29 / 221
打ち合わせ後半
しおりを挟む
「とりあえず、お疲れ様でした。緊張しましたよね? 楽にしましょう」
小国さんは柔らかい微笑みをこちらに向け、自らもネクタイを緩め、口調も丁寧さは変わらないもののややラフな雰囲気を出した。
「千屋さんね、悪い人ではないのですが……なんて、ありきたりなフォローされても、『そんなこと言われても』って感じですよねぇ?」
この場は先ほど小国さんが言った通り、主に私たちに関する細かい手続きやこの後の動きについての打ち合わせの場となることに嘘は無いが、主目的は私たちへのケアだった。特にあの監督に対する負の感情への。
「いや、本当にあの感じほどには根は悪い人ではないんですよ? ただ、それはこちら側の理屈で、どう受け止め、どう感じるかは受け手次第ですからね。そこに不安や不満が生じないよう整えるのも私たちの仕事ですから。ご安心いただくための枠組みを具体的に構築したいと思っています」
「ご理解いただけているのでしたら良かったです。正直、今時点では辞退も考えてますから」
ね、誉? とでも言いたげな目線を私に送り、また小国さんに向き合う要さん。
「確かに小国さんは都度あの人の攻撃性を逸らしてくれていましたし、後半は幾分か当たりも柔らかくなったような気がしないでもありませんが、本質は変わっていないと思います。ある意味監督を頂点とした閉じた世界となる撮影現場で、ああいう性質の人物の元に誉を置いておくのは心配です」
要さんは淡々とした様子で、遠慮のない意見をストレートに述べた。瞳にはやや怒りの色。
「その点に関しては、本当に申し訳ありませんでした。ご不快な思いをさせてしまいましたよね。色部さんにも、改めて謝罪いたします。申し訳ありませんでした」
小国さんは立ち上がり、深々と頭を下げた。思わず私も立ち上がって、「ご丁寧に……」とよくわからない返答をしながら頭を下げる。
「小国さんの謝罪は受け容れます。代理ということでしょうから、受け容れた時点であの人の先ほどの礼を欠いた言動についてはもうどうこう言いません。今後についてどうお考えですか?」
「まずは謝罪を受け容れてくださってありがとうございます。正直に申し上げれば、千屋監督の性格を変えるなんてことはできないでしょう。そして、監督無くしてこの作品の完成も無いと思っています。これはどちらかを取るという話ではありません。おふたりもまた、この企画には不可欠と考えていますから。では、どうするか」
要さんが頷く。しょーちゃんと遊佐さんもこのやり取りを見守っている。
そう、変わらない、変えられない環境下にあって、どうするのか。どうできるのか。そこが肝要だ。
小国さんは柔らかい微笑みをこちらに向け、自らもネクタイを緩め、口調も丁寧さは変わらないもののややラフな雰囲気を出した。
「千屋さんね、悪い人ではないのですが……なんて、ありきたりなフォローされても、『そんなこと言われても』って感じですよねぇ?」
この場は先ほど小国さんが言った通り、主に私たちに関する細かい手続きやこの後の動きについての打ち合わせの場となることに嘘は無いが、主目的は私たちへのケアだった。特にあの監督に対する負の感情への。
「いや、本当にあの感じほどには根は悪い人ではないんですよ? ただ、それはこちら側の理屈で、どう受け止め、どう感じるかは受け手次第ですからね。そこに不安や不満が生じないよう整えるのも私たちの仕事ですから。ご安心いただくための枠組みを具体的に構築したいと思っています」
「ご理解いただけているのでしたら良かったです。正直、今時点では辞退も考えてますから」
ね、誉? とでも言いたげな目線を私に送り、また小国さんに向き合う要さん。
「確かに小国さんは都度あの人の攻撃性を逸らしてくれていましたし、後半は幾分か当たりも柔らかくなったような気がしないでもありませんが、本質は変わっていないと思います。ある意味監督を頂点とした閉じた世界となる撮影現場で、ああいう性質の人物の元に誉を置いておくのは心配です」
要さんは淡々とした様子で、遠慮のない意見をストレートに述べた。瞳にはやや怒りの色。
「その点に関しては、本当に申し訳ありませんでした。ご不快な思いをさせてしまいましたよね。色部さんにも、改めて謝罪いたします。申し訳ありませんでした」
小国さんは立ち上がり、深々と頭を下げた。思わず私も立ち上がって、「ご丁寧に……」とよくわからない返答をしながら頭を下げる。
「小国さんの謝罪は受け容れます。代理ということでしょうから、受け容れた時点であの人の先ほどの礼を欠いた言動についてはもうどうこう言いません。今後についてどうお考えですか?」
「まずは謝罪を受け容れてくださってありがとうございます。正直に申し上げれば、千屋監督の性格を変えるなんてことはできないでしょう。そして、監督無くしてこの作品の完成も無いと思っています。これはどちらかを取るという話ではありません。おふたりもまた、この企画には不可欠と考えていますから。では、どうするか」
要さんが頷く。しょーちゃんと遊佐さんもこのやり取りを見守っている。
そう、変わらない、変えられない環境下にあって、どうするのか。どうできるのか。そこが肝要だ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
スルドの声(共鳴2) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。
夢も、目標も、目的も、志も。
柳沢望はそれで良いと思っていた。
人生は楽しむもの。
それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。
でも、熱中するものに出会ってしまった。
サンバで使う打楽器。
スルド。
重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。
望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。
それは、望みが持った初めての夢。
まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる