スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら

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休憩所の妃夜さん

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(高梨 妃夜)


「すみません石坂さん。それが許されている場に来ているののは私だから。気にせず吸ってくださいな」

 妃夜さんの入室に、慌ててタバコを消した石坂さん。
 妃夜さんは石坂さんに詫びて、気にせずに喫煙するよう促した。

 
「高梨さん休憩所来るの珍しいですねー。ドーナツ食べます? ポンデ、ラス一ですがそれ以外は結構ありますよ。あとパンも」
「うん、もういただいてる。でも、ひとつ貰おうかな……」
 
 妃夜さんは休憩所を使わないので、差し入れの類やお弁当は妃夜さんの分は分けられて楽屋や控室に届けられることが多い。
 スタッフの食事の補助も兼ねているパンやおやつは休憩所に置かれているが、待ち時間や休憩が長い時などは、気の利くスタッフが休憩所の物資をいくつかピックアップして、妃夜さんの楽屋や控室に届けていた。
 
 妃夜さんはたくさんのドーナツの中から、シンプルなチョコレートの掛かったドーナツを選び、私の座った席からひとつ空けて腰を掛けた。
 おやつの物色を終えた五十嵐さんと池さんも、なんとなくその付近の椅子に座った。池さんが四等分したポンデを、妃夜さんも含めてそれぞれに配り、適当に取ってきたドリンクも回してくれた。私はボスのフルーツティーを選んだ。

 喫煙を遠慮しないよう言われた石坂さんは、新しい一本に火をつけ、ものすごい勢いで吸い切り、ブラックコーヒーをもう一本一気に飲み干すと、ささっと休憩所から出ていった。
 居心地が悪くなった、というわけではないだろう。彼はきっと食事も休憩も、たぶんトイレも、もしかしたら睡眠も、短時間で一気に済ませてしまうタイプなのだと思った。

 
「次の高梨さんの撮影って、色部さんと一緒のシーンですよね? 待ち結構ありますよねぇ」
 
 スケジュール表では二時間二十分後が妃夜さんと私の撮影の予定だ。現時点で一時間弱押しているから、実際は三時間以上の待ちを覚悟しなくてはならなそうだ。
 
 全体の進行状況とスケジュール観については、スタッフさんの方がより熟知しており且つリアルタイムで更新もされている。

 五十嵐さんは妃夜さんが珍しく休憩所に来た理由を、長すぎる待ち時間の時間つぶしだと推測したようだ。
 普段口数は多くないが気難しいタイプというわけでもない高梨さんに、俳優への遠慮と配慮を持ちながらもどちらかと言えば自ら話しかけるタイプの五十嵐さんはとりあえず当たり障りのない話題で口火を切り、なんとなくその場をおしゃべりの空間にした。
 五十嵐さんも池さんも、どのシーンでも仕事はあるから、長々とこの場に居られはしない。それでも黙ってゆっくり過ごすことを選ばなかったのは、予測した妃夜さんがここに来た理由を鑑みた気遣いが半分、残りは単純に話していたかったのだろう。
 
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