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第28話 王妃の罪
しおりを挟む私がそう呼びかけるとビクッとお義母様は肩を震わせた。
(やっぱり様子が変だわ)
「───だ、だから何の話よっ!」
「……」
目線を逸らしたまま怒鳴るお義母様。
……この人は絶対に何かを隠している。
“それ”が何かは分からないけれど私はそれを知らなくてはいけない。
不思議とそう思った。
グッと拳を強く握りしめて訊ねる。
「あなたは、本当は私に何かしらの力があることだけは知っていたんじゃないですか?」
「だ、だから! な、何を言っているのよ! 私が知っているはずがないでしょう? だ、だから今、こうしてびっくり……驚いているじゃない!」
「……」
そう言って驚いた顔を見せるお義母様。
(だけど──)
…………本当にそうかしら?
だって、この人だけは反応が他の三人と違った。
私に力があったことに驚いていたのではなく、私の“力の内容そのもの”に驚いていたように見えた。
「お義母様! あなたはいったい何を隠しているのですか? どうして私自身も知らなかった事を──」
「なっ、何も隠してなどいないわ! 言いがかりは止めてちょうだい!」
(駄目ね、これはすんなり喋ってくれる気がしないわ)
あまりこういう事はしたくなかったけれど……
そう思いながら私は真っ直ぐお義母様の目を見つめた。
「そこまで仰るなら仕方がありません……今、私の持っていた力がどんなものかは聞きましたよね?」
「は?」
私はフッと鼻で笑う。
「今、ここで私が“お願い”をしたら、あなたは隠していることを全て洗いざらい喋ってくれるのでしょうか」
「……え? す、全てを?」
お義母様の顔色がサーッと変わる。
もちろん、これは完全にハッタリで実際に願ってもそんな事はさせられない。
だけど、脅しとしてなら効果はあるはずよ。
「嘘を言わないで」
「嘘ではありません。だってそれが私の“力”ですから」
私がそこまで言った時、お義母様が頭を抱えて叫び出した。
「……っ! や、止めてよ! わ、私はあの女……ロディナが最期に言っていたのを聞いただけよ! ク、クローディア、あなたはこの国にとって重要な子だからと!」
「……」
「さ、最期の時よ? そ、そんな時にそこまで言うのだから、きっと何か本当に力を持っていると思うのが普通でしょう!? 私はその言葉を信じていただけよ!」
「……」
この言葉に嘘が無いのならお母様の言った私が国にとって“重要な子”というのは、もう一つの力の事を言っているのかもしれない。
だけど……
(それよりも今、私が気になるのは───)
「……いつ、お母様と話をしたのですか?」
「え? だからロディナの最期の時よ……その頃のあなたは公爵家に居たから知らないでしょうけど!」
「……」
確かにお母様が最期を迎えたあの時、私はお母様の指示で王宮から離れてお祖父様の所にいた。
「ですが今、お母様の最期に……とあなたは仰いましたが、お母様は倒れてからまず最初に言葉が発せなくなったのですが? 本当にお母様と“会話”をしたのですか? 筆談ではなく?」
「え? 嘘っ、しまっ……!」
お義母様が慌てて口元を押さえる。
その表情は焦っていた。
「そもそも、あなたは一度もお見舞いにすら来ていなかったと私は記憶しています。なので、その会話をお母様と本当にしたのなら、別の時ですよね? 何故、嘘をつく必要があるのでしょうか?」
「……っっ」
また、目線が泳いでいる。
私は更に念を押す。
「本当はいつなのですか?」
「……」
また、黙りになってしまった。
「クローディア、ちょっといいかな?」
「ベルナルド様?」
それまで黙って話を聞いてくれていたベルナルド様が口を挟む。
「アピリンツ国やクローディアのことを調べている内に分かったんだけど、クローディアの母君、公には病死と発表されているけど、本当は違うと思うんだ」
「え? 違う? どういうことですか?」
「……」
驚いた私が聞き返すと、ベルナルド様は悲しい顔をした。
そして私を抱きしめる腕にグッと力を入れた。
(……あ)
その時、お姉様からジロリと睨まれた気がするけれど見なかった事にする。
「うん……今、クローディアが言った、母君が倒れた後は最初に言葉が発せなくなった、と言うのを聞いてその疑いは強まった」
「……?」
ベルナルド様の手が震えている?
「クローディア。これは、我が国が長年頭を悩ませている問題の一つでもある闇ルートで販売されているある“毒薬”を飲んだ時の症状によく似ているんだ」
「え?」
(──毒薬ですって!?)
ベルナルド様の言葉を聞いてから、私はお義母様の方に視線を向ける。
お義母様はますます青ざめていてブルブルと身体を震わせていた。
(───この反応! まさか、まさか、まさかっ!!)
「まさか、あなたがお母様にその毒薬を……?」
そう口にした私の声も震えていた。
なんということ。
お母様の死は病気ではなかった!?
───まさか、殺されていたというの?
(嘘でしょう!? そんな事が……)
「……アピリンツ国王」
「な……なんだ」
動揺で身体が震え出す私をベルナルド様は優しく抱きしめてくれる。
そして、ここでベルナルド様はお父様に声をかけた。
「アピリンツ国の王妃の身体検査と荷物検査をしてもらいたい」
「は? な、なぜだ?」
お父様が不思議そうに聞き返す。
「……最近、摘発出来た毒薬の闇ルートの一つなんですが、直近でアピリンツ国と毒薬販売のやり取りした記録があるんですよ」
「な、に!?」
「それも随分、高貴な方に買って貰ったと供述しているようでね」
「っ!!」
一斉に疑惑の目がお義母様へと向けられる。
「マデリン……まさか、それはお前が……?」
「ち、違っ……私では……!」
お義母様は一生懸命否定するけれど、それが逆に嘘くさく感じる。
「違うなら何も問題ないだろう? なので検査を求める」
淡々とそう口にしたベルナルド様の声はその場にとてもよく響いた。
お義母様はますます顔を青くして身体を震わせていた。
そして、私はベルナルド様に支えられてどうにかその場に立っていた。
────
「アピリンツ国の王妃、マデリン。これが何なのか説明してもらおうか?」
「……」
身体検査の結果、お義母様のドレスの中から、まさにベルナルド様が言っていた毒薬と思われる物の小瓶が見つかった。
急いで鑑識に回しているけれど、例の毒薬に間違いないだろうと言う。
「今度は誰を狙おうとしましたか? まさか、私の可愛い可愛いクローディアではありませんよね?」
「……っ!」
図星をさされて言葉を失うお義母様。
そんなお義母様を残りの三人も唖然とした様子で見ている。
「───そんなのクローディアに決まっているでしょう? 憎い女、ロディナの娘なんだから」
「!」
「目障りなクローディアの“何らかの力”を警戒しつつも、どうにかロディナを消せたのに……何故、今回は発覚してしまったのよ」
「お、お義母様……あなたは」
私がそう呼びかけると、お義母様は観念したかのように笑い出した。
「ふふ、そうよ、クローディア。ロディナのあの言葉は嘘ではなく、本当に聞いた言葉だったけれど、確かに話したのは最期の時ではなかったわね」
「……!」
「正解は毒を服用させたすぐ後よ。あの目障り女、ロディナは勘だけは良かったのか飲んだ直後にあの言葉を言ったのよ!」
アハハハと狂ったように笑い出すお義母様。
「今度こそ昔と違って自分は死ぬって分かっていたのでしょうね、ふふ、はは!」
───昔と違って?
その言葉が私の胸に引っかかった。
お義母はそんな私の動揺を感じ取り鼻で笑う。
「……あら? ふふ、あなたって本当に何も知らないし、覚えてもいないのね?」
「え?」
「もっと昔。あなたがかなり小さかった頃、最初に私がロディナの暗殺を企んだ時よ、あの女の命を救ったのはやっぱりお前だったんでしょう? クローディア?」
「……!?」
(───どういうことなの? 私がお母様を救った?)
全く身に覚えのない話に私は驚き固まった。
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