【完結】私の好きな人には、忘れられない人がいる。

Rohdea

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第8話

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「……私の望みは…………一代限りで構いませんので、婚姻の自由を望みます」


  ──ん?
  何か思ってたのとちょっと違う発言が来た。
  どうして、はっきりユーフェミア侯爵令嬢との再婚約って言わないの?

「ほぅ?」
「私は卒業後、スチュアート公爵家の所領の一つである伯爵家を賜る事が決定しております。その当主となる私の婚姻の自由を求めます」

  ルカスの言葉に会場内のあちらこちらで驚きの声が起こる。

「つまり、ルカス。そなたは本来であれば婚姻のかなわない相手を将来の伴侶に望んでいる……という事か?」
「仰る通りでございます」

  ──んん? 
  ユーフェミア侯爵令嬢って、色々あったけど侯爵令嬢の立場のままよね?  伯爵家には嫁げないの??
  いや、それより婿入りして侯爵家の跡を継ぐんじゃなかったの?
  どういう事かしら?  話が全く見えないわ!



  私がウーンと唸っていると、突然ルカスに手を取られて引き寄せられた。



「え、何?」
「私が将来の伴侶に望んでいるのは、今年度のシュテルン王立学校首席卒業者である、マリエールですから」






****





  後に聞いた。
  ルカスの願い事を聞いた時の会場内の声は凄まじかった、と。
  また、会場の端ではユーフェミア侯爵令嬢が泡を吹いて倒れたとか何とか……

  どうして私がそんな、人づてのようでしかその時の様子を知らないのかと言うと、私はルカスに引き寄せられた後の記憶が真っ白だったから。


  完全に途中から記憶がさっぱりだった。
  しかも、そのまま私は熱を出して数日寝込んでいた。


  今までの溜まりに溜まった疲れと、卒業式の怒涛の展開……どうやら身体が限界を迎えていたらしい。
  そして、ようやく体調も無事に回復したところで、記憶が真っ白になってる部分の話を聞かされたけど、私は信じなかった。
  違うわね、正確に言うなら信じられなかった。


  だって、おかしいでしょ?  ルカスの望みが……私を将来の伴侶に……とか。
  きっと何かの間違いよ。
  それともあれかな?  どうやら伯爵家を賜わるらしいルカスの仕事のパートナーとして私の力が必要とされた、とかね。

  私と違って決して恋じゃない。
  そんな期待は抱いちゃダメ。
  私は必死に勘違いしないよう自分に言い聞かせていた。


  だけど、私の回復を知ったルカスから連絡が来た。
  ちゃんと話がしたいと言う。
  お父様が訪問を受け入れたのでルカスは我が家にやって来た。

  ……そして私は今、彼と向かい合って話をする事になった。

「どうぞ」
「あぁ、ありがとう」

  普段、飲んでいる紅茶とは比べ物にならない程安い紅茶だろうに、ルカスは気にする様子も、躊躇う様子も無く口をつけた。

「「それで……」」

  私とルカスの声が重なった。

「……」
「……ルカスから言ってよ」
「いや……」
「いいから!」

  私の剣幕にルカスは少したじろぎつつも口を開いた。

「俺は……マリエールの望みはルドゥーブル男爵家の再興だと思ってたんだ」
「……陛下もそう仰ってたわ」
「違ったんだな……なら何で……」

  ────私の願い。

  そう、入学当初の私の願いは間違いなく“ルドゥーブル男爵家の再興”だった。
  それは本当だ。
  令嬢暮らしに戻りたかったわけじゃない。社交界を追われた両親の為だった。
  だけど、それを知った両親は首を横に振ってハッキリと私に告げた。
「そんな事は望んでない」と。

  その日から私は何を目指せばいいのか分からなくなった。
  何の為にシュテルン王立学校に入ったの?
  何の為に首席卒業を目指してるの?

  そんな頃、ルカスと出会った。
  私と切磋琢磨しながら、時には楽しそうに首位争いをするルカスと過ごしていたら、いつしか自分の願い事なんかどうでも良くなった。


  だから、もし私が首席卒業したならば。
  私の願い事はルカスの為に使う──ずっとそう決めていた。



「……ルカスが居てくれたおかげで今の私があるから、かな」
「は?」
「だから、どうしても私じゃなくてルカスに望みを叶えて欲しかったの」
「だから、それは何で……」
「分からない?」

  私はルカスの目を見つめて言った。

「……好きな人の幸せを願うのは決しておかしな事では無いでしょ?」
「マリエール……?」

  ルカスは呆然としていた。
  きっと私の気持ちなんて全く気付いてなかったのね。
  私も言うつもりなんて無かったのに。
  けど、この気持ちに区切りをつける為にもちょうど良かったのかもしれない。

