【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea

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第4話

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(おかしいわ……)

 私の予想では……

『私達は没落寸前の貧乏男爵家の令嬢を奥様だとは決して認めません!』
『王女様の美しさの足元にも及ばないような人が、旦那様に愛されるなんて思わないでください!  図々しい!』

 みたいな感じになると思っていたのに。

「ようこそ、いらっしゃいました、奥様!」
「王都からは長旅でお疲れだったでしょう?  大丈夫ですか、奥様!」
「ゆっくりお寛ぎくださいね、奥様」

(おかしいわ……)

 奥様、奥様って連呼されている。
 ちなみにまだ、婚姻誓約書を提出していないから、厳密にはまだ“奥様”ではないのよ……
 そんな事を考えていた私に、旦那様(予定)が心配そうな顔を向ける。

「……アリス嬢、ぼんやりしてどうした?」
「いえ、余りにも想像と違っておりましたので驚いております」
「違った?  あぁ、すまないな。狭い屋敷だろう?  使用人の人数も少ないしな。ガッカリさせて申し訳ないが、私は部屋が広すぎたり人が多すぎたりするのは好きでは無いのだ」

(……旦那様(予定)が変な解釈しているわ!)

「いