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第33話 最後のメッセージ
しおりを挟む変な力が働いて……とあの人が叫んでいたその手紙。
私には特になんの抵抗もなく開封することが出来た。
───私の愛する娘、クローディアへ。
そんな書き出しで始まるその手紙は、今はもう懐かしくもあるお母様の字で間違いなかった。
───この手紙を開封して読めるのはクローディア、あなただけです。
今、この手紙を読んでいるというのなら無事、あなたの手に渡ったということですね。
(やっぱり私にだけ読めるようになっていた!)
だとしても、捨てられないというのは相当のことだとは思うけれど。
私は苦笑する。
───この手紙を残したのは私の命がもう長くないからです。
本来は口伝承として伝えていくべき話を手紙で記すことを許して下さい。
(……? 口伝承?)
───クローディア。あなたは次の“初代の王の力”の継承者です。
この力が何かはあなたも知っていると思いますが、この力は代々、王族の中にひっそりと受け継がれている力です。
そして、このことは誰が受け継いでいるかは公にはされず、王ですら知らされません。
代替わりの時に初めて本人に伝えられるものです。
(なっ……)
お母様がこの手紙を残した意味がようやく分かった。
きっと、お母様の生死に関わらず、代替わりの時は近付いていて、次代継承者が私だと分かったお母様はそのことを伝える準備をしていた。
でも、私にそれを伝える前に王妃の手にかかってしまい、まず最初にお母様は声を失った。
だから、手紙しかなかったんだわ。
(なるほど……)
あの人がこの手紙を捨てられなかったのも、私にしか開封出来ない仕様なのも、全部力のせいだ。
───クローディア。それによってあなたは二つの大きな力を手にすることになりました。
どちらも誤った方向で使えば大変なことになる大きな力です。
(二つの大きな力……)
手紙の内容は、私の“願いを叶える力”の件にも言及していた。
何故、私の力を封印するに至ったのか、そして、力の解放の条件などがしっかり記されていた。
それは、ここまで予想したことそのもので───
(やっぱり、封印を解くのは“愛”だった……!)
そこまで目を通した私はチラッとベルナルド様を見る。
「ん? どうした?」
優しく微笑んでくれるベルナルド様。
私の愛する人。
「……いえ」
───愛し愛されることであなたの力は解放されます。
私が誰かを愛して、愛される。
きっと、一方通行の片方だけでは駄目で両方なのが大事なのね、そう思った。
そして、最後にはこう記されていた。
───クローディア。私は国の為に生きる事を選んだけれど、あなたに会えたことが一番の幸せです。
それだけは、あのバカ王子に感謝しています。
あなたの幸せだけを願っています。
クローディアはクローディアの幸せを見つけて幸せになりなさい。
……何処にいても、あなたが愛した人と幸せになってくれますように。
「……っ」
(お母様……ありがとう……)
「クローディア……」
「あ……」
私は我慢出来なくなって涙をこぼす。
すると、ベルナルド様がそっと頭を撫でてくれて私に寄り添ってくれた。
私は涙を流しながら笑顔で言う。
「……ベルナルド様、私のお母様って凄いんです」
「知っている。何だかもう神様だったのかな? ってくらいの衝撃を受けている」
「……ふふ」
お母様は手紙の中に、もしも私が大事な相手に泣かされた時は、化けてでも出て来てやるとも書いていた。
「ふふ、お母様……残念だけど、きっと会えないわね」
私がそう小さく呟くと、聞き取れなかったベルナルド様が不思議そうな顔で聞き返す。
「どうかした? クローディア?」
「いいえ、なんでもないです」
だって、お母様が化けて出てくる必要なんてないの。
ベルナルド様はこんなにも私を愛してくれているから。
「そう? じゃ、今日の所はひとまず帰ろうか。彼らの罪を問うのもアピリンツ国の行く末に関して決めるのもこれからだ」
「はい!」
そう言われて、差し出された手を私はそっと取った。
これからの私のいるべき国へ、愛する人と一緒に帰る為に。
◇◇◇
「クローディア。明日、約束のデートをしようか?」
「デート!」
あの人たちとの決着をつけてから数日後。
その日の夜に私の元を訪ねて来たベルナルド様が開口一番にそう言った。
「約束しただろう?」
「で、ですが、忙しいですよね?」
特にあの場で明らかになった王妃の罪は、当然だけど予定外の仕事となってしまったのは間違いない。
「俺にだって休息は必要だと思わないか?」
ちょっと拗ねた様子のベルナルド様がそっと私の腰に両腕を回して抱き寄せる。
あっという間に腕の中に囲われてしまった。
「それは、もちろん!」
「毎晩、毎晩、クローディアの可愛さには癒されているけどね」
「……もう!」
そう言ってベルナルド様が私に口付けをしながら、そっとガウンを脱がす。
「……っ! …………帰って来てからますます、クローディアの格好が過激になってる気がする……これは何の試練なんだろう……」
「……ベルナルド様? 何か言いましたか?」
とても小さな声で何か呟いた気がしたので聞き直すと「何でもないよ」と返された。
顔が赤いけど何でもない?
