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第34話 奇跡
しおりを挟む馬車に乗り込んだ私は、ふと、疑問が湧いたのでベルナルド様に訊ねる。
「日帰りで帰れるのですか?」
「内緒のルートがあるんだ、まぁ、端的に言うと近道だね」
「まぁ!」
そう言って笑ったベルナルド様の顔は、ちょっと悪戯っ子みたいだった。
(こんな表情もするんだわ!)
新しい発見に何だか胸があたたかくなり嬉しくなる。
「……ふふ」
「クローディア? 何がそんなにおかしいの?」
「ベルナルド様が可愛くて?」
「可愛い?」
私の言葉を聞いたベルナルド様の顔が少し不満そうになる。
そして、手を伸ばすとそっと私の両頬に手を添えた。
「可愛いと言うのは、俺じゃなくてクローディアのことを言うんだよ?」
「ベルナルド様も可愛いですよ?」
私は譲らない。
すると、ベルナルド様はうーんと唸る。
「……そこは、格好いい! にして欲しい所だよ……」
「もちろん、格好いいとも思っていますよ?」
なんなら世界中に自慢して歩きたいくらいよ?
私の旦那様になる人は格好良くて素敵な人でしょう? って。
私は笑顔でそう答えた。
「くっ…………クローディア。君って人は……」
ベルナルド様が私から手を離すと口元を押さえてプルプルしている。
「あの?」
「本当に君はとんでもない子だな……」
「とんでもない?」
私は首を傾げる。
「これ以上、君のことを好きにさせたら大変なのはクローディアの方だぞ?」
「え? あっ……」
そう言ってベルナルド様は、やや強引に私の唇を塞いだ。
こうして、何だか誰も入り込めない甘い空気となった馬車は、あっという間に目的地へと辿り着いた───……
(ここは……)
窓の外を見て目を丸くしている私にベルナルド様が今日の目的を明かす。
「え! お墓参り!?」
「そう。どうしてもクローディアの母君に会いたかったんだ」
「ベ……ベルナルド様……」
私を胸に抱え込んだベルナルド様が甘く微笑んでそう言う。
「お礼を言いたい」
「お礼、ですか?」
「こんなにも可愛いクローディアを生んでくれたこと、こんなにも真っ直ぐな良い子に育ててくれたこと……」
そう言いながらベルナルド様は私の頬を撫でる。
「そして……自らの命よりクローディアを守ることを選んでくれたこと」
「……!」
私はハッと息を呑む。
ベルナルド様は優しくそして悲しそうに笑った。
「普通はなかなか出来ることじゃないよ?」
「…………そうですね」
私は目を閉じる。
母親の気持ち───
いつか。
いつか私にも分かる時が来るのかしら??
ベルナルド様との間に子供が出来たら──……
「……っ」
ボンッ!
想像したら一気に自分の顔が熱くなり、真っ赤になった。
「ええっ!? クローディア! どうした? 急に茹で上がったけど!?」
「え、茹で!? ……え、えっと? その……!」
私は思いっきり狼狽える。
言えない!
ベルナルド様との子供を想像したなんて!
(私ったら自分で気が早いですって言ったのに!)
「……」
「ベルナルド、様?」
すると、何故かベルナルド様の顔も私と同じ様に赤くなっていく。
「…………やはり、結婚式の前に手を出すのは……いや、しかし……何だかもう良いだろう? そんな声も聞こえる……」
そして、そのまま苦悩の表情を見せ始めた。
私がベルナルド様の様子にハラハラしていると、手をそっと取られた。
「クローディア」
「は、はい?」
「……初めての夜は覚悟しておいてね?」
「え!?」
それは、ドキドキもするけどものすごい不安になる宣言だった。
────
王宮の裏手にある王族専用の共同墓地。
お母様はそこに眠っている。
「アピリンツの王宮に入らなくてもいいの? あの人たちに会わずに中に入ることも出来るよ? 何か置いて来てしまった物とか心残りとかあれば……」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
私は静かに首を横に振る。
だって……この国で私が与えられていた物なんて殆どないから。
そんなことを考えながらベルナルド様と手を繋ぎながら歩いていると、ようやくお母様の眠るお墓の前に辿り着いた。
(……あれ?)
