【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea

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11. 妹の お・ね・が・い

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「お姉様!  お姉様の旦那様……アドルフォ様って噂通り無口だけど凄くカッコいいのね!」

  ロイター侯爵家の面々との対面を終えて、私の部屋にやって来たシルヴィは目をキラキラさせながら私に言った。

「知らなかったわ!  あんなにカッコいい人だったなんて……あぁ、もう!  どうしてお父様は最初に言ってくれなかったのかしら?」
「……」

  (泣いて嫌がっていたのによく言うわ……)

  私はため息をついてシルヴィの目を見て言う。

「シルヴィ?  あなたが自分で言ったのよ?  だん……アドルフォ様は無口で冷酷無慈悲な方だから絶対に嫌だって」

  シルヴィはうっ……という顔をしたもののすぐに反論して来た。

「だって、そう噂されていたんだもの!  噂があったのは本当よ?」
「嘘だとは言ってないけれど、シルヴィはその噂を鵜呑みにしたのでしょう?」
「そ、それは……」

  おそらく旦那様(仮)のその噂は無口過ぎて、周囲に誤解されたからだとは思うけれど、どうして冷酷無慈悲になったのかしら?
  シルヴィを叱りながらふとそんな事を思った。

  (旦那様(仮)は確かに無口は無口だけど、あんなに優しく笑ってくれるし、分かりやすいのに……)

  私からすれば冷酷無慈悲な方だなんて噂が起きた事が不思議でしょうがない。

「……で、でも、実際は全然違うのね!  確かに無口だったけど!  素敵だったわ」

  シルヴィがうっとりした顔で旦那様(仮)を褒めだした。

「……」
「お飾りの妻でしかないにも優しく接する事が出来るなんて!  本当に素晴らしい人なのね!」

  ──ズキッ

  “お飾りの妻”その響きに私の胸が痛む。
  私は分かってて嫁いで来たのに何故胸が痛むの?  自分で自分の心が分からない。
  そして、シルヴィの発言にもゾクッとした。


  (素敵……に素晴らしい人……やっぱり嫌な予感がする……)


「ふふふ、ねぇ、お姉様?  
「!」

  (出た!  シルヴィのお・ね・が・い)

  その言葉の続きは聞かなくても分かる……

「理由は知らないけど、アドルフォ様って契約の花嫁が欲しかったんでしょ?」
「……」
「お姉様でも私でも良かった、とお父様は言っていたわよね?」
「……」
「ねぇ、お姉様。“お姉様の旦那様だった人”なんて素敵!  最高よ!  だから私、お姉様の旦那様……アドルフォ様が欲しいわ。離縁して私にちょうだい?」
「……シルヴィ」
「だってほら、それに私達姉妹の内どっちでも良かったのなら、見映えもパッとしないし中身もつまらなくて面白味の無いお姉様なんかよりも、数倍可愛い私の方が絶対喜ばれると思うの」
「……」

  シルヴィは私の想像通りの言葉を言った。

「お飾りの妻という立場よ」
「そんなの私の可愛さですぐに本物の妻になってくれと望まれるに決まってるわ!  お姉様と私は違うのよ」

  シルヴィはニッコリ笑ってそう言った。

  (本当にこの子は……)

「旦那様はとっても……いえ。とってもどころじゃない無口よ?」
「そんなの構わないわ!  あんなにカッコよくてお姉様の旦那様だった!  それだけで私にはもう最高に魅力的に見えるの!  それにこんなに可愛い私がたくさん話しかけたら、きっと答えてくれるわ!」

  シルヴィは無邪気な笑顔で物凄く恐ろしい事を言う。
  そして、最後に嫌という程、聞き慣れた言葉を言った。

「だから、ね?  お願い、お姉様!  アドルフォ様を私にちょうだい!」



*****



「……ふぅ」

  私はため息と共に自分の部屋を出る。
  
  (今はシルヴィと居たくない)

  何を言われるのかは、ある程度想像が出来ていたとはいえ、やっぱり面と向かってああいう事を言われるのは辛い。
  
  (あの子の欲しがり癖はいったい何なの……)

 「少し、風に当たろう……気持ちを落ち着かせたい」

  そう思って私は中庭へと向かった。


───


「あれ?  先客がいる……って、旦那様?」

  中庭に着くと先に人がいた。誰かと思えば旦那様(仮)。

「……!」
「旦那様……」

  私も驚いたけれど旦那様もびっくりしている。

「偶然ですね。旦那様も外の風に当たりに来たのですか?」
「……」

  旦那様(仮)は無言で頷く。
  理由は不明だけど旦那様(仮)も一人になりたい気分だったのかもしれない。

  (これは邪魔してはいけないわね)

「すみません、ではお邪魔するのも失礼なので、私は別の所へ──……!?」

  そう言いかけて目の前から立ち去ろうとしたのだけれど、

「だ、旦那様!?」
「……」

  旦那様(仮)が私の腕を軽く掴んで引き止めて来た。

「あ、えっと?  私に何かご用事で……?」
「……」

  私の事を引き止めた旦那様(仮)はじっと私の目を見つめる。
  そして、そっと私の目元に触れた。

   (また……?  って……そうだ、私……さっきシルヴィと話してて……)

「あ、こ、これは泣いた……とかでは無くて……ですね、えっと」
「……」

  私は完全にしどろもどろ状態。
  自分でも何を言っているのかと思う。

  ……ポンポン

  すると、今度は旦那様(仮)の手が優しく私の頭をポンポンする。
  そして、ポンポンは当然のようにナデナデへ……

  ──ナデナデ。

「旦那様……」
「……」

  ──ナデナデナデナデ。

  (優しいナデナデだわ。これは私が落ち込んでいるのを分かっていて慰めてくれているのね……)

  優しい言葉なんて一つもかけられていないのに、これは慰めで労わってくれているのだと伝わって来る不思議。
  まさか、ナデナデという行為がこんなにも感情豊かなものだったなんて。
  すごいわ、ナデナデ。

  (だからこそ……嫌)

   ──旦那様(仮)のこの優しい手をシルヴィに譲るのは……嫌。

  そもそも旦那様(仮)は“物”じゃない。ちゃんと感情を持った“人”なのだから。

  ナデナデナデナデ……

「旦那様……私、さっき初めてシルヴィに逆らって喧嘩したのです」
「……!」
「これまで、ずっとどこか色んな事を諦めながら、逆らえずにシルヴィの我儘を聞いて来てしまったけれど……今回は嫌だったんです」
「……」

  ……ナデナデ!

  ナデナデの手つきが変わった。

  (それでいい!  そう言ってくれているみたい)

「今、あの子は私が、おそらく初めて逆らったから部屋で一人で不貞腐れています」
「……」
「あ、何か馬鹿な真似はしないよう、ちゃんとルンナを見張りに置いて来ましたよ?  そこは心配しないで下さいね?」

  シルヴィは自分の思い通りにいかない時、物に当たる癖があるから、本当に一人にすることは出来ない。

「……」

  ナデナデナデナデ!

  旦那様(仮)がフッと笑って、ナデナデされた。
  分かってるよ!  と言っているみたい。

「旦那様は“お姉さんなのだからシルヴィの言う事を聞いてあげなさい”とは言わないんですね」
「……」
 
  ……ナデナデ!

  (当然だ!  って言ってくれている気がする)

  それが嬉しくて私の胸の中が熱くなる。
  そして思う。

  ──やっぱり嫌。シルヴィに旦那様(仮)を譲るなんて絶対に嫌!

  (例え、お飾りの妻だとしても、私が旦那様(仮)の隣にいたい)

  無理に口を聞いてくれなくてもいい。
  こうして、ナデナデしてくれるだけで私は幸せ……この結婚に後悔なんて無いから。

「旦那様……もう少しこうしていてくれますか?」
「……!!」

  ナデナデナデナデ……!

  その後、ちょっと顔を赤くした旦那様(仮)の優しいナデナデは、私の心が落ち着くまで続いた。

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