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第24話 変わらない
しおりを挟む「お兄様も弾き飛ばされていた?」
「うん、しかもご丁寧にその場でナターシャ王女と見苦しい争いを繰り広げていた、そんな報告が上がってるよ」
翌日、ベルナルド様がそう言いながら私に報告書を見せてくれた。
その内容に目を通すと、弾き飛ばされた後の二人の様子が書かれている。
その内容を見て私は眉をしかめた。
(何これ、子供の喧嘩?)
「内容がとても見苦しいです」
「本当に。ちなみに目撃者多数らしいから、これでだいぶアピリンツ国の王家の評判は下がったんじゃないかな」
「ベルナルド様……」
お父様は未だに王宮に籠ったきりで、国民に何の説明もしていないという。
その様子に国民の不満は限界に来ていると言ってもいい。
(いつだって被害を受けるのは国民なのよね)
「ベルナルド様、私、お父様たちはどうでもいいですけど、国民が心配です」
「あぁ……結構、我が国に逃げて来ている人も多いみたいだ。そろそろ……」
「はい」
そろそろ。
その言葉の続きは、決着を付けなくては───でしょうね。
「……ベルナルド様。どこまで効力があるかは分かりませんが、何の罪もないアピリンツの国民が酷いことにならないように……と願ってみても構いませんか?」
「ああ、もちろん」
「ありがとうございます」
私の隠されていた力の一つが“願った事が叶う”ものだという結論には至ったものの、実のところ、条件があるみたいで全てが何でも願って思う通りにいくわけではないようだった。
(不思議な力だわ。と言うよりも全然実感がわかない)
それを言うならもう一つの神の恩恵の力も同じだけれど。
本当に私が初代王と同じ奇跡のような力を持っている……?
正直、その力は私にとってとても重い。
そして、本来なら人に知られてはいけない力なのだと思う。
私は息を吐いた。
(なんだか自分が変わってしまったような気持ちになるわね)
「クローディア」
「べ、ベルナルド様?」
突然、ベルナルド様が後ろから私を抱きしめて来る。
「ど、どうしました!?」
「うん……」
何故かベルナルド様はそこで黙り込む。
「なんとなく──クローディアが“力”の事で悩んでいるような気がして」
「っっ!」
私は息を呑んだ。
どうしてベルナルド様にはいつも私の考えていることが分かるのかしら?
これはもう私が顔に出やすいと言うだけではない気がする。
「何で分かるのかって? それは俺が可愛い可愛いクローディア。君のことが大好きだからだよ」
「ベル……」
「あのね、クローディア? 俺はクローディアの力がどんな内容でも別に構わないんだ」
「え?」
ベルナルド様かニッと笑う。
「ほら、俺はもともと力があってもなくても構わないと言っていただろう?」
「!」
私は目を大きく見開く。
それは私が気にしていたことそのものだった。
「俺はクローディアがおかしな間違った願い事をしようとするなら全力で止めるし、もう一つの“神の恩恵”とやらも、クローディアが幸せでいられるならいいかなって思ってる」
「……私が幸せなら?」
私がいることで国が栄えるなら嬉しいとかないの!?
そう思ってびっくりして振り返る。
「──っ!」
振り返ると同時にそのままチュッと唇を奪われた。
ベルナルド様はにこっと笑う。
「だって俺の役目は変わらないからね。愛するクローディアと我が国の国民を俺の手で皆幸せにする。それだけだよ。何も変わらない」
「……」
「それにクローディアだって何も変わっていないよ? 俺が惚れた時のクローディア、そのままだ」
「ほ、惚れた時……」
その言葉に私の頬が熱を持つ。
「もちろん、俺を不審者扱いしたあの夜だよ? 月明かりで見えたクローディアの姿は……本当に美しかった」
「あ……え?」
そう言ってにっこり笑ったベルナルド様は再び私に迫って来た。
「……」
「……んっ」
ベルナルド様との口付けは幸せだけど、時々苦しい。
主に息が。
「クローディア、鼻で息して?」
「は、鼻で……?」
「そう」
「んんっ……」
そんな愛情たっぷりの口付けはなかなか終わらなかった。
「……そういえば、クローディア。さっき話をしていて気になったことがあるんだ」
「は、はい?」
ようやく甘い口付けから解放された私に、ベルナルド様が少し真面目な表情を浮かべながらそう言った。
これは何か重大な話かしら? と、思い背筋を正してその話を聞こうとした、のだけど。
「───俺とクローディアの間に生まれる子供はどんな力を持って生まれてくると思う?」
「…………は、」
(──んん? 子供ですって?)
私はパチパチと目を瞬かせる。
ベルナルド様は真面目な表情のまま。
「俺とクローディアの子供だから絶対可愛いのは間違いないけど、力も引き継ぐのかな? そう思ったら何だか楽しみだなぁって」
「っっ!!」
ボンッと私の顔が赤くなる。
(ま、真面目な顔して、言うことがそれなのーーーー!?)
「ベルナルド様! き、気が早いです!」
「そう? 気が早いかな? でも、クローディアはもう俺の奥さ……」
「妻です! 確かに気持ちはもう妻ですけど!」
私はギュッと目を瞑り食い気味に答える。
「なら……」
「でも、まだ早いです!!」
「……」
ベルナルド様のちぇっ……と、いじけた顔がとても印象深かった。
これは後で気付いたのだけれど、
ベルナルド様はわざとこんな話を持ち出して茶化して私を元気づけようとしてくれていた。
(ずるい人……でも、そんな所が好きなの)
◇◇◇
翌日……
「クローディア、再びアピリンツ国から手紙が来たよ」
「また、私宛てですか?」
今度は何だろう? という憂鬱な気持ちになる。
「いや、国王の俺に向けてだった。一度クローディア宛に手紙を送ったけど反応がないからって」
「ベルナルド様に!? な、内容は?」
「どうしても確認しないといけないことがあるから、クローディアを一度国に戻して欲しいだってさ。向こうも必死だね」
ベルナルド様がやれやれと肩を竦める。
「……」
「確認したいことが終えたら、そちらにすぐ戻すとか書いてあるけど、まぁ、そんなことはないよね。そもそも、前にクローディアにあんな手紙を送っておいてよく言うよって話だ」
本当にその通りだ。
「お姉様のことは? 前の手紙には花嫁交代とありましたが」
「そこは書かれていないね」
どうやら、今度はお姉様のことには言及していないらしい。
(結界のせいで入国出来ないからかしら?)
王都に戻らず未だに町で騒いでいるお兄様とお姉様の悪評は両国に広がっていると言う。
そのことを聞いてお姉様のことを勧めづらくなったのかもしれない。
「クローディアに会いたければ、正式な手続きを踏んでそちらから会いに来ればいい、って返したけどどう出るかな?」
「……大半が入国出来ないと思いますよ?」
あの人たちがこの国に入れるはずがない。
「ははは、違いないや。誰が来てもアピリンツの王族・貴族は悪意しか持っていなさそうだからね……俺の可愛い妻を国に連れて帰ろうという悪意の塊……許し難い」
「ベルナルド様、私は何があっても帰りませんよ?」
「ああ、もちろん。俺も帰さない」
ベルナルド様が、私をそっと抱き寄せる。
「うるさい王子と王女も未だにあの町に留まっているみたいだし……全員国境付近に揃ったら綺麗さっぱり片付けに行こうか?」
(綺麗さっぱりって)
その言い方に笑いが込み上げる。
「……ベルナルド様、まるでゴミを捨てるみたいに言うんですね」
「え? だってゴミだろう?」
「……ふふ」
躊躇することなくあの人たちをゴミだと言い切るベルナルド様が可笑しくて耐え切れず笑い声が出てしまう。
ゴミ……そうね。
(私のこれからの邪魔するなら────確かにあの人達は要らない)
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