「強いて言うなら、今夜もクローディアがクラクラする程、可愛い」
「ベルナルド様ってそれしか言ってないですよね?」
「本当のことだしね」
「あ……」
そう言ってベルナルド様は、私の首筋に吸い付くと痕を残した。
私は慌てる。
「も、もう! デ、デートの服は、いつもと違って首を隠せるか分からないのに!」
「え? あ、そっか。ごめんごめん、なら、もっと見えない所に──」
私が不満を漏らすと、ベルナルド様の目の色が変わる。
そして、手が───
「ひゃっ!? ど、どこを触って!?」
「どこって……可愛いクローディアの……」
「く、口にしないで結構ですから!!」
私が照れるとベルナルド様が声を立てて笑う。
「クローディアは照れ屋さんだなー……」
「~~~!!」
こうして、国王夫妻(仮)の夜は今日も楽しく過ぎて行った────
────
「俺のクローディアは何を着てもやっぱり似合うし可愛いね」
「……大袈裟です」
そして、翌日。
お忍びデートなので、服装も浮かないように町娘のような格好にしてもらった。
ベルナルド様も着ている服は王様らしくないけれど……
(オーラが……オーラが隠せていないわ!)
「どうかした?」
「ベルナルド様もかっこいいな、と見惚れていただけです!」
「!」
私が照れながらそう言うと、ベルナルド様も何故か盛大に照れた。
そしてお互い無言になる。
「……」
「……」
「い、行くぞ!」
「は、はい」
ベルナルド様が手を差し出したのでその手をギュッと握って歩き出した。
「クローディアはアピリンツでも、あまり外に出なかったの?」
「そうですね……すみません」
(あまり、人前に出たくなかったし……)
街についた私達は手を繋いで歩く。
全てが物珍しかった私は、何でもかんでも「あれは何?」と聞いてばかりだった。
ベルナルド様は優しく何でも答えてくれたけど……
(バカだと思われたかしら?)
「何で謝るの?」
「え……バカだなって思わないのですか?」
「何でだよ!? あれこれ目を輝かせてるクローディアは……その、すごく可愛いよ」
「!」
その言葉に頬が緩む。
(嬉しい!)
「クローディアのおかげなのか作物もいい感じに育って市場も盛況だそうだ」
「わぁ、良かったです」
だから、こんなに活気がいいのね? と思った。
でも、それなら……
「クローディア」
「はい?」
「……アピリンツ国が気になる?」
「っ!!」
私は思わず繋がれていない方の手で顔を覆う。
何で? 何で分かってしまったのだろう?
ファーレンハイトがこんなに豊かになったのなら、アピリンツは? って思ってしまったこと。
あの後、やはり、国を出ると決めた人は多かったようで、かなりファーレンハイトに移ったと聞いている。
けれど、残った人たちはちゃんと暮らせているのか。
「……行こうか?」
「え?」
「帰りはちょっと遅くなるかもしれないけど、急げばなんとかなるから」
「ベルナルド様……」
ベルナルド様が私の手をギュッと握る。
「……それに、俺も出来ればアピリンツで行きたい所があるんだ」
「行きたい所?」
「ああ……」
(何処かしら? まぁ、あの人達は好き勝手出来ない状態だし……)
あの家族だった人たちは、王妃は拘束されていて残りの三人はファーレンハイトの役人の監視下に置かれている。
なので好き勝手は出来ない。
私と会うこともない。
「それなら……」
こうして私たちは急遽、こっそりアピリンツに向かうことにした。
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