太陽と星のバンデイラ

桜のはなびら

文字の大きさ
81 / 123
日が落ち星が隠れたとしても

羽龍の動機1

しおりを挟む
 慈杏は父親の若人の羽龍評を思い出していた。確かに距離を感じさせない雰囲気を持っていて、ついつい気安く話してしまう。

「ウリちゃんが入ってくれたら、おにいさんもっと楽しんでくれると思う」

「俺の音でアキが踊るのか。良いね。ガビとの練習を思い出すよ。楽しかったな」
 本当にそうなったら、どんなにか素晴らしいだろうか。

「幼なじみなんですよね。そして、同じ目的を二十年も共有して一緒に戦ってきた……」

「はは、そんな格好の良いものじゃないってのはご存知の通りだよ。ほんと恥ずかしいな」

「でも、そこまで深い繋がりの親友がいるのは、素晴らしいと思います」

 親友か。羽龍は少し表情を翳らせた。

「あの、冗談抜きで本当に一緒にやりませんか?
落ち着く時期ってお仕事の関係ですか?
プロジェクトはあとは物理的な完成を待つだけですよね?」
 慈杏は羽龍をひとりにしてはならないような気がして強く誘った。

 美嘉の死は暁と羽龍への複雑な思いを抱かせたのは間違いない。
 しかし今の時点で、慈杏も商店街の者たちも、『ソルエス』のメンバーも、ふたりへ責める思いを持つ者はもう居なかった。そのことを伝えたい、伝えなくてはならないのではと思った。
 そのためには言葉ではなく、感じてもらわなくてはと。

「うん、ちょっとやることが残っているんだ」
 羽龍は慈杏を見ず、ダンサーたちの練習風景を見ながら答えた。慈杏は羽龍を見ながら問う。

「……おふたりの計画に関係することですか?」
 羽龍はふっと笑って、少し自分語りしちゃって良いかなと、ようやく慈杏の目を見て尋ねた。慈杏は目を逸らさず頷いた。

「俺ね、この街には小学校にあがるタイミングで引っ越してきたんだ。だから転校生って感じではないんだけど、地元の子たちは幼稚園から一緒ってのも多かったからなんとなく最初から仲良しグループみたいなものはできていたんだ」

 
 羽龍が引っ越しをしてきたその年に、地域には規模の大きいマンションができた。
 その数年前に第一種中高層住居専用地域になったことで、マンションが建築できるようになった地域にとっての一号物件だ。
 計五棟から成る大規模レジデンスで、その後地域の人口が一気に増えるきっかけとなったマンションだ。同時に戸建て分譲なども散発していて、他所から来た子どももたくさんいたが、マンションの子たちはマンションの子たちでグループになっていることが多かった。

 羽龍は母子家庭だった。
 不自由はなかったが、裕福ってほどではなかった母子は、六戸ほどの小さな賃貸アパートに住んでいた。
 離婚を機に働き始めた母親の職場に通いやすい条件を満たしている物件の中で、最も安いから選ばれた住まいだった。
 近所には羽龍の同級生もいなく、クラス内では既にいくつかのグループができ始めている中で、羽龍はなかなか溶け込めずにいた。

「慈杏さんは学区が違うんだっけ? 俺たちの学校は出席番号が誕生日順でさ」

「あ、うちもそうでしたよ」

「地域的にそうなのかな? 高校の時はあいうえお順だったから違和感あったけど、世の中的にはそっちがメジャーらしいね」

「あはは、それこの地域のあるあるらしいです。わたしもそうでした。周りにびっくりされますよね」

 少し重い雰囲気になりそうだった話題を、羽龍は持ち前の柔らかい明るさでほぐした。

「で、俺の前の席がアキだったんだ。休み時間になったら後ろ向いてさ、名前訊かれて。
俺が滑舌悪かったのか、アキちゃんが聞き取れなかったのか、ウリ⁉︎ って。
うまくいじってくれて周りの奴らとも仲良くなれたよ」

 その時に、地域に新しくサッカークラブができるという話しをされて、暁から入ろうって言ってくれたのだと羽龍は言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スルドの声(反響) segunda rezar

桜のはなびら
キャラ文芸
恵まれた能力と資質をフル活用し、望まれた在り方を、望むように実現してきた彼女。 長子としての在り方を求められれば、理想の姉として振る舞った。 客観的な評価は充分。 しかし彼女自身がまだ満足していなかった。 周囲の望み以上に、妹を守りたいと望む彼女。彼女にとって、理想の姉とはそういう者であった。 理想の姉が守るべき妹が、ある日スルドと出会う。 姉として、見過ごすことなどできようもなかった。 ※当作品は単体でも成立するように書いていますが、スルドの声(交響) primeira desejo の裏としての性質を持っています。 各話のタイトルに(LINK:primeira desejo〇〇)とあるものは、スルドの声(交響) primeira desejoの○○話とリンクしています。 表紙はaiで作成しています

スルドの声(交響) primeira desejo

桜のはなびら
キャラ文芸
小柄な体型に地味な見た目。趣味もない。そんな目立たない少女は、心に少しだけ鬱屈した思いを抱えて生きてきた。 高校生になっても始めたのはバイトだけで、それ以外は変わり映えのない日々。 ある日の出会いが、彼女のそんな生活を一変させた。 出会ったのは、スルド。 サンバのパレードで打楽器隊が使用する打楽器の中でも特に大きな音を轟かせる大太鼓。 姉のこと。 両親のこと。 自分の名前。 生まれた時から自分と共にあったそれらへの想いを、少女はスルドの音に乗せて解き放つ。 ※表紙はaiで作成しました。イメージです。実際のスルドはもっと高さのある大太鼓です。

スルドの声(嚶鳴2) terceira homenagem

桜のはなびら
現代文学
何かを諦めて。 代わりに得たもの。 色部誉にとってそれは、『サンバ』という音楽で使用する打楽器、『スルド』だった。 大学進学を機に入ったサンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』で、入会早々に大きな企画を成功させた誉。 かつて、心血を注ぎ、寝食を忘れて取り組んでいたバレエの世界では、一度たりとも届くことのなかった栄光。 どれだけの人に支えられていても。 コンクールの舞台上ではひとり。 ひとりで戦い、他者を押し退け、限られた席に座る。 そのような世界には適性のなかった誉は、サンバの世界で知ることになる。 誉は多くの人に支えられていることを。 多くの人が、誉のやろうとしている企画を助けに来てくれた。 成功を収めた企画の発起人という栄誉を手に入れた誉。 誉の周りには、新たに人が集まってくる。 それは、誉の世界を広げるはずだ。 広がる世界が、良いか悪いかはともかくとして。

スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
 日々を楽しく生きる。  望にとって、それはなによりも大切なこと。  大げさな夢も、大それた目標も、無くたって人生の価値が下がるわけではない。  それでも、心の奥に燻る思いには気が付いていた。  向かうべき場所。  到着したい場所。  そこに向かって懸命に突き進んでいる者。  得るべきもの。  手に入れたいもの。  それに向かって必死に手を伸ばしている者。  全部自分の都合じゃん。  全部自分の欲得じゃん。  などと嘯いてはみても、やっぱりそういうひとたちの努力は美しかった。  そういう対象がある者が羨ましかった。  望みを持たない望が、望みを得ていく物語。

千紫万紅のパシスタ 累なる色編

桜のはなびら
キャラ文芸
 文樹瑠衣(あやきるい)は、サンバチーム『ソール・エ・エストレーラ』の立ち上げメンバーのひとりを祖父に持ち、母の茉瑠(マル、サンバネームは「マルガ」)とともに、ダンサーとして幼い頃から活躍していた。  周囲からもてはやされていたこともあり、レベルの高いダンサーとしての自覚と自負と自信を持っていた瑠衣。  しかし成長するに従い、「子どもなのに上手」と言うその付加価値が薄れていくことを自覚し始め、大人になってしまえば単なる歴の長いダンサーのひとりとなってしまいそうな未来予想に焦りを覚えていた。  そこで、名実ともに特別な存在である、各チームに一人しか存在が許されていないトップダンサーの称号、「ハイーニャ・ダ・バテリア」を目指す。  二十歳になるまで残り六年を、ハイーニャになるための六年とし、ロードマップを計画した瑠衣。  いざ、その道を進み始めた瑠衣だったが......。 ※表紙はaiで作成しています

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スルドの声(共鳴2) terceira esperança

桜のはなびら
現代文学
何も持っていなかった。 夢も、目標も、目的も、志も。 柳沢望はそれで良いと思っていた。 人生は楽しむもの。 それは、何も持っていなくても、充分に得られるものだと思っていたし、事実楽しく生きてこられていた。 でも、熱中するものに出会ってしまった。 サンバで使う打楽器。 スルド。 重く低い音を打ち鳴らすその楽器が、望の日々に新たな彩りを与えた。 望は、かつて無かった、今は手元にある、やりたいことと、なんとなく見つけたなりたい自分。 それは、望みが持った初めての夢。 まだまだ小さな夢だけど、望はスルドと一緒に、その夢に向かってゆっくり歩き始めた。

処理中です...