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12. お姉様なんかより私の方が (シルヴィ(妹)視点)
しおりを挟む「───その“お願い”は聞けないわ。諦めてシルヴィ」
「え?」
お姉様のそんな言葉を聞いたのは生まれて初めてだった。
(は? 今、聞けないって言った? 諦めて?)
何の冗談なの?
お姉様のくせに何を言っているの?
これは聞き間違い……そうよ、これは聞き間違いよね??
「やぁだ、お姉様、大変! 私、耳がおかしくな……」
「おかしくなんかなっていないわよ。聞こえなかった? 私は“嫌だ”と言ったの」
「!」
「シルヴィのそのお願いは絶対に聞けない」
お姉様はもう一度キッパリハッキリそう言った。
こんな顔は今まで見たことが無い。
「……酷い、お姉様……可愛い妹のお願いなのに……」
「……可愛い?」
「そうよ! お姉様と違って皆、私の事を可愛いって言ってくれるじゃない? そんな可愛い妹のお願いを嫌だと言うなんて……お姉様なのに酷いわ!」
「シルヴィ……」
お姉様のどこか冷めた目が私をじっと見つめた。
(何よ、その目!)
お姉様なんだから可愛い妹の願いを叶えるのは当然でしょ?
何でそんな目で私を見るの?
「酷い……?」
「そうよ! 言ったでしょ? お姉様の持ってるものって何でも凄~く素敵に見えるの。だから、欲しくなるのよ」
(でも、不思議なのよね~。いざ、それが私のものになると急に色褪せちゃう!)
カイン様なんてすごくいい例だったわ。
甘いマスクで女性からモテモテだったカイン様。
そんなカイン様が地味で引きこもりでパッとしないお姉様なんかの婚約者になった。
驚きだったわ!
(なんて釣り合わない二人なのかしら?)
カイン様とお姉様が並んでる姿を初めて見た時は、まずそう思った。
お姉様に向けているその優しい微笑みを私のものにしたい、そう思った。
だから、私は自分が一番可愛く見えるようにしてカイン様に挨拶をしたの。
───初めまして、カイン様! 妹のシルヴィです!
───あ、あぁ……君が……ミルフィの妹……よ、よろしく……
(ふふ、いい感じ!)
私の可愛さにカイン様が見惚れたのが分かった。
案外、簡単に私のものになりそう! そう思ったわ。
(それからは簡単だったわ)
お姉様に会う為に我が家に来る度に私も顔を出すようにした。
カイン様も“妹さんも一緒に”と口にしてくれるようになった時は、笑いが止まらなかった!
(お姉様の見ていない所でこっそりキスした時なんて最高にドキドキしたわ!)
男なんて単純よね!
この可愛い顔で微笑んで、迫ればイチコロなんだもん!
──だから、何故かお姉様と仲が良いというお義兄様……アドルフォ様も私が迫れば簡単に心変わりするはずよ!
(あの頭を撫でていたのは意味が分からないけどね)
だから、私がお義兄様を貰っても問題ないでしょ? そう思ってちょうだい? って言っただけなのに!
何でお姉様は言う事を聞いてくれないの?
「いい加減にして……シルヴィのそれ、私にはもう病気にしか思えない」
「えぇ、病気? やぁだ、ふふ、お姉様ったらおかしな事を言うのね?」
お姉様の持ってるものを妹にも分け与える事の何がおかしいの?
普通の事でしょ?
お父様もお母様もお姉様にいつも、そうしろって言ってるわけだし!
「……シルヴィが、なんと言っても私は旦那様と離縁なんてしない」
「えー? お飾りの妻なのに~?」
あんなにカッコいい人を独り占め? ずるくない? お姉様のくせに!
