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たべたいもの
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『divine finger』の社屋は豪奢な建物で、オフィスビルというよりは戸建てに近い作りだ。
窓が多い作りで、会議室にも大きな窓があった。
シャープシェードは三分の二ほど上げられていて、陽光が室内を穏やかに照らしている。
柔らかなカモミールティーがほのかに香る空間で、小国さんと私の時間はゆっくりと流れていた。
「色部さんの演技が素晴らしかったのは想定外の幸運でしたが、当初より想定されていた懸念、成功させるには払拭が不可欠だった懸念についても、色部さんは見事にクリアしてくれた」
小国さんが言うには、小国さんやしょーちゃん達で最大限私へのケアを施し、撮影機会を最低限に少なくそして短くしたとしても、撮り切れるかどうかは五分五分との見立てだったらしい。
それほどまでに、あの監督のあの現場は、過酷なものになると思われていた。
それはまさにその通りだったが、思いのほか私はタフだったようだ。
どちらかと言えば、監督自身やその言動、行動には、怖さはあるけど怒りや悲しみにはそれほど直結しなかったから、あまり負荷やダメージが無かった。要さんの方が怒っていたくらいだったし。
恐怖は慣れるし、事前に予測がついていたり、正体が明らかになったりすれば、恐怖は恐怖でなくなることも相俟って、思われていたよりは容易に越えられたものと分析できた。
妃夜さんとの話で自覚した、ある種の感情の希薄さが、撮影を完遂させるという点で見れば良い方に作用したと言えるだろうか。
「でも、良かった。いや、こちらの立場で色部さんの資質や懐の深さに甘えるべきではないことは重々承知していますが、千屋監督のやり方を受け容れて……はいないのかもしれませんが、対応してくださって、本当にありがとうございます」
「い、いえ、そんな大層なことしたわけじゃないですし」
改まって頭を下げる小国さんに、恐縮してしまう。
「あはは、すみません。固くさせてしまうつもりはなかったのですが。でも、本当に助かってるんですよ」
小国さんの雰囲気がまた柔らかいものになった。
「おふざけで罰ゲームでアイスクリームをおごるみたいなノリにしていますが、それだけで済ませて良いものではないなと思っているんですよ。仕事ですから、ギャラで応えるのが筋なんでしょうけれど、ご存知の通り恥ずかしながら低予算案件でして……色部さん、何か食べたいものとかありませんか?」
「ええと……うなぎ?」
何となくパッと思いついたものを答えた。
そういえば、最後に鰻を食べたのはいつだっただろうか。
要さんとどこか行った時のお弁当でひつまぶしを食べたような気がする、いや、直近でバイト終わりにみんなで夜食を食べようと寄った牛丼屋さんでバイト先のママがうな丼をみんなの分奢ってくれたのが最新だ。
きちんとしたうなぎ屋さんでの食事となると、小学生時代まで遡らなくてはならない。バレエで賞を取ったとき、お父さんがお祝いにと連れて行ってくれたことがあったことを思い出した。
窓が多い作りで、会議室にも大きな窓があった。
シャープシェードは三分の二ほど上げられていて、陽光が室内を穏やかに照らしている。
柔らかなカモミールティーがほのかに香る空間で、小国さんと私の時間はゆっくりと流れていた。
「色部さんの演技が素晴らしかったのは想定外の幸運でしたが、当初より想定されていた懸念、成功させるには払拭が不可欠だった懸念についても、色部さんは見事にクリアしてくれた」
小国さんが言うには、小国さんやしょーちゃん達で最大限私へのケアを施し、撮影機会を最低限に少なくそして短くしたとしても、撮り切れるかどうかは五分五分との見立てだったらしい。
それほどまでに、あの監督のあの現場は、過酷なものになると思われていた。
それはまさにその通りだったが、思いのほか私はタフだったようだ。
どちらかと言えば、監督自身やその言動、行動には、怖さはあるけど怒りや悲しみにはそれほど直結しなかったから、あまり負荷やダメージが無かった。要さんの方が怒っていたくらいだったし。
恐怖は慣れるし、事前に予測がついていたり、正体が明らかになったりすれば、恐怖は恐怖でなくなることも相俟って、思われていたよりは容易に越えられたものと分析できた。
妃夜さんとの話で自覚した、ある種の感情の希薄さが、撮影を完遂させるという点で見れば良い方に作用したと言えるだろうか。
「でも、良かった。いや、こちらの立場で色部さんの資質や懐の深さに甘えるべきではないことは重々承知していますが、千屋監督のやり方を受け容れて……はいないのかもしれませんが、対応してくださって、本当にありがとうございます」
「い、いえ、そんな大層なことしたわけじゃないですし」
改まって頭を下げる小国さんに、恐縮してしまう。
「あはは、すみません。固くさせてしまうつもりはなかったのですが。でも、本当に助かってるんですよ」
小国さんの雰囲気がまた柔らかいものになった。
「おふざけで罰ゲームでアイスクリームをおごるみたいなノリにしていますが、それだけで済ませて良いものではないなと思っているんですよ。仕事ですから、ギャラで応えるのが筋なんでしょうけれど、ご存知の通り恥ずかしながら低予算案件でして……色部さん、何か食べたいものとかありませんか?」
「ええと……うなぎ?」
何となくパッと思いついたものを答えた。
そういえば、最後に鰻を食べたのはいつだっただろうか。
要さんとどこか行った時のお弁当でひつまぶしを食べたような気がする、いや、直近でバイト終わりにみんなで夜食を食べようと寄った牛丼屋さんでバイト先のママがうな丼をみんなの分奢ってくれたのが最新だ。
きちんとしたうなぎ屋さんでの食事となると、小学生時代まで遡らなくてはならない。バレエで賞を取ったとき、お父さんがお祝いにと連れて行ってくれたことがあったことを思い出した。
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