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第23話 真実(ほんとう)の力
しおりを挟む特殊能力の数なんて考えた事がなかった。
だって、力は一つだとばかり思っていたから。
「力を二つ持っている人の話は聞いたことがありません」
私は首を横に振る。
「そうなんだ? そっか……」
「はい」
私はまだ、いつか私にも力が……と期待していた頃に王宮内の書物を読み漁っていた。
だけど、力を持った歴代の王族、関係者の記録の中に二つの力が併記されている人はいなかったと記憶している。
「絶対にそうだと思ったんだけどなぁーー……」
「ちなみに、ベルナルド様は私がどんな力を持っていると考えていたのですか?」
「うん……」
柔らかく微笑んだベルナルド様はそっと、私の頬を優しく撫でる。
なんだかちょっと擽ったい。
「上手く言えないけど、クローディアのいる所が幸福になるみたいな感じかな」
「幸福……?」
その言葉に私は目を丸くする。
「そう。国も栄えて、そこに暮らす人々も幸せになれる……みたいな。他の人達の力もクローディアという存在が居たからこそ強く発揮出来ていたのかな? と、思ったんだ」
「……!」
「だから、アピリンツ国の現状はクローディアが崩壊を願ったからではなく、前にも少し言ったけど、クローディアが国を離れたことでそのバランスが崩れたからじゃないかなって思ったんだ」
私は目を瞬かせる。
「幸福……私のいる所が幸せに?」
「うん、なにより俺はクローディアが今ここにいてくれてすごく幸せだから。初めて幸せを知ったよ?」
───でもそれは、惚れた欲目だからなのかな?
なんてことを照れくさそうに言いながら、私を抱きしめるベルナルド様。
私の胸がキュンとした。
「……えっと、ベルナルド様の言ったそのような力は“初代”の王が持っていた力です」
「あれ、やっぱり居たんだ?」
私はコクリと頷く。
「そうですね、それは神様から授かった力……神の恩恵とも言われています。だからこそ、その力を授かった者が王になったのだと歴史書の中では書かれていました」
(そんな力が私に? まさかね……)
いくらなんでもそれはない、と私は心の中で否定する。
「クローディア。アピリンツ国の特殊能力を持った人間はこれまで他国に出る事はなかったと聞いている」
「あ、はい。そうです」
だからこそ、今回の件は例外中の例外。
私が“無能”だからというのも大きかったとは思うけれど。
「つまり、力は国外に出ることはなかった……ならさ、その初代王と同じ力って、ずっとひっそりいつも誰かの中に引き継がれていた、という可能性ってないのかな?」
「え?」
ベルナルド様が真っ直ぐ、私に向かって指をさす。
「───そして今、それを受け継いでいるのはクローディア」
「え!?」
その言葉に私は大きな衝撃を受けた。
(まさか……本当にそんなことが……?)
「分かりやすく発現するものではないだろうし、力が大きいから鑑定も出来ず誰も気付いていなかったのかもしれないよ?」
「でも、今回は私が国を出たから……?」
「そういうこと。まぁ、これはあれだね。俺が他国の人間だからこそ気付けたことなのかもしれないけどね」
「ベルナルド様……」
ベルナルド様が再び優しく抱きしめてくれたので、私もギュッと抱きしめ返す。
「もしかしたら……お母様は全部知っていた……?」
私の“願いを叶える力”も初代王と同じ力を持っていることも……?
「そうだ! さっきも聞いたけど、結局クローディアの母君の力はなに?」
「……実は、お母様は私に直接、自分の力の事を話してくれた事はなかったのです」
「え?」
「ただ、自分の力が好きではない、そう言っていました」
そう口にしながら、いつだって私のことばかり心配していたお母様の姿を思い出す。
「……お母様の力は“他人の能力に干渉出来る力”と聞いています。お祖父様の話だと主に“強化”させることに特化していたという話ですが」
「他人って……これはまた強そうな……でも、そっかそれなら納得だ」
「何がですか?」
私が聞き返すと、ベルナルド様は優しく笑った。
「つまり。クローディアの“願いを叶える力”を封印していたのは、母君だね?」
「え?」
「母君のその能力は、きっと他人の力を封印することも可能だと思うよ?」
「───!」
そう言われて初めて気付いた。
何でこれまで気付かなかった?
他人の能力に干渉出来るのなら、確かに封印だって可能──
「理由は色々あると思う。クローディアが成長するのを待っていた、とか、お祖父さんを含めた周囲にクローディアの力を利用されることを危惧した、とかね」
「利用……」
お母様はいつも私の側にいたから“力”に気付いたのかもしれない。
子供の私が無邪気に発言した願いごとなどで。
(でも、封印を施すのは明らかに過ぎた干渉だ……絶対に何かしっぺ返しが……)
そこまで考えてハッと気付く。
私は口元に手を当てる。
「まさか! お母様は自分を犠牲にして……?」
だって、お母様はそれまではずっと元気だったのに、ある日突然倒れた。
あれはまさか……
「クローディア!」
「……」
ガタガタと震え出す私をベルナルド様が優しく抱きしめてくれる。
「その件に関しては、母君の本当のことは分からない。だから勝手に決めつけては駄目だ」
「……」
決めつけては駄目。分かっている。
お母様だって自分がどうなるか分からずに力を使ったのかもしれない。
「でも、これだけは分かる。母君が封印したクローディアの力の解放の鍵にしたのは“愛”だ」
「あ、い……」
その言葉に目を大きく見開く。
(そうよ、確かに最近、私は愛し愛される事を知ったわ)
「自分以外にクローディアのことを心から愛し守ってくれる人が見つかった時に解けるようにした封印だったんじゃないかな?」
「それは……」
「もちろん、その相手は家族でも良かったんだと思う。でも、残念ながらクローディアの周りに居たのは……」
「私を愛してくれる人達ではなかった……」
力を悪用しない為に、私の心が曇らないように……お母様は封印解除の条件に“愛”を入れた?
愛し愛され大切に想い合う人がいれば道を間違えないと信じて──?
「クローディア」
「……?」
ベルナルド様の優しい声に顔を上げる。
私を見つめる優しくも力強い瞳と目が合った。
「俺はクローディアを愛してるよ」
「ベルナルド様……」
「俺の愛で封印が解けたのなら、俺はクローディアの母君に認められたって事で良いんだよね?」
「!」
その通りではあるのだけど、恥ずかしくて真っ直ぐベルナルド様の顔が見られない。
「これから、たくさんたくさん俺が母君の分までクローディアを愛するよ? いや、今ももうメロメロなんだけど!」
「メロメロ……」
ベルナルド様はフッと笑って私の目尻に溜まっていた涙を拭うとそこにそっと口付けをする。
「もう泣かさない。やっぱり、可愛い笑顔が見たいからね」
「……!」
そう言って甘く優しい口付けは今度は唇へ……
抱きしめられている温もりと、甘く優しい口付けから、ベルナルド様のたくさんの愛が伝わって来る。
(あなたに会えて良かった……私の愛する相手がベルナルド様で良かった)
心からそう思った。
「───だけど、不思議だな」
長い口付けを終えた後、ベルナルド様が私を抱きしめながら小さな声で呟く。
「……はい?」
「こういう大事なことは、どうにかしてクローディアに伝える方法を残していそうなのにね」
「え?」
(───確かに)
お母様は、倒れてからすぐに亡くなったわけではない。
手紙でも何でも残す方法はあった気がする。
「……」
(まさか……ね)
私はベルナルド様の胸の中で静かに目を閉じた。
─────その頃、アピリンツ国の王宮。
王妃マデリンは焦っていた。
「まさか、こんなことになるなんて」
何の力も無かった非力な自分が、この美貌を使って色仕掛けをして当時の王子を誘惑し念願の王妃にまでなれたというのに……
この急な国の荒れようは何なのか。
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──私は、もうどうなっても構わないわ……でも、あの子、クローディアのことだけは大切にして。あの子はこの国にとって重要な子だから……
息を引き取る間際に言っていたあの言葉。
「……」
(あの遺言はどういう意味だったのかしら?)
あんな冴えない娘が重要な子?
だから、大臣達も国に戻せと言っている?
「ふっ……バカバカしい。私の可愛いナターシャを差し置いて?」
ナターシャはファーレンハイトの新国王の妃になれるわと言ってウキウキで向かって行ったけれど冗談ではないわ!
私は反対だった。
だって、本当にクローディアがこの国に戻って来て、この天変地異が収まったりしたら、私の立場はどうなるの?
また、どいつもこいつも側妃ロディナが……とか言い出すに決まっている!
「チッ……」
マデリンはチラッと部屋の引き出しに視線を向ける。
(あそこにあるあの手紙もさっさと捨ててしまいたいのに!)
なぜか変な力のせいで捨てられない。
あれは何なの? 本当に不気味!
「どいつもこいつも……!」
(こうなったら、いっそのことクローディアも始末するべきかしら?)
そう。
母親と同じ様に───……
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