ふと覚えた違和感。
ベルナルド様が先に答えを口にした。
「新しい花があるね。誰か来たのかな?」
「……」
そう。
お墓には新しそうな花が添えられていた。
何となく誰なのかは想像がつく。
そもそもとして、ここに立ち入れるのは限られた人だけ。
ましてや、今はファーレンハイトの監視下にあるこの場所。
私はキョロキョロ辺りを見回したけれど、既に帰られた後のようで私たち以外の他の人の姿は無かった。
(これからはファーレンハイトで暮らすからお墓参りに来れるのも最後なのかしら)
そのことを寂しく感じてしまい顔が曇ってしまう。
そんな私にベルナルド様が言った。
「クローディア、まだこれは確定ではないし、まだ内緒なんだけど」
「はい?」
ベルナルド様が繋いでいた手をギュッと強く握りしめる。
「アピリンツはファーレンハイトの属国となる予定だ」
「!」
びっくりした私は目を丸くして息を呑む。
「まぁ、王妃は別として……直系の王族は皆、追放されることになる」
「……そう、ですね」
「傍系から新たに王を立てるよりは……ね。それにクローディアがいるから」
ベルナルド様の言いたいことは分かった。
その方が初代の王の力による“恩恵”がアピリンツ国にまで及ぶだろうと考えてくれたのだと思う。
(ベルナルド様……)
胸がキュッとなった。
あの人たちのことは今でも許せないと思っている。
けれど、国そのものまでは憎んでいない。
その気持ちを分かってくれたことが嬉しい。
「ベルナルド様……ありがとうございます」
「いや……とりあえず、この結果を告げた時の彼らの顔が楽しみだよ」
そう口にするベルナルド様の顔はちょっぴり黒かった。
「…………ロディナ妃」
ベルナルド様がお母様のお墓の前に跪くと、お母様に向けて語り始める。
「初めまして。ファーレンハイト国の王、ベルナルド・ファーレンハイトと申します」
(何だか不思議な光景……)
この国の王宮にいた頃、よく私はこうしてお母様の元に来ていた。
けれど、あの人たちが睨みをきかせていたからお墓参りに来てくれる人なんていなかったのに。
「あなたの可愛い可愛い可愛いお嬢様、クローディアに骨抜きにされた男です」
(…………ん?)
何だかしんみりした感情を一瞬で吹き飛ばすような言葉が聞こえた気がする。
「あの? ベルナルド様? いったい何を言っているんですか?」
「え? だって本当のことだろう?」
「っ!」
そう語るベルナルド様の瞳に嘘はない。
顔は真剣そのものだった。
「ロディナ妃。あなたが命を懸けて守ろうとした大事な可愛いクローディアは、これからは俺が守ります」
(ベルナルド様……)
「正直、もっと早く彼女と出会えて助けてあげられていたら……そう思うこともあります」
そんなことを思ってくれていたの? と胸があたたかくなる。
「ですが、そもそも何か一つでも違っていれば俺たちは出会えていなかったので。今はクローディアと出会えた奇跡に感謝しています」
その通りだ。
私がお姉様の身代わりにならなければ。
ファーレンハイトの前国王様が存命だったなら。
(きっとこうはならなかった───)
「これまでクローディアが苦しんだ分、俺の手で笑顔にさせたいと思っています」
「!」
「どうか、あなたの大事な可愛いクローディアを俺にください。俺の生涯をかけて彼女を守り愛し抜きます」
「ベルナルド様……!」
ベルナルド様がお母様の前でそう誓ったその瞬間。
私の頭の中でパリンッと何かが割れる音がした。
(───え?)
そして、眩しい光が放たれて辺りを包み込んだ。
(眩しっ……今のは何? それに……)
ついでに何だか身体のおかしな感触に戸惑っているとベルナルド様が私に呼び掛ける。
眩しかった光はもう収まっていた。
「あ! …………クローディア。空を見て?」
「え?」
そう言われて顔を上げると空には───……
「……虹、でしょうか?」
「ああ、虹だ」
「何で……?」
突然、空に現れた虹はまるでファーレンハイトとアピリンツの空を繋ぐかのようにかかって見える。
(それに、何だか無性に湧き上がって来るこの力は……)
私は自分の手のひらを見つめる。
これ、本能で分かる。
“初代の王の力”だわ。
その力が……今、私に────
辺りを見回すと、枯れてこそいなかったもののそれまで元気のないように見えた緑の木々が嘘のように青々と繁っていた。
「えっ……緑が!」
「すごいな…………これが、クローディアの本気の力?」
ベルナルド様も驚いた様に呟く。
「じ、自分でもよく分からないのですが……ただ……」
多分、これは新たな形として歩み出すことになるこの国を守ろうとしているのだと思った。
────その時のアピリンツの王宮内では……
「お父様、お兄様! 空が……」
「空?」
連日の事情聴取に疲れ切っていた、王はナターシャに言われて空を見上げる。
「……虹?」
「ファーレンハイトとの空と結ぶかのように虹がかかっています……これは父上が? って違いますね」
ブルームも横から驚きの声を上げた。
これは……
「「「…………クローディア」」」
三人の声が重なる。
今、こんなことが出来るのはクローディアしかいない。
クローディアのみが持つ大きな力───
三人はその場にガクッと力なく項垂れた。
一方、一人牢屋に収容されている元王妃マデリンは……
「ファーレンハイトとを繋ぐ虹ですって!?」
「同時にあなた方、王族が何もしてくれなかった天変地異による被害が嘘のように元に戻って来ているそうですよ?」
看守のその言葉にマデリンはカッとなる。
「お黙り! 私は力なんて持っていないわ!」
「……だとしても、王妃だったあなたは、我々国民に寄り添う姿勢すら全く見せなかった」
「なっ!」
キッと看守を睨むもマデリンは一蹴される。
「それがあなたとロディナ妃の大きな違いですよ」
「っっ!」
(───また、ロディナ!)
マデリンもその場に力無く崩れたという。
───それから、数週間後。
アピリンツの国王達が国民の前で罪を問われる時がやって来た───
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