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第8話 同じ気持ち
しおりを挟む興奮する私を止めようとして、ベルナルド様は私の両肩をガシッと掴んだ。
「クローディア!」
「……っ」
話を止められた私は涙目でベルナルド様を見上げる。
「……可愛っ…………っっではなくて!」
「……」
ベルナルド様も少し興奮気味のせいか顔が赤い。
そんな彼は、一旦大きく深呼吸すると私の目をしっかり見つめて言った。
「いいか? クローディア。自分の事をそんな風に言うな」
「は、い?」
「“出来損ない”とか“無能”だとかだよ。何で、そんなに自分を卑下するような事ばかり言うんだ!」
ベルナルド様のその言葉に私は目を伏せる。
「……だって、本当の事です。力を授からなかった私はお兄様やお姉様みたいに国の役にも人の役にも立てなくて」
「比べる必要なんか無いだろう? クローディアはクローディアだ」
「ベルナルド様?」
目の前のベルナルド様が、どうしてか悔しそうな顔をしている。
「アピリンツ国の王族の特殊能力の話はもちろん知っている」
「……ならば」
私がそう言いかけると、ベルナルド様は首を横に振りながらこう言う。
「もし、本当にクローディアが何の能力も持っていないのなら、これまでの間、どれだけ肩身の狭い思いをして来たのだろうかと想像するだけで俺も胸が痛くなる」
「え?」
私はその言葉に驚いて伏せていた顔を上げる。
きっと、今の私はすごく間抜けな顔をしていると思う。
「……何だその顔? そんなに変な事を言っただろうか?」
「い、いいえ。ですが、そ、それは……」
だって、今まで私に向かってこんな事を言ってくれる人はいなかった。
“出来損ない”“無能”お荷物“”“役立たず”
──そして“お父様とロディナ様の血を引いているはずなのに”
誰もがこう言うばかりで、私の気持ちを考えてくれる人なんて誰一人としていなかったのに。
「全く。しかし、クローディアはそんなポカンとした間抜けな顔も可愛いな」
「………………え?」
(今、可愛いって聞こえた……)
「アピリンツ国の王女と言えば、大陸一の美姫としてナターシャ王女が有名だが、クローディアだって、いや、クローディアの方が……」
「ベルナルド様?」
「何でもない。あー、つまり、クローディアは自分には特殊能力が無いから、妃になっても何のお役に立てません……そう言いたいのか?」
「そうです……」
私がそう答えると、今度はベルナルド様の手が私の頬に触れて、そのままそっと頬を撫でられた。
そして、ベルナルド様は優しく微笑む。
「妃の話に力の有無なんて関係無い。俺がクローディアともっと一緒にいたくて罰と称してここに残らせようとしているだけだ」
「……えっ!?」
(もっと一緒にいたくて?)
それって私と同じ……気持ち?
トクンッと胸が大きく高鳴る。
「俺が強引に“妃にする”と言ったから、特殊能力目当てだと思われたのかもしれないが……違う!」
「……」
「むしろ、言われるまで特殊能力の事なんて欠片も頭に無かったよ。まぁ、それはそれでファーレンハイトの王族としてどうなんだ? って話だけど」
「あ……」
その言葉に思わず、ふふっと笑いが込み上げた。
すると、ベルナルド様は私の頬をもう一度優しく撫でた。
「やっと笑ったな」
「!」
「その顔が見たかった。クローディアの笑顔は…………その、可愛い、から」
「っっ!?」
(何これ、何これ!? 今、また可愛いって……言った??)
私の心は大混乱に陥っていた。
どんどん頬が熱を持っていく。今の私はどれだけ真っ赤になっているのかしら?
きっとベルナルド様に負けないくらい赤いと思う。
「……クローディア、もしかして照れている?」
「き、聞かないで下さい!!」
私がプイッと顔を逸らしたら、ベルナルド様はとても愉快そうに笑った。
「あははは」
「何で笑うのですか!」
「いやいや、クローディアのそういう所も可愛いな、と思ってね」
「!!」
(また! ……また可愛いだなんて。何回言うのかしら! きっとからかってるのよ)
「クローディア」
そんな気持ちでジロっと睨もうとしたら、何故かそのまま抱きしめられた。
「!?!?」
今度は何!? と、またまた私の頭の中は大混乱に陥る。
ベルナルド様は妃になれと言いながら、実は私の心臓を止めたいのでは? そう思いたくなって来た。
ギュッと抱きしめられて困惑する私の耳元で、ベルナルド様はとても小さな声で囁く。
「……まさか、こんな事になるとは」
「…………ベルナルド様?」
ベルナルド様のぼやきは続く。
「どこで見初めたのか、大陸一の美姫を妻にするとか突然言い出した父上の正気を疑ったし、自分も顔しか知らなかった大陸一の美姫とやらの中身はどんな悪女なのかと思えば……やって来たのはまさかの身代わりの妹」
「……」
「しかも、可愛い」
「!?」
(ま、また言ったーー!)
「ん? どうしたクローディア? 身体がプルプル震えている」
「ど、どうしたもこうしたも……!」
先程までとは別の意味で興奮した私の様子を見て、ベルナルド様は不思議そうな顔をする。無自覚、無自覚なの!?
「あ、もしかして寒い? でも、おかしいな。まだ季節的に寒くは無いはず」
「ち、違いますから! これは寒さではありません」
「え? 違うの?」
残念。それならもっと、どさくさで抱きしめようと思ったのに。
そんな言葉がベルナルド様の口から聞こえた。
「~~~っっ!」
再び、顔を赤くしてプルプルする私をベルナルド様はニコニコしながら嬉しそうに頭を撫でた。
───
「つ、疲れた……」
部屋に戻った私はそのままベッドに突っ伏す。
今はこのベッドのふっかふか具合がとても心地よく感じてしまう。
こんな事、予想もしていなかった。
まさか、お姉様を望んだはずのローランド陛下が亡くなってしまっていて、息子の王太子だったベルナルド様が即位されていたなんて。
そして、身代わりは早々にバレてしまい、まさか自分が……妃?
「本当に私なんかで……あっ」
ついつい長年の癖で“私なんか”と口にしてしまいそうになる。
ベルナルド様には、
「出来損ない、だとか無能だとか、お荷物……それから、私なんか……これらの言葉は禁止だ!!」
と強く言われている。また、それを破ったらお仕置するとも。
「……お仕置って何をするのかしら? 痛いのは嫌だわ」
あの人、いい笑顔ですごい事をして来そう……
そんな事を考えていたら、緊張が解けたせいもあり段々と眠くなって来た。
「ん……何だかとても、眠っ……」
そのままパタッと私は眠りに落ちた。
────……
夢の中にお母様が出て来た。
(お母様……)
懐かしいいつもの笑顔で微笑んでいるお母様は私に向かって言う。
『クローディア、いい事? あなたの力は─────よ』
『え?』
何だかいつもの夢と違う。
いつも見る夢は、お母様と過ごした時の記憶の夢で。
でも今は……
しかも、困った事に肝心な部分はよく聞こえなかった。
(私の力って……まだ、お母様はそんな事を言っている)
『いい? あなたのその力を解放するには愛───……』
『お、お母様!?』
まただ。またしても大事な所が聞こえない。
解放って聞こえた。何だかとても重要な事を言われている気がするのにどうしてはっきり聞こえないの?
『クローディア、どうか幸せに……』
『え? あ、そうじゃなくて! お母様!!』
私は必死にお母様に向かって手を伸ばす。
でも、その手は当然だけど届かない。
そして、お母様の姿が消えたと同時にハッと目が覚めた。
「……っ!」
そっとベッドから起き上がる。外の明るさに大きな変化は無いからほんの少しだけうたた寝をしたみたい。
ぼんやりした頭のまま、私は自分の手のひらをじっと見つめた。
「……私の力。力の解放? 解放するには……」
(愛って聞こえた気がする)
「……どういうこと?」
いつもと違ったその夢は、私の胸の中に大きな疑問を残した。
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