45 / 221
演技
しおりを挟む(美宝と映)
「っ……待ってよ……!」
息を切らしていることを表現するため、喋りはじめる前に唾を飲んで、疲れと息切れで言葉が詰まっている様子を表現した。
「待ってどうするの? カウンセリングでもしてくれる? 全部自分の気持ちから来てることくらいわかってる! それが映にわからないことだってわかってるよ!」
挫折を経て、卑屈さを抱えるようになった美宝。映に巻き込まれるようにして始まった物語の主人公。
明るく人の輪の中心にいるような映と対比するようなキャラクター性の主人公を、高梨さんは見事に演じきっている。
今目の前に居る子は、完全にどこにでもいる高校生だ。言葉数が少ないのに圧を感じさせるような実力派俳優高梨妃夜はそこにはいなかった。しかし、ここにどこにでもいる高校生を当てがったとしても、こんな自然に「普通の、少し卑屈な高校生」が目の前に居るなんてことにはなっていないはずだ。
その世界に疎くても、実力者の凄さというのは肌感覚で感じられる気がした。
私は彼女よりも活力にあふれた子を演じなくてはならない。才能の前に委縮してる場合じゃない。
「わかるとかわかんないとか、何言ってんのよくわかんない! わかってなきゃ心配しちゃダメ? あたしは美宝と一緒に演奏したいの! 美宝のことわかんなくったって、自分のことはわかる! やりたいんだからしょーがないじゃん。一緒にやりたい相手がなんか様子おかしかったら心配になるよ。心配になったから心配しただけで、わかるとかいちいち考えてらんないって」
結構な長いセリフ。
でも、私には「間違えずに言えた」といった類の安堵は無い。
映として、私をモデルにしたちょっと自己主張が苦手な友だちを心配し、一緒に演奏したいと思っている友だちを追いかけたいと思い、行動をし、言葉を掛けたのだ。
それは心のあるがまま。理性の部分で覚えたセリフとか、間違えたかどうかとか、そういうことは今の私からは抜け落ちていた。
なので、厳密には台本と違う言葉を発していたかもしれない。
「カット」の声に我に返った私に、ようやく理性が戻ってくる。
やば……アドリブになっちゃっていたかもしれない。素人の癖にそんな真似、きっと許されない。
丸めた台本を持ってこっちに向かってくる監督。
理性が戻った私の頭の中はややパニック状態だ。
え、なんで今日サングラスしてんの? 急にアイコン的な監督スタイルにしたってこと? それでちゃんと現場見られるの? ああ、怖いぃ……!
その間、多分十秒未満。体感的には二十秒くらいあった気がする。
無言で迫ってきていた監督は、私の前で止まり、おもむろに口を開く。
監督に怒られる――――
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
スルドの声(嚶鳴) terceira homenagem
桜のはなびら
現代文学
大学生となった誉。
慣れないひとり暮らしは想像以上に大変で。
想像もできなかったこともあったりして。
周囲に助けられながら、どうにか新生活が軌道に乗り始めて。
誉は受験以降休んでいたスルドを再開したいと思った。
スルド。
それはサンバで使用する打楽器のひとつ。
嘗て。
何も。その手には何も無いと思い知った時。
何もかもを諦め。
無為な日々を送っていた誉は、ある日偶然サンバパレードを目にした。
唯一でも随一でなくても。
主役なんかでなくても。
多数の中の一人に過ぎなかったとしても。
それでも、パレードの演者ひとりひとりが欠かせない存在に見えた。
気づけば誉は、サンバ隊の一員としてスルドという大太鼓を演奏していた。
スルドを再開しようと決めた誉は、近隣でスルドを演奏できる場を探していた。そこで、ひとりのスルド奏者の存在を知る。
配信動画の中でスルドを演奏していた彼女は、打楽器隊の中にあっては多数のパーツの中のひとつであるスルド奏者でありながら、脇役や添え物などとは思えない輝きを放っていた。
過去、身を置いていた世界にて、将来を嘱望されるトップランナーでありながら、終ぞ栄光を掴むことのなかった誉。
自分には必要ないと思っていた。
それは。届かないという現実をもう見たくないがための言い訳だったのかもしれない。
誉という名を持ちながら、縁のなかった栄光や栄誉。
もう一度。
今度はこの世界でもう一度。
誉はもう一度、栄光を追求する道に足を踏み入れる決意をする。
果てなく終わりのないスルドの道は、誉に何をもたらすのだろうか。
スルドの声(共鳴) terceira esperança
桜のはなびら
現代文学
日々を楽しく生きる。
望にとって、それはなによりも大切なこと。
大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。
それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。
向かうべき場所。
到着したい場所。
そこに向かって懸命に突き進んでいる者。
得るべきもの。
手に入れたいもの。
それに向かって必死に手を伸ばしている者。
全部自分の都合じゃん。
全部自分の欲得じゃん。
などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。
そういう対象がある者が羨ましかった。
望みを持たない望が、望みを得ていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる

