3 / 46
3. 出来損ないでお荷物な王女
しおりを挟む儀式を終えた後の私はいつしか周囲にこう呼ばれるようになった。
───聖女になれなかった出来損ないで、お荷物な王女、と。
「まぁ、最初から聖女に選ばれるのはマリアーナ様だろうとは思っていたけどねぇ」
「やっぱり神様はよく見てるわね」
「本当に。2年後の聖女様の誕生が楽しみ!」
ヒソヒソ……
「聖女誕生まであと2年は待たないといけないのか~」
「でも、マリアーナ王女が聖女様になるのなら納得だろ」
「明るくて可愛らしいからな。聖女にピッタリさ」
ヒソヒソヒソヒソ……
儀式を終えてから、色々な場所で私をちらちら見ながらヒソヒソヒソヒソと陰口……いえ、正々堂々としているから悪口を言われるようになっていった。
(……聖女になれない“王女”がこんなにも肩身が狭くなるものだったなんて知らなかったわ)
儀式の時以来、お父様もお母様もお兄様もあからさまに私の事を避けている。
顔を合わせてしまうと何と言葉をかけたら良いのか分からなくなるらしい。
私の侍女達もまるで腫れ物を触るかのように接してくる。
皆、口ではマリアーナが聖女になるだろう!
ずっとそんな事を言っていたくせに、変な所で気を使おうとする。
(もう、放っておいて欲しいわ。そうでないと───……)
「皆、もうやめて? お姉様の事をそんな風に言わないで?」
「マリアーナ様!」
「マリアーナ王女……」
(───出た!)
「お姉様は神の声が聞こえなかったせいで、出来損ないでお荷物な王女となってしまったのよ? 当然、お姉様だってショックを受けているはずなんだからそんな事は言わないであげて?」
「マリアーナ様はお優しい方だ……」
「姉思い……さすが」
今の発言のどこをどう切り取ったら“姉思い”な“優しい妹”になるのか教えて欲しい所だけれど、そう口にした瞬間、非難されるのは間違いなく私。
「あ、ほらお姉様だわ! お姉様~」
マリアーナは無邪気な顔で私の元に駆け寄って来た。
それまで私の悪口を堂々と口にしていた人達は、バツの悪そうな顔をして離れて行く。
「あら? 皆さんどうしちゃったのかしら、不思議ね、お姉様」
「そうね……」
マリアーナは散り散りになって行く使用人を見ながら可愛らしく首を傾げていた。
「それより、マリアーナ。何か用なの?」
「酷いわ、お姉様! 用が無いとお姉様の元を訪ねてはいけないの?」
「そうは言ってないわ。ただ……」
「私はお姉様の事を心配してるだけなのに……! 酷い!」
「!」
しまった……! と思った。
マリアーナが瞳を潤ませてしまうと、いつだってその矛先は全て───
「……見て! リディエンヌ様がマリアーナ様を泣かせたわ」
「大方、聖女様になれなかったから嫉妬したんだろう?」
「最低……」
こんな様子で私に向いてしまうのだから。
◇◆◇◆
「ようこそ、リード様。お久しぶりですわね」
「…………ご無沙汰しております、王女殿下」
今日は婚約者のリード様とのお茶会の日。
儀式を終えてから顔を合わせるのは初めて。現れた彼の顔は明らかに気まずそうだった。
(あなたまでそんな顔をするのね)
少し悲しい気持ちになりながら、お茶会は始まった。
───けれど。
「……」
「……」
リード様とのお茶会は、カチャカチャと食器の音だけがとても良く響くお茶会と化していた。
そう。会話が……ない!
あまりにも話題が無いなので困っていたら、こういう時は天気の話から入るといい! と、誰かが言っていたのを思い出した。
だから、私は思い切って言ってみる事にした。
「──リード様! き、今日はいい天気ですね?」
「…………ああ」
「……」
「……」
(発展しない!)
せっかくの会話は弾むどころか秒で終わってしまった。
天気の話をと言った人を呼び出して小一時間お説教したいわ!
……結局、その後も盛り上がるような話題は見つからず、とにかく無言の時間だけが流れていた。
「……」
「……」
すでにお腹もガブガブなのに、もはや何杯目になるのかも分からないお茶を飲み干した時、ようやくリード様が口を開いた。
「……そういえば。今日はマリアーナ王女はいないのかい?」
「え?」
そう訊ねてきたリード様の頬がほんのり赤く染まっているように見えるのは多分気のせいではないと思う。
これは……? この表情の意味する所は? 出来れば考えたくない。
「マリアーナは今日はちょっと……あ、そういえば私があなたに会えない時、いつもマリアーナがリード様と過ごしていたと聞いたのですが……」
「あぁ、そうなんだ……って、あれ? 変だな、リディエンヌ殿下。君が忙しくて会う時間なんて作れないからとマリアーナ王女に代わりに応対するよう頼んでいたんだろう? 何を言っているんだい?」
「……え?」
「結局聖女にもなれなかったくせに、よくもまぁ、そんなに無駄な…………って、あ、すまない、言いすぎたね」
「……」
ははは、と失言を笑って誤魔化そうとするリード様。
(……あなたもそうやって私をバカにするのね)
私の心はどんどん冷えていく。
それよりも、気になるのが……私がマリアーナに頼んだ事ですって?
これはいったいどういう事なの?