「マリエールが……俺を?」
「ルカスがユーフェミア様の事を忘れられずにいるみたいだから、二人の幸せの為にルカスの願いを叶えてってお願いしたのに……」
「は?」
「何であんなおかしな事を言い出しちゃったの?  あんな事言わなくても私はルカスを手伝うよ?」
「いやいやいや、待て待て待て!!」

  ルカスが心底分からないって顔をして焦ってる。分からないのは私の方よ。

「どうして、俺がユーフェミアを忘れられないって話になってる?」
「そうでしょ?  ルカスはユーフェミア様と婚約解消してから誰とも婚約してないし、何よりあの日の顔が……」
「あの日の顔?」
「ユーフェミア様に婚約破棄を申し入れられてた時だよ。ルカス……すごく傷付いた顔してた。私、あの場に居たんだから!」
「いや、あれは傷付いたというより呆れ……」
「その後も私の髪を見てユーフェミア様を思い出して切なそうな顔をしたじゃない!」
「……はぁ?  何だそれ!?」
「だから私は……」


  さらに話を続けようとした私を遮るかのようにルカスは真っ赤になって叫んだ。



「全部、違ーーーーう!  俺が好きなのはお前だ!!  マリエール!」



「…………は?」
「あの場でハッキリと言っただろ!  俺は将来の伴侶にマリエールを望んでる、と!」
「冗談だったんじゃないの?  それか単に私を伯爵家の手伝いとして欲しかったって意味なんじゃ?」
「な・ん・で!  あの場で冗談を言うと思えるんだ!?」
「いや、それは……」
「それに手伝いって何の話だ!  どこからそんな話が来たんだ!?」


   ルカスは頭を抱えてた。私はそんなルカスからそっと目を逸らす。
  その通りなんだけど、信じられなくて冗談だと思いたかったと言うか……
  

「それと、俺はユーフェミアに恋心を抱いてた事は無い!」
「え?」
「俺がずっと密かに気にしてたのはお前だよ……マリエール・ルドゥーブル男爵令嬢!」
「へ!?」
「貴族令嬢でありながら、才女と謳われてたお前を俺はずっと昔から気になってた。だが、俺には家同士で決められた婚約者……ユーフェミアがいた。だからマリエールへの想いは俺の密かな淡い恋心で終わるはずだった……」
「……恋心!?」


  そうして語られたルカスの想いは私の想像を遥かに超えたものだった。


  ユーフェミア様からの突然の婚約破棄の申し出。
  ルカスは密かに喜び、あわよくば私と……と願うもルドゥーブル男爵家の没落で私と縁を結ぶ事は叶わなくなった。
  我が国では貴族同士なら身分差があっても結婚は可能だけど、さすがに貴賎結婚は認められていなかったから。
  だけど、シュテルン王立学校で私と再会し……



「俺が忘れられなかったのはお前だ!  マリエール!」
「ふぇ!?」
「お前はさっき俺の事を好きだと言ったな?」
「……言った……かしら?」

  私はそっと目を逸らし、誤魔化そうとしたけど通用しなかった。

「いや、間違いなくそう口にした」
「えーと……」
「同じ気持ちならもう俺は遠慮しない!」
「ル、ルカス……?」

  身を乗り出したルカスの顔がどんどん迫ってくる。

  あ、コレ。
  絶対逃げられないやつ……私はすぐに悟った。






  ───初めてのキスは甘さより混乱の味がした。







  あのパーティーでのドレスが、実は初めから私の為に用意されていたとか……
  (なんやかんや理由つけて着替えさせるつもりだったらしい!  何処でサイズ知ったの!?)


  ルカスの願いは3年間ずっと変わらず私を妻にする事だけ考えてたとか……


  ユーフェミア侯爵令嬢は、勝手に私に不正の打診をしてたのがバレて再度領地送りとなり、近々、既に愛人が何人もいるという男性の後妻に入るとか……



  後々、そんな話を聞かされる事になるのだけれど、
  とりあえず今、分かったのは……





   私の好きな人には、忘れられない人がいる。






  ──そして、その相手は…………何故か私だった!  という事だけだった。











✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼




ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
えっと、この話、当初の予定ではここまでで、番外編的なものは一切考えていなかったのですが……
昨日からですかね?  まさか、あと残り1話という所で急に読んで下さる方が増えて驚いてまして。
何が切っ掛けなのかは分かりませんが、こうして目に止めて読んでいただき、本当にありがとうございました。
とっても嬉しいです!

で、あんまりにも嬉しかったので、番外編としてもう少しだけ続けようかと思っています。
とりあえず今、考えてるのは……
入学した頃の二人、ルカス視点、その後の話……辺りでしょうか。
それを終えてから完結にしたいと思います。


29日に完結予定の『モブの王太子~』の残り数話と、入れ替えで投稿する予定の新しい話の準備もありますが、ペースは変わらずこのまま一日一話でお届け出来たらと思ってます。

もうちょっと読んでやってもいいよ!
っていう心優しい奇特な方は、引き続きもう少しだけこのままお付き合いいただけると嬉しいです。
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