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電話連絡
しおりを挟む(色部 誉)
コンロの火を止める。
トマト缶と鶏がらスープ、ダシ醤油を利用して簡単に作ったトマトスープの鍋からふたり分のスープをよそい、両手で器を持ってダイニングテーブルにいって食卓に並べた。
ひとつひとつ作って、よそって、持っていく。それぞれの工程はまとめてやったほうが絶対に効率が良いのはわかっているが、その場その場で考えて、作る、ってやり方をしていたので、こんな感じになってしまう。手際はきっとかなり悪い。
要さんが帰ってくるのはもう少し先になりそうだ。
少し早く作りすぎたかもしれない。今配膳しても、要さんが食卓に着く頃には冷めてしまいそうだ。そういう面でも、要領が悪い。
バターとマヨネーズで炒めたライスにコーンと小さな立方体のベーコンを塗し、塩コショウとさらにバターを投入し炒め、おろしニンニク、焼き肉のタレ、醤油、粗挽きコショウで味付けした自家製ペッパーランチと、スーパーで買ったミックスサラダに、キムチと豆腐を混ぜてダシ醤油、ポン酢、鶏がらスープで味付けし胡麻を振りかけたサラダ。
私も要さんもあまり自炊はしないが、要さんは時々私の分も作ってくれていた。
たまには私もと頑張ってみたのだが、ほぼ混ぜるだけ、鍋やフライパンを火に掛けるだけの簡単な料理ですら、ひとつひとつを辿々しく完成させるので精一杯だった。同時に複雑な料理を複数手がける人の頭の中はどのようになっているのだろう。
作業で使用した調理器具を先に洗っておこうとシンク前に立った時、キッチン天板に置いていたスマホが、木琴を軽やかに奏でているような音色をリズミカルに鳴らし始めた。トークアプリの通話ではなく、電話の着信音だ。
画面を見ると、先日の面談時に登録した小国さんの名前と番号が表示されていた。
結局今日は小国さんは現場に入らず、なので先日のお誘いの答えはまだできていなかった。
「はい、色部です」
「お疲れ様です、小国です。遅い時間に申し訳ありません」
まだ十九時。決して遅い時間とは思わないが、仕事で連絡する時間としては遅い時間なのかもしれない。
それは、これが仕事の連絡だからなのか、小国さんに社会人としての感覚が染み込んでいるからなのかはまだわからない。
「いえ、大丈夫です」なんでしょうか? とは訊かず、相手の言葉を待つ。
「今日は顔を出せずすみませんでした。スポンサーの担当者が無理を言っていたみたいですね」
監督かスタッフの誰かから、今日のことを聴いたのか。それとも、その担当者は小国さんと話すと言っていたから、直接連絡があったのか。
「河内さんにも困ったな……ああ、担当の彼ですがね。悪い人ではないのですが、利に聡く、理に寄りがちと言いますか。数字上の見込みで動かれるので、現場の状況や感情を軽んじているところがあります。そのような方が、スポンサーという強い立場に居るわけですから、現場は振り回されてしまいますが、現場を振り回していることを自覚はしていても、言い方は良くないですが、『現場如き振り回しても構わない』と思っている節がありますね。なんて言うと、『悪い人ではない』なんて言い方も、説得力ありませんか?」
力なく笑って言う小国さん。
間に挟まれている小国さんも大変なんだろうなぁ。
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