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スタンバイ
しおりを挟む撮影は順調らしい。少なくともほぼスケジュール通りに進捗しているとのことだった。
「もうそういうもんだと思っているけど、この待ち時間、勿体ないよね」
ロケ弁に入っていたシャケを箸で上品に口に運びながら要さんは言った。
「勉強や課題をするにはあまり集中できる環境じゃないですもんね。急に呼ばれてスタンバイさせられて、やっぱり戻って、みたいなこともよくあるし」
大体五時間くらい待たされるのはデフォルトな感じだ。このスタジオに来るとき、最寄駅近くのショッピングモールに入っていた本屋さんで買ってきた結構分厚めの文庫本は、今日読み始めたのにもう半分は読み進んでいる。あの本は今日を越えられるだろうか。
全体的にはスケジュール通りに進んでいるのに、日々このようなことが当たり前に起こっている。
一日のスケジュールとしては、数時間押しなんてことは割とあるが、その日の予定はなんとしてでもその日のうちに完結させるから、全体的なスケジュールには今のところ影響が及んでいない。
「色部さん、お願いしまーす」
ノックの音と楽屋の扉が開くのと声が掛かるのがほぼ同時だ。忙しいんだろうな。
お弁当中でも容赦なく掛かる呼び出しに応じ、私は進行助手の方についていく。要さんの撮影シーンは無いが、要さんも同伴する。
撮影シーンに関する説明が監督からあった。
それはこの場面の意図、目的、何を見せたいのか、という抽象的な内容。
立ち位置や表情など具体的なところは先ほど進行助手の方が説明してくれた。私は立ち位置に立ちながらドーランを塗ってくれているスタッフさんのされるがままになっている。汗も足された。
教室を飛び出した美宝を、映が追い掛ける。
クラスメイトからの心無い一言をきっかけに起こったちょっとした揉め事。自己主張は得意ではないが強い想いを秘めていた美宝は、この揉め事で感情を爆発させてしまう。
我に返り、その場の空気に居た堪れなくなり、思わずその場を走り去ってしまう美宝。美宝の爆発に一瞬呆気に取られ止まってしまっていた映も、すぐに気を取り戻して飛び出して行った美宝を追う、と言った背景だ。
これから撮影するのは、階段を駆け上がった踊り場で美宝と映が対峙するシーンだ。
既に何回か撮っているシーンだった。それでも何か問題があるのか、監督の納得が得られないのか、当初より立ち位置が少し変わっている。
階段の踊り場で、美宝が一段階段を登ろうとしているところに、なんとか追いついたわたしがぜえぜえ言いながら美宝を呼び止めるところから始まる。
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