スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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(美宝と映)

 
「っ……待ってよ……!」
 息を切らしていることを表現するため、喋りはじめる前に唾を飲んで、疲れと息切れで言葉が詰まっている様子を表現した。
「待ってどうするの? カウンセリングでもしてくれる? 全部自分の気持ちから来てることくらいわかってる! それが映にわからないことだってわかってるよ!」
 
 挫折を経て、卑屈さを抱えるようになった美宝。映に巻き込まれるようにして始まった物語の主人公。
 明るく人の輪の中心にいるような映と対比するようなキャラクター性の主人公を、高梨さんは見事に演じきっている。
 今目の前に居る子は、完全にどこにでもいる高校生だ。言葉数が少ないのに圧を感じさせるような実力派俳優高梨妃夜はそこにはいなかった。しかし、ここにどこにでもいる高校生を当てがったとしても、こんな自然に「普通の、少し卑屈な高校生」が目の前に居るなんてことにはなっていないはずだ。
 
 その世界に疎くても、実力者の凄さというのは肌感覚で感じられる気がした。
 私は彼女よりも活力にあふれた子を演じなくてはならない。才能の前に委縮してる場合じゃない。
 
「わかるとかわかんないとか、何言ってんのよくわかんない! わかってなきゃ心配しちゃダメ? あたしは美宝と一緒に演奏したいの! 美宝のことわかんなくったって、自分のことはわかる! やりたいんだからしょーがないじゃん。一緒にやりたい相手がなんか様子おかしかったら心配になるよ。心配になったから心配しただけで、わかるとかいちいち考えてらんないって」
 
 結構な長いセリフ。
 でも、私には「間違えずに言えた」といった類の安堵は無い。
 映として、私をモデルにしたちょっと自己主張が苦手な友だちを心配し、一緒に演奏したいと思っている友だちを追いかけたいと思い、行動をし、言葉を掛けたのだ。
 それは心のあるがまま。理性の部分で覚えたセリフとか、間違えたかどうかとか、そういうことは今の私からは抜け落ちていた。
 なので、厳密には台本と違う言葉を発していたかもしれない。
「カット」の声に我に返った私に、ようやく理性が戻ってくる。
 
 やば……アドリブになっちゃっていたかもしれない。素人の癖にそんな真似、きっと許されない。
 丸めた台本を持ってこっちに向かってくる監督。

 理性が戻った私の頭の中はややパニック状態だ。
 え、なんで今日サングラスしてんの? 急にアイコン的な監督スタイルにしたってこと? それでちゃんと現場見られるの? ああ、怖いぃ……!

 その間、多分十秒未満。体感的には二十秒くらいあった気がする。
 無言で迫ってきていた監督は、私の前で止まり、おもむろに口を開く。

 監督に怒られる――――
 
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