知っていたら絶対私が嫁いでいたわ。
お義兄様だって誰でも良かったんだから、せっかくなら可愛い方が絶対満足だったでしょうに。
「お飾りの妻であってもよ!」
「~~ずるい! ずるい、ずるい!!」
「……シルヴィ。あなたのずるいは聞き飽きたわ」
「なっ!」
「もう、その言葉で周りが何でも言う事を聞くとは思わないで。私もこれまで何でもシルヴィの言う事を聞いてきてしまった事は反省しているわ。だからこそ、少なくとも私はもう今後シルヴィのワガママは聞かない」
「っ!」
(お姉様のくせに~~~!!!!)
────……
お姉様が出て行った部屋に取り残された私はイライラを募らせていた。
(あぁぁぁぁ、もう! 本当に腹が立つわ!)
お姉様は、この家の人達にちょーっと優しくされて勘違いしてしまったのね。可哀想な人……
侯爵夫妻もきっと目が悪いのね。この私を可愛いと言わないでお姉様が可愛いなんておかしいもの。
そして、お義兄様……
「無口とは言っても所詮男は男。可愛い女の子に迫られて嫌な気持ちになる事は無いわよね?」
お姉様なんかじゃ物足りないはずよ!
「お姉様が嫌がってもお義兄様が私の方がいいって言えば、さすがのお姉様も諦めるでしょ!」
だって、あの結婚に愛なんて無いんだから!
(ここはもう私からお義兄様にグイグイ迫るしか無いわね!)
私はそう決心した。
暫くしてお姉様が部屋に戻って来たので、今度は私が部屋の外に出た。
ところで、お姉様の顔が赤いのは何かしらね?
まぁ、いいわ。
(迎えの馬車が来るまでまだ時間がある……この間に少しでもお義兄様に接近しないと!)
そう思って部屋を出た所でちょうどいいタイミングでお義兄様が向こうから歩いて来た。
(やーん、さすが私! ついてるわ!)
よし! 行くわよ! 私は極上の笑顔を浮かべてお義兄様の元に近付く。
「あ、お義兄様!」
「……」
無言。なにか喋ってよ! 本当に無口なのね。
まぁ、いいわ。
私はお義兄様の腕をとってその手に絡みつく。もちろんこの時、胸を押し付けるのを忘れない。
(カイン様はこれでイチコロだったわ。お義兄様はどうかしら?)
「もし、お時間があるなら侯爵家の中を案内してくれませんか~? 私、広いお屋敷って初めてで興味があるんです!」
「……」
(え? これでも無言? って言うより睨まれた? 何で!?)
驚いた私は更にお義兄様の腕にギュッとしがみつき胸を押し付けてみる。
(これならイケるでしょ)
ベリッ
(え?)
お義兄様は無言のまま、私を引き剥がした。
「お、義兄……様?」
「……」
また、じろりと一睨み。
意味が分からないのと、少し怖いのもあって私の身体が震える。
(無口なのは分かっているけれど、なぜ睨まれるの?)
お姉様には優しく微笑んでいたじゃない!
「あ、待って! お義兄……様!」
そして事もあろうに、お義兄様は私を置いてそのまま歩きだそうとしている。
(何で!? 嘘でしょう!?)
「私……」
私はもう一度縋りつこうとしたのだけど、
「シルヴィ様? 宜しければ私が屋敷を案内しますが?」
「っ!?」
そこですかさず私の元にお姉様付きのメイドという女性が現れた。
(あなたなんて、お呼びじゃないわよ! 私はお義兄様を……って、行ってしまわれた……)
「嘘……どうして」
「…………どうかしましたか? シルヴィ様? ご案内しましょうか?」
「……っ」
私はキッとそのメイドを睨みつけたけれど、そのメイドはニコニコ笑っているだけで何のダメージも与えられなかった。
(何でよぉ)
その後、お迎えの馬車が来てしまい私は帰る事に。結局、私の目的は何一つ達成すること無く屋敷に戻る事になってしまった。
(見てなさい! お姉様。私はこのままで済ませたりしないんだから!)
今、私の言う事を聞かなかった事をこの先、後悔すると良いわ!
──お姉様のものは私のもの!
あの美貌のお義兄様も私のものになるんだから!
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