スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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映画の話

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(上杉 要)

 普段はクールな要さんが、少々ミーハー気味に俳優の高梨さんが出演していた映画について尋ねながら、やや興奮した様子で映画の感想を語る。映画の業界に身を置く小国さんもその作品を高く評価していたようで、少しだけふたりがその映画のことを語り合う時間となった。
 質問には「はい」「そう」と、簡単な答えをしていた高梨さんは、会話が要さんと小国さんのやり取りに移行してからは、自信が出ていた映画の話なのに会話には加わらず、何も書かれていないホワイトボードを見つめていた。


「ふん。映画の趣味は良いみたいだな。観方も感想も芯を食ってる」
 
 無駄話を咎めず、肯定の言葉を挟んだ千屋監督。
 映画には真摯な監督は、良い作品と、良い作品を理解できる視聴者は認める言葉を使うようだ。ある意味裏表がない人なのだろう。

 
 要さんからもたらされた情報を頭の中でさっとまとめた。
 有名作ではないが名作と言って良い作品で、高梨さんは役割を全うしつつ見るものに爪痕を残す演技をした助演俳優。

 しょーちゃんの言った通り、すごく有名な人ではなくても、実力派で、演技の素人である要さんが観てもわかるくらい――いや、本当にすごい人は、むしろ素人では言葉で説明ができなかったとしても、素人でも「説明はできないけど明らかに良い」とわかるものを、世の中に示すのだろう――の、演技を見せた俳優。

 それが高梨さんという人物だ。

 つまり、冒頭の高梨さんの自己紹介に対する思いに戻ると、誰もが知るほどの知名度を有しているわけではなかったが、それでも、あの自己紹介で終わらせた、ということ。
 それはそれで、それなりの個性の持ち主なのだろうなと思わせた。
 知られていてもいなくても、今伝えるべきことは、名前だけ。それだけで充分だと、高梨さんは判断したのだろう。


 それはそれとして。
 要さんが殊更映画好きという情報は無い。
 高校時代、会計委員会で一年の私と三年の要さんという関係性から仲良くなった私たち。二年の先輩も含め委員会後にごはんやお茶に行ったり、カラオケに行ったりしたこともあるが、映画は当時話題になっていたアニメ映画を二年の先輩が観たい観たい騒ぐから観に行ったことがあるくらいだ。

 そんな中、特別話題になっていたというわけでもない映画を、いつの間にか観に行ってたんだ? 知らなかったなぁ。誰と行ったんだろう。という感想。
 
 でも、思い返せば会計委員会三人で観に行った映画、観る前は「原作見てないし」と、どうせ観るならちゃんと準備したいなんてちょっと乗り気じゃない感じを出していた要さんが、明るくなった映画館の段差を気をつけながら歩く要さんの目に明らかに泣いた痕跡を見つけた時は、にわかにきゅんとしたものだった。
 特に言ってなかっただけで、要さんは映画が好きだったのかもしれない。


 
「さて、少々横道にそれた場面もありましたが、このメンバーでキックオフをしたいと思います」
 
 小国さんが場を仕切る。そうだ、まだお互いの自己紹介をしただけ。プロジェクトはここから始まるんだ。
 
 
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