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第32話 隠されていた手紙
しおりを挟む「クローディア、すまなかった」
お祖父様はそう言って私に頭を下げる。
「ブゥワント公爵様……」
「昔みたいに“お祖父様”とは呼んではくれないのだな、クローディア」
お祖父様は少し寂しそうな表情と声でそう言った。
私は目を伏せる。
「……」
申し訳ないけれど、さすがにすぐには気持ちの切り替えは出来ない。
お母様が力を封印したのは、お祖父様から私を守る為という理由もあったと思っている気持ちは今も変わらない。
「───公爵様。今回はあなたの発言にとても助けられました。そのことはお礼を申し上げます」
私は毅然とした態度で頭を下げた。
複雑な気持ちはあれど助けられたのは事実。
「クローディア……」
「特に過去の話は──」
「それなんだが、クローディア。子供の時のクローディアがロディナを助けたと思われるあの後の事で一つ言っていないことがある」
「はい?」
私は首を捻った。
それは、私が全く覚えていないお母様を助けたという時の話よね?
お祖父様は辛そうに語る。
「クローディアが覚えていないのは当然なんだ」
「どういうことですか?」
私は眉をひそめる。
当然? なぜ?
「……ロディナが助かった後のクローディア。あの時、お前は高熱を出して倒れたんだ」
「え?」
私がびっくりした顔をすると、お祖父様も悲しそうな顔を見せた。
「あの時のクローディアはずっと毎日ロディナの心配して泣いてばかりいたから、てっきり疲れが出たものだとばかり思っていた」
「……」
「が……違ったのだな。今思えば大きすぎる力の代償だったのだろう」
「……代償?」
お祖父様は下を向いて息を吐く。
そして顔を上げると、じっと私の顔を見つめる。
「目を覚ましたクローディアは、ロディナが倒れてからの数日間の記憶を失っていた」
「え!?」
だから、私は何も覚えていない?
そういうこと?
「事件が秘密裏に処理されたこともあって、儂もロディナもこの件は掘り返さないことにしたのだ」
「……!」
なんて答えたらいいの?
驚いた私が動揺していると横からベルナルド様が補足するように言った。
「クローディアの母君は、クローディアが王妃から目を付けられてしまうことや、力のことを他人に利用される可能性、そしてクローディア自身への身体への負担を考えて封印した……ということか」
「お母様……」
(結局、お母様は私のことばかり───)
私の目にうっすら涙が浮かぶ。
ベルナルド様は小さく笑った。
「……母親の愛情というのは凄いな。俺の母親からはそんな愛情を貰った記憶は無いな」
「ベルナルド様……」
「母君との愛情とは違うものだけど、俺はこれからもクローディアを愛していくよ」
「!」
そう言ってベルナルド様は優しく私を抱きしめた。
「あー……お前たち、頼むからもうここでラブシーンは勘弁してくれ。そういうのは二人っきりの時にしなさい。さっきだって何事かと思ったぞ……」
「「……あ」」
お祖父様の声で我に返る。
(そうだった……さっきは大勢の前で……何か色々してしまった……!)
私とベルナルド様は慌てて身体を離す。
でも、その代わり、ベルナルド様はギュッと手を握ってくれた。
これくらいなら構わないわよね、と思いたい。
「まあ、これでファーレンハイトの国王はアピリンツ国の王女、クローディアをどれだけ愛してるかが広く伝わっただろうからな。変に邪推する者や無駄に横恋慕する者も減るだろう」
お祖父様がしみじみと語る。
「ほれ見ろ。ナターシャ王女なんてあそこでお前達のラブシーンを見てから灰のようになっているぞ」
「え?」
お姉様が?
そう思ってお姉様に視線を向けると、確かにその通りだった。
何だか魂が抜けた人みたいになっている。
(もしかして、本気でベルナルド様を気に入って狙っていたの……?)
たとえ、そうだとしてもベルナルド様のことは絶対に譲れない。
「…………クローディアが今、幸せならそれで良かったよ。すまなかった……」
「……」
お祖父様はそれだけ言って締めくくった。
──元気で、幸せになってくれ。
最後にそれだけ言って帰って行くお祖父様の背をぼんやり見つめていると、ベルナルド様が私に訊ねる。
「“お祖父様”とは呼ばないの?」
「……今はまだちょっと」
私は首を横に振る。
「この先、気持ちの整理がついたらってこと?」
「……そうですね」
私がそう答えると、ベルナルド様は笑顔で言った。
「それなら、俺たちの間に子供が生まれたら“曾お祖父様だよ”と言って一緒に会いに行こうか」
「え!?」
(こ、子供ーー!?)
「その頃にはクローディアの気持ちの整理もつくんじゃない?」
「……気、気が早いですってば!」
私が真っ赤な顔をしてプイッと顔を背けると、ベルナルド様はあはは! と笑った。
そんな風に私たちが笑い合った時だった。
「あ、あの、すみません……へ、陛下、クローディア様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「?」
アピリンツ国の、それも王妃付きの侍女がおそるおそるといった様子で私たちに話しかけてくる。
「じ、実は……こちらなのですが」
「これは?」
そう言ってその侍女が差し出したのは一通の手紙だった。
「これは……手紙、か?」
「そうです。あ、宛名が……クローディア様宛てとなっております」
「私?」
差し出された手紙を見ると確かに私宛てとなっていた。
誰からの手紙?
「これはどこから?」
「……王妃様の部屋にあったものです」
「「え!?」」
あの人からの手紙!?
そう思ってしまって私とベルナルド様が変な声をあげてしまった。
けれど、侍女は首を横に振ると慌てて否定した。
「違います! さ、差出人は王妃様ではありません……! ロディナ妃からの手紙です」
「お、お母様!?」
どうして私宛ての手紙が王妃の元に?
それに、なぜこの場に?
そんな疑問ばかりが浮かぶ。
「実は……こ、この手紙は王妃様の部屋の引き出しにずっと隠すように仕舞われていたものなのです」
「え? どういうこと……」
ベルナルド様と私は顔を見合わせる。
けれど、ベルナルド様もどういうことか分からない、と首を横に振る。
(そうよね、何故、お母様から私宛ての手紙が王妃の所に……)
───まさか!
私がハッとしたその時だった。
「───どうして! どうしてそれがそこにあるの!?」
ちょうど、これから取調べの為に拘束されて王宮へと向かうことになっていた、まさにその張本人が目敏く手紙を見つけて悲鳴をあげた。
「……だ、誰が私の部屋から手紙を───お前が持ち出したのね!?」
その言葉に侍女がビクッと肩を震わせ脅える。
私は侍女を庇いながら訊ねることにした。
「侍女を責める前に説明していただけませんか? 何故、お母様から私宛ての手紙があなたの所にあったのか」
「……っ」
私の追求にぐっと黙り込む。
それだけで、この手紙が正当な手段でこの人の元にあったわけではないということが窺えた。
「まさか、無理やり何処かで奪ったのか?」
「!」
ベルナルド様の鋭い言葉にピクッと反応を示す。
「言え! 言わないと───」
更に脅しをかけるベルナルド様。
「ひっ! 無理やり、う、奪ったわけではないわ! あ、あの女がようやく息を引き取ったと聞いた後に部屋を訪ねて見つけたのよ! それを……」
「立派な泥棒だな。なるほど窃盗罪も追加か? 罪状のオンパレードだな」
冷たく笑うベルナルド様。
王妃の顔がますます青ざめる。
「……ひっ! よ、余計なことが書かれているかも……そう思ったから失敬して読んでから……す、捨てようと思ったのよ!」
必死に叫ぶその姿は、正直とても見苦しい。
「……なら、なぜ捨てもせず後生大事に引き出しなんかに仕舞っていた?」
「な、何か変な力が働いて、す、捨てられなかったのよ!」
「ほう?」
「な、中身だって私には開封することが出来なくて読めなくて。だ、だから! 何が書かれているかも知らないわ!!」
言われてみると、確かに手紙には開封された形跡がない。
ベルナルド様は不思議そうに首を傾げた。
「もしかして、クローディアだけが開封出来るようになっているのかな?」
「私だけ……」
私は手紙を見つめる。
懐かしいお母様の字……
「クローディア様……本当に申し訳ございません。私はその手紙の存在を知っていながらずっと……」
侍女が必死に私に向かって頭を下げる。
「ですが今回、国境に向かう事になった時、どうしてもこれを持っていかなくては……そんな気持ちになりました……」
それで、こっそり持ち出して来たということらしい。
「……お母様」
「つくづく不思議な人だね。クローディアの母君は」
「……そうですね」
私は頷く。
ベルナルド様の言葉には同意しかない。
「読んでみたら? 母君からクローディアへの最後のメッセージなんじゃないかな?」
「……」
お母様からの最後のメッセージ。
死に目に会えなかったから、きっとこれが本当の本当に最後の……
(何が書かれているのかしら?)
ドキドキしながら私はその手紙をそっと開封した。
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