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これ王子の中だけの“妄想の恋人”だったりしないかしら?
しおりを挟む「知らない、のですか?」
「はい」
まさかの返答に私は驚きを隠せない。
これはビーグル殿下(違う)とやらは、案外口先だけだったのでは?
……そんな思いがムクムクと湧き上がって来る。
「婚約破棄と追放を命じられた時に、その真実の愛の相手という方はその場にはいなかったのです」
「いなかった……そうだったんですか」
珍しいわね……
こういうパターンの時の婚約破棄してくる王子ってだいたい浮気相手を隣に侍らかすものではないの??
それで、ちょっと親密な様子とか見せちゃったりして。
それなのに驚きだわ。これはどう考えても新しいパターン。
やっぱり、これ王子の中だけの“妄想の恋人”だったりしないかしら?
「ですが、そのお相手がどんな方なのかは語っていました」
「え!」
残念! 妄想の恋人ではなかったみたい。
「どこかのパーティーで出会った方なのだそうです」
「パーティー……と言う事は、平民の女性ではないのですね」
ふむふむ。どうやら貴族令嬢らしい。
「それから、殿下が言うには明るく元気な方だそうです」
「それはー……どこにでもいそうですね」
思わず苦笑してしまった。
特徴が無さすぎる!
「確かにそうですね。えぇと、それで……その方は猫みたいな吊り目らしいので一件、冷たくワガママそうに見えるけれど、実は健気で一途でいじらしい所があるそうでして。そんな所がとても可愛いのだと頬を染めて語っていました」
「……」
セイラ様が教えてくれた王子が語ったらしい浮気相手は吊り目である特徴くらいしか無さすぎて、やっぱり本当に存在しているのかしらと思いたくなるだけだった。
──ますます“妄想の恋人”という線が捨てきれないわ。色々と心配になるレベル……
「あ、その方の髪は私と違って綺麗な金髪らしいです」
「そんな! 黒髪だって素敵だと思うわ!」
前世で慣れ親しんだ色だもの。
それにセイラ様の雰囲気にはとても合っている。
しかし、金髪だなんてこの世界にどれだけいると思って?
セイラ様が相手が誰なのか分からないと言ったのも納得出来る気がした。
(本当にどういう事なのかしら?)
そんな風に考え込んでいたら、セイラ様がうるうるした目で私を見ていた。
「!? セイラ……様? どうされました?」
「私の髪が素敵……? キャロライン様……ありがとうございます!!」
あぁ、セイラ様!
そんな目をうるうるさせている所も可愛いわ……守ってあげたくなる。
何で王子はこんな可愛らしい方を捨てたりしたのかしら!
きっと、見る目がない人なんだわ。
まぁ、その真実の愛とやらの相手がどんな人であれ、こんな可愛いらしいセイラ様を捨ててた事をいつか後悔するといいわ!!
心からそう思った。
そして、そんなセイラ様は持ち前の素直な性格と明るさであっという間に皆に溶け込み学園の人気者となっていった。
美少女だし、頭も良くて性格もいい。皆に好かれる性質……
そんなセイラ様の様子がやはり私には“聖女ヒロイン”に見えて仕方なかった。
(そうなると私は──)
「キャロライン……」
「……シュナイダー様、降ろしてくださいーー」
「ダメ」
本日の私達は偶然会えた……わけではなく、シュナイダー様と定期的な交流をする日。
私たちに今更そんな時間が必要? と思わなくはないけれど設けられているので続いている。
私とシュナイダー様が揃った時どうなるのか慣れっこの王宮の方達は空気を読みまくって静かに退出してしまった。
そして待ってましたと言わんばかりに私を定位置(膝の上)まで誘導したシュナイダー様は、ギューッと私を抱きしめる。
(……? やっぱりこの間からどこか様子がおかしい気がする)
いつも通りなのにどこか違和感がある……
ただ、疲れている……と言うにはどうにもこうにもおかしい。
「シュナイダー様」
私は膝の上からシュナイダー様に抱き着く。
なんとなく、こうしたくなった。
「ど、どうしたの!? キャロライン……キャロラインからなんて、め、珍しい!」
「だって、シュナイダー様、元気が無いんですもの」
「そう?」
「そう? ではありません! 私には分かります」
「キャロライン……」
私の名前を優しく呼んだシュナイダー様は、そっと私の頬に手を触れると、そのままチュッと唇を重ねてくる。
「!!」
「……でも、キャロラインもどことなく元気が無いよね?」
「!!」
なんて事なの! さすが、シュナイダー様……見抜かれてるわ! やはり、毛先の元気の善し悪しまでもが分かるシュナイダー様は伊達じゃない!
「実は……不安……なのです」
「不安?」
つい、口からこぼれた言葉にシュナイダー様は不思議そうに聞き返す。
「……シュナイダー様が私から離れていってしまうような……そんな不安です」
「……」
「聖女様が現れた事で、その……」
「キャロライン!」
シュナイダー様はギュッと私を抱きしめながら言った。
「困ったな。僕は今、嬉しくて叫び出しそうだ」
「はい?」
何故なの! 私は不安だと言っているのに。
と、不満に感じていたら、シュナイダー様は優しく微笑んだ。
「あぁ、ごめん……昔のキャロラインだったらこういう時、何も言ってくれなかった気がして」
「え?」
胸がドキッとした。
それはきっと図星だったから。
昔の私だったら“悪役令嬢だから”を言い訳にして、この不安を抱えたままシュナイダー様を諦める事ばかり考えていたと思う。
「それで黙って身を引こうとしたりしてさ、でも今はちゃんと不安だと口にしてくれるようになったんだな、と思うとつい……ごめんね、不安がっているのに」
「あ……」
シュナイダー様は優しい手つきで私の頭を撫で撫でしながらそう言った。
「聖女が現れた事でキャロラインは不安になっているんだよね?」
「……はい。でもそれはシュナイダー様の気持ちを疑っているとかでは無いのです!」
「うん。分かってるよ」
そう言っていつもの優しく甘い瞳で微笑みながら私を見つめてくれる。
だけど、すぐにその瞳が翳った。
「でも、キャロラインがそう感じた不安は間違いではないんだよ」
「……」
「キャロラインも薄ら感じていてるんだよね? そうだよ、“聖女”が我が国に来た事で、キャロラインとではなく“聖女”と婚姻すべきだという声があがり始めてるんだ」
「!!」
シュナイダー様のその言葉に、心のどこかでは分かっていた事だったけれど、ショックで目の前がクラっとした。
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