1 / 46
1. 崩壊する国と捨てられた王女
しおりを挟む────その日、グォンドラ王国の王宮では、王に向かって臣下達が詰め寄っていた。
「陛下! このままでは民衆の不満が爆発して暴動になりかねません!」
「いや、すでに暴動は起きている……!」
「王宮に乗り込んでくるのも時間の問題でしょう」
臣下達に詰め寄られているグォンドラの国王は、先程から「うぅ……」と唸るばかり。
「この天変地異は、もはや神の怒りとしか思えません!」
「神は何にお怒りなのですか!?」
「早くマリアーナ様を呼んで神の声を聞いてもらって下さい!」
ここ最近のグォンドラ王国は災害に見舞われていた。
大雨により一部地域の川は氾濫し、村全体をまるまるのみこんだ。
村人達はどうにか逃げていて助かったものの、大勢が住む場所と財産を失った。
他にも止まない大雨のせいで作物が駄目になったという地域も多数報告されていた。
しかし、こうなる前は逆に日照りが続いており、雨乞いの儀式なども行われ、ようやく雨が降ったと喜んだものの今度は一向に止まず、遂には災害まで引き起こした。
───これは何かがおかしい。
神の怒りに違いない。
神の声が聞けるという王家の“聖女”はいったい何をしているんだ!?
王家は我々を見捨てるつもりなのか!
そもそも、この国は神に護られているのでは無かったのか!?
グォンドラの国民達がそう思うのも不思議ではなかった。
「あなた達! 落ち着きなさい!」
「そうだ! 今、マリアーナを呼んでいる。マリアーナが来れば神の真意も分かるし、この天変地異を鎮める方法も分かるはずだ!」
王へと詰め寄る臣下たちにそう声をかけて宥めようとしているのは王妃と王子。
そして、先程から名指しされている“マリアーナ”はこの国の第二王女。
愛らしい容姿と明るく人懐こい性格で、もともと国民からも絶大な人気があり、王や王妃、兄王子からも常に可愛がられて来た華のような王女───……
グォンドラ王国は神に護られた国。
安定した気候に緑豊かな土地を有し資源も豊富に採れるとても豊かな国。
遠い昔は、そんな豊かなグォンドラ王国を狙って侵略を考えた他国が神の怒りに触れて滅んだという話が残っている。
その事から、今では他国からも警戒され攻めいられることもなくなった。
そんなグォンドラ王国を守護する神と唯一繋がる事が出来るのが“聖女”という存在だった。
代々、聖女は王家の女性から選ばれるという。
よって、王家に生まれた王女達は18歳になると皆、“神の声”を聞くという儀式に臨む。
そして、無事に神の声を聞けた王女は“聖女”となる───……
しかし、ここ数年、王家に王女は生まれておらず、聖女不在の時期が続いていた。
そんな中、現国王の元に二人の王女が誕生した。
人々は歓喜にわいた。今代では遂に聖女様が誕生するぞ、と。
そんなマリアーナは、つい最近18歳の誕生日を迎えて、儀式を経て神の声が聞ける事が判明し、この国の“聖女”となったばかりだった。
マリアーナが神に愛された“聖女”と判明した時、誰もが納得した。
────あの出来損ないでお荷物な王女とはやはり違った、と。
「……お父様、お母様、お兄様……」
そして、ようやく件のマリアーナが姿を現した。
これで、彼女に神の声を聞く儀式をしてもらえば、この天変地異の理由も分かり、暴動も収められるだろう……と誰もが思っていたが何故か、肝心のマリアーナの顔色が優れない。
「マリアーナ、どうしたのだ?」
「……」
「心優しいマリアーナの事だから、ここ数日の天変地異に気を病んでしまったのね? 大丈夫よ、あなたがいるんだから」
「……」
「そうさ、マリアーナ! 君はあいつと違って選ばれた聖女なんだから。さぁ、神の声を聞いてくるといい」
王、王妃、王子と顔色の悪いマリアーナに向かって声をかけるがマリアーナの顔は沈むばかり。
「…………のよ」
ようやくマリアーナが口を開いた。
しかし、声が小さくてよく聞こえない。
「何と言ったんだ? マリアーナ」
「…………だ、だから! 私は────」
この時、マリアーナの口から語られた“言葉”を聞いたその場に居たもの達は、全員絶望の渦に堕とされる事になった。
──────その頃。
自分の生まれた祖国でもあり、ゴミのように私を捨てたグォンドラ王国が、“そんな事”になっているとは知らない私。
元グォンドラ王国の第一王女、リディエンヌは……
「お前は何者だ? そこで、何をしている? ここは我が家の庭だ。不法侵入か?」
「……」
「答えろ! 答えないと憲兵に突き出すぞ!?」
「……!」
(ひぃっ!)
捨てられた先の国でちょっとした理由から、迷い込んでしまった屋敷の庭で、ものすごーーく美形なのに、ものすごーーく冷たい眼差しをした男の人に詰め寄られていた。
147
あなたにおすすめの小説
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです
しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。
さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。
訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。
「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。
アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。
挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。
アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。
リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。
アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。
信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。
そんな時運命を変える人物に再会するのでした。
それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。
一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全25話執筆済み 完結しました
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる