【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea

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27. こちらも醜い争い

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────


「リリー、慌ただしくなってごめん」
「私は大丈夫ですわ!」
「だが、目覚めたばかりで母親たちとあんなことになって、力を使って、そしてまた……」
「……」

(殿下が明らかに元気を失くしてしまっていますわ)

 今、私と殿下は馬車に乗り込んで王宮に向かっています。
 それは、早馬で知らされたカリーナ・ドゥーム侯爵令嬢への対処をするためです。

「少々過激な性格なのは知っておりましたが……まさか、王宮に乗り込んで王子と王女相手に大暴れするとは思いませんでしたわ」
「おそらく、昨日、父親から話を聞いたのだろう。それで──」
「王宮に乗り込んだ……ですか」

 私は意識を失くす前に見た憔悴しきったドゥーム侯爵の姿を思い出しました。
 今回の騒ぎでもう灰になっているかもしれませんわね……

「色々、大勢の前でバラされてしまいましたし、アリーリャ王女が裏切って殿下に迫ったことにも腹を立てているのかもしれません」
「大人しく呼び出しを待っていて欲しかったよ……」

 殿下は私の向かい側でがっくりと頭と肩を落としています。
 そんな殿下に向かって私はそっと手を伸ばして頭を撫でました。

「え?  ……リリー?」
「……ナデナデ……ですわ」

 頭を落としたままで、私にされるがままになっている殿下が驚きの声を上げます。

「リリーからの……撫で……」
「そうですわ。だって殿下、たまにこうして私の頭を撫でるでしょう?  ずっとずっと私もやってみたいと思っていたんですの」
「撫で……」

 普段は身長差があるから、そんなことは出来ません。
 今だからこそ!  なのですわ!

「…………初めてだ」
「え?」

 殿下がそっと顔を上げて私の目をじっと見つめました。
 その顔は真っ赤で少し目元も潤んでいるようにも見えます。

「殿下?」
「……誰かに頭を撫でられたの、初めてだ」
「え!?」
「知らないかった。ちょっと照れくさくて……子供になった気分」

 そう言ってへにゃっと笑った顔が本当に子供みたいでドキッとしました。

(こんな顔……初めて見ましたわ!)

 私と婚約した時の殿下は、十一歳になっていたはずです。
 十四歳だったお兄様よりはもちろん幼かったですが、それでも私からはすっかり“お兄さん”だったのでこんな顔を見るのは初めてです。

(胸がキュンキュンしますわ……!)

「なんだかいいなぁ……リリーに頭を撫でられるの……幸せで……癖になりそう」
「……!」
「結婚したら……毎日撫でて欲しいな……」
「なっっっ!  けっっっ」

 うっとり蕩けた顔ですごいことを口にしていますわ!
 恥ずかしくなってしまった私は、ワシャワシャと勢いよく頭を撫でた後、手を離しました。

「リリー?」
「そ、それは、き、気が早いですわ!!」
「……」

 恥ずかしさのあまり、プイッと顔を逸らしながらそう口にしたら、暫くポカンとしていた殿下がクスリと笑いました。

「な、な、なんで笑うんですの!!」
「はは、いや……気が早いってことはさ、リリーは僕とも結婚してくれるつもりだし、結婚してから僕の頭を撫でることは嫌じゃないんだなって」
「~~~!」

 なんて前向きな解釈ーーーー!
 そんなことを思っていたら殿下がそっと私の手を取り握ります。

「リリー……好きだよ」
「っっ!  と、突然、何を言うんですの!」
「今みたいに顔が赤くなってプイッて顔を逸らすリリーが可愛くて可愛くてたまらない……」

 こんなの絶対、可愛くない態度のはずですのに……
 ですが、殿下からすれば、そんな私も可愛くなってしまうのだと思うと……

(は、恥ずかしいですわ…………でも、嬉しい)

