スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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(色部 誉)

 その日の『Three ducks』は盛況だった。
 私のために集まってくれたお客様も多かったと思う。嬉しいしありがたく、そして少しだけ誇らしくもあった。

 
『Three ducks』は私がアルバイトをしているパブ。本場イギリスのパブのように、西洋風の紋章が掲げられている。三つの羽根をあしらったデザインは、ママの本名三鴨から取った三羽の鴨をイメージしているのだろう。

 本格的なパブとして、社交場としての側面も持つ酒場だ。


 オーナーのママが元銀座のクラブのホステス出身だったため、ゆるく接待を伴う形態としてスタートしているので、体裁としてはスナックの業態に近い。
 社交場を意識した建て付けでも、日本人同士が勝手に社交することは稀で、ママが間に立ってお客様同士を繋いだり会話の手助けをしたりしていたのが起こりだが、元々のホステスとしての気質か、割と早い段階で当たり前のようにママが接待をするようになっていた。

 小規模なパブの様式の通り、当初はつまみ程度しか出さない店舗だったが、最近は給仕を選任してくれる通称「ジョー」で通っている五十がらみの男性スタッフが食品衛生責任者の資格を取りに行ってくれたので、簡単な軽食を提供することもできるようになっている。
 調理を担当するのもほとんどがジョー、たまにママだ。

 新規開店時はママがほぼひとりで切り盛りし、オープンもクローズもママの気持ち次第だった気軽なママのお城は、いつの頃からかキャストが増えていき、今ではキャスト目当てのお客様も多くなり、基本的にはいつも賑やかな店舗となっていた。
 オープン当初の社交場としてのイズムも残ってはいて、主に初期のお客様を中心に、お客様同士が絡む動きも積極的で、活気に一役買っている。

 完全指名制だったり同伴だったり、売上を競ったりなんてシステムではないが、なんとなく気に入ってくれたお客様の接客をすることが多く、その成果によって歩合もつくので、接客スキルは必須だ。完全指名制ではない分、場の差配も結構大事で、その辺はママだけでなく、ママも接客に入ってしまうこともある店内にあって、場全体を常に把握しコントロールしているジョーの手腕も陰ながらキャストの給料とお客様の満足度に直結していた。

 ジョーは雰囲気のある渋めでダンディな男性で、場合によっては用心棒的な役割も担ってくれる、『Three ducks』の屋台骨だ。

 そんな環境下があり、その上ママや要さんや、ママの見る目によって集められ、育てられているほかの面倒見が良くて親切な先輩たちと、ママの目に適っている、それなりに女性目当てではありながらも、酔った男性にしては分別がつくタイプの多い常連のお客様のお陰もあって、夜の接待を伴う飲酒店業でありながら、私は安心してバイトに勤しむことができていた。
 
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