てっきり、(何故か)私にお茶会をすっぽかされたリード様を見つけたマリアーナが、自主的に相手をしていただけだとばかり……違ったの?
(まさか、マリアーナが?)
『素敵な人よね、リード様って。あんな方が婚約者だなんてお姉様が羨ましいわ~』
『リード様はお優しいのよ? マリアーナ王女は可愛いねっていつも、言ってくれるんだから!』
「……っ」
グイッと勢いよく飲み干したお茶は、何の味もしなかった。
◇◆◇◆
それから1ヶ月、2ヶ月……半年と経っても、皆の私を見る目は変わらず、聖女になれなかった出来損ない、王家に何の貢献もできないお荷物王女……と、冷たくあしらわれる日々が続いた。
家族も相変わらず。
たまに顔を合わせても冷えきった目で見られる。
マリアーナだけは私の元を訪ねてくるけれど、あれはあれで苦痛だった。
また、王宮のメイド達の話によると、リード様も私と会った後は必ず、マリアーナの元にも顔を出していると言う。それも私といる時間より長く一緒に過ごしている、とか。
(これではどっちが婚約者なのか分からないわね……)
マリアーナは今も婚約者はいないので、そんな奔放なマリアーナを咎める人はおらず、悪いのは婚約者の気持ちを繋ぎ止めておけない私の方らしい。
これではまるで、私が惹かれ合う二人を引き裂く悪女みたいだわ、なんて思っていた。
────そんな日々に耐えながら、私が儀式を迎えてから約2年。
遂に、マリアーナの儀式の日がやって来た。
誰もが分かっている結果。だって聖女になるのはマリアーナしかいないから。
なので集まっている人達は、数十年ぶりの聖女誕生の瞬間見るために集まっている。
「では! 行ってきますね!」
マリアーナは笑顔で神殿の奥へと入って行った。
132
あなたにおすすめの小説
聖女で美人の姉と妹に婚約者の王子と幼馴染をとられて婚約破棄「辛い」私だけが恋愛できず仲間外れの毎日
佐藤 美奈
恋愛
「好きな人ができたから別れたいんだ」
「相手はフローラお姉様ですよね?」
「その通りだ」
「わかりました。今までありがとう」
公爵令嬢アメリア・ヴァレンシュタインは婚約者のクロフォード・シュヴァインシュタイガー王子に呼び出されて婚約破棄を言い渡された。アメリアは全く感情が乱されることなく婚約破棄を受け入れた。
アメリアは婚約破棄されることを分かっていた。なので動揺することはなかったが心に悔しさだけが残る。
三姉妹の次女として生まれ内気でおとなしい性格のアメリアは、気が強く図々しい性格の聖女である姉のフローラと妹のエリザベスに婚約者と幼馴染をとられてしまう。
信頼していた婚約者と幼馴染は性格に問題のある姉と妹と肉体関係を持って、アメリアに冷たい態度をとるようになる。アメリアだけが恋愛できず仲間外れにされる辛い毎日を過ごすことになった――
閲覧注意
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
(完結)お荷物聖女と言われ追放されましたが、真のお荷物は追放した王太子達だったようです
しまうま弁当
恋愛
伯爵令嬢のアニア・パルシスは婚約者であるバイル王太子に突然婚約破棄を宣言されてしまうのでした。
さらにはアニアの心の拠り所である、聖女の地位まで奪われてしまうのでした。
訳が分からないアニアはバイルに婚約破棄の理由を尋ねましたが、ひどい言葉を浴びせつけられるのでした。
「アニア!お前が聖女だから仕方なく婚約してただけだ。そうでなけりゃ誰がお前みたいな年増女と婚約なんかするか!!」と。
アニアの弁明を一切聞かずに、バイル王太子はアニアをお荷物聖女と決めつけて婚約破棄と追放をさっさと決めてしまうのでした。
挙句の果てにリゼラとのイチャイチャぶりをアニアに見せつけるのでした。
アニアは妹のリゼラに助けを求めましたが、リゼラからはとんでもない言葉が返ってきたのでした。
リゼラこそがアニアの追放を企てた首謀者だったのでした。
アニアはリゼラの自分への悪意を目の当たりにして愕然しますが、リゼラは大喜びでアニアの追放を見送るのでした。
信じていた人達に裏切られたアニアは、絶望して当てもなく宿屋生活を始めるのでした。
そんな時運命を変える人物に再会するのでした。
それはかつて同じクラスで一緒に学んでいた学友のクライン・ユーゲントでした。
一方のバイル王太子達はアニアの追放を喜んでいましたが、すぐにアニアがどれほどの貢献をしていたかを目の当たりにして自分達こそがお荷物であることを思い知らされるのでした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
全25話執筆済み 完結しました
二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~
今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。
こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。
「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。
が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。
「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」
一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。
※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
私生児聖女は二束三文で売られた敵国で幸せになります!
近藤アリス
恋愛
私生児聖女のコルネリアは、敵国に二束三文で売られて嫁ぐことに。
「悪名高い国王のヴァルター様は私好みだし、みんな優しいし、ご飯美味しいし。あれ?この国最高ですわ!」
声を失った儚げ見た目のコルネリアが、勘違いされたり、幸せになったりする話。
※ざまぁはほんのり。安心のハッピーエンド設定です!
※「カクヨム」にも掲載しています。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる