペレーターとして手伝ってくれた、バイト先の先輩だった人からの呼び出しだ。


「あ、おーい!」

 駅から徒歩数分とかからない場所にあったカフェの中は、それなりに混み合っていて、まあまあざわついていた。
 先輩は出入り口付近を気にしてくれていたのか、私の入店にすぐに気づいてくれた。

 立ち上がって大声でこちらを呼び、手を振る金髪ショートヘアの女性は目立っていた。

「あ、しょーちゃん!」

 この店は席でオーダーを取る仕組みのようだ。
 彼女の名を呼び、その席へと向かう。


 私がしょーちゃんと呼んだ女性は本名を畠山祥子はたけやましょうこと言った。
 元々は高校、大学と付き合いが続いている先輩の上杉要うえすぎかなめさんのバイト仲間で、ルームシェアをしている仲だった。
 私より二学年上の先輩である要さんよりふたつ年上のしょーちゃんは、学校は卒業していたがバイトの立場だった。
 そんな彼女がバイトを辞めた理由は、長年緩く志望し続けていた映画業界に関係する会社の就職が決まったから。
 映画や映像というメディアに興味を持っていたしょーちゃんは、クリエイターではなくてもなんらかの形で作品に関わりたいと思っており、その夢が叶ったのだ。
 制作会社では無いものの、映画に関わる仕事に就いたしょーちゃんは、変わらずに映像作品や映像の制作には興味を持ち続けていて、撮影現場や音響、照明、大道具などの裏方の知識やノウハウの取得、実践の機会を貪欲に求めていた。
 余談だが、しょーちゃんがバイトを辞めるにあたり、比較的高時給の仕事を探していた私を後任に推薦してくれて、入れ替わりで入ったのが、『three ducks』というパブだった。いわゆる接客業。キャバクラほどしっかりとした制度化されてはいないが、接待を伴う接客業で、ギャバクラほどでは無いが接客結果の売り上げに応じてインセンティブも出る。


 バイト先は入れ替わりの形となったが、共通の知り合いでもある要さんがいたこともあり、その後もしょーちゃんとの関係性は続いていた。
 私が自身の所属するサンバチーム『ソルエス』を巻き込み、ラテン音楽のフェスイベントを企画を立ち上げることになった時、しょーちゃんはサウンドオペレーターの役割を買って出てくれた。

 しょーちゃんが務めることになった会社は制作会社では無かったが、映像や舞台やステージショーの制作、裏方に関する興味や知識や経験を持っている人は何人かいて、社長自身が面白いこと、挑戦している人が好きなタイプで、まだしょーちゃんは新人の立場ながら、社員の余暇の趣味的な活動に対し協力的だった。
 そのおかげで、私はしょーちゃんに加えしょーちゃんの会社のバックアップももらえ、イベントの成功の大きな助けとなった。


 イベントの準備に追われていた時期、しょーちゃんからは話したいことがあると言われていた。

 イベントが落ち着き、改めて時間を作って設けられた場で。

 聞いた話に私の胸が踊ったのだった。



 それなのに。


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