 私の中の気持ちはもう答えが出ているのに……
 お義姉様にも言いましたが、それをどう伝えたらいいのかが分かりません───

(繋いでいる手からこの気持ちが伝わってくれればいいのに……)



 そんなことを思って悶々としていると、私たちを乗せた馬車は王宮に到着しました。




「───こちらです。王子殿下と王女殿下の帰国の準備をしていたら、突然、カリーナ・ドゥーム侯爵令嬢がやって来まして……」

 王宮に到着した私たちは、そのまま“揉めている”らしい三人の元へと向かいます。
 詳しい様子を現場に向かいながら聞くことになりました。

「王子や王女の様子は?」
「昨日からお二人はもうどこか魂が抜けた様子でしたから……今朝もぼんやりされていたので、驚いていましたね」
「カリーナ・ドゥーム侯爵令嬢の様子は?」
「とにかくお怒りの様子で……“よくも裏切ったわね!?”と王女殿下に詰め寄って──」

 何だか取っ組み合いが始まっていそうな話ですわね……
 そう思いながら現場に向かいました。


「~~!」
《……~~……!》

 三人が揉めている……正確にはカリーナ様が暴れているという現場に到着すると、確かに言い争うような声が聞こえて来ました。
 その部屋に突入する前に聞き耳を立てながら、少し様子をうかがうことにしました。


「私はあの憎い女──リリーベルを蹴落とす協力を求めただけだったのに!  下着姿でイライアス殿下に迫ったってどういうつもりなの!?」
《カ、カリーナ……》

(……リリーベル、呼び捨てですわ)

 しかも憎い女呼ばわりです。

《そんなことより!  話が全然違ったわ!  愛のない政略結婚ではなかったの!?》
「話が違った?  そんなはずないわ!」
《いいえ!  わたくしたちの前……いえ、皆の前で堂々とイチャイチャイチャイチャ……》
「はぁ?  イチャ……?  ふざけないで!  イライアス殿下がそんなことするわけないでしょう!?」

 イチャイチャという言葉が許せなかったらしいカリーナ様が激怒します。

《本当なのよ……!  愛の告白までしていたんだから!》
「お父様もそう言っていたわ……だからいい加減に無駄な夢を見るのはやめろって。でも、そんなの嘘に決まっているわ!」
《──落ち着け!  カリーナ!  私も見たし聞いた!》
「離して!  二人揃って私をバカにするのね!?」

 アリーリャ王女に殴りかかろうとしているカリーナ様をアンディ王子が必死に止めますが、興奮が止まらないらしく全く聞く耳を持ちません。

「……しかも、あなたたち……二人揃って余計なことをペラペラ喋ってくれたそうじゃない!」
《だって、あまりにもカリーナの話と違ったんだもの!》

 王女が必死に抵抗しています。

「それで、下着姿で迫ったわけ?  お父様の話だと恥をかかされて緊急帰国することになったそうだけど?」
《う、うるさいわね!  あれは……イライアス殿下の目が節穴なのよ!!》
「は?  どうして殿下の目が節穴になるのよ!」
《だって、こんなに魅力たっぷりなわたくしが下着姿で迫ったのに、なんの反応もしなかったのよ!?  男として有り得ないわ!!》
「アリーリャ王女が好みじゃなかっただけでしょう!  私がやったら違う結果になるわ!」

 カリーナ様!  その自信はどこから来るんですのーー!?
 あと、どさくさに紛れて殿下が男性として有り得ないと言われています。
 チラッと横にいる殿下に視線を向けると───

(……こ、怖っ……!  冷気を漂わせているのに笑顔ですわ!)

「で、殿下……?  と、突入はしません、の?」
「うん?  あぁ、随分色々なことを話してくれそうだから少し見守ろうかと思って」
「見守る?」
「そう。どうせ呼び出して尋問しても嘘をつくのは目に見えているから──さ」

 殿下のその顔を見た私はカリーナ様……終わったわ、と思いました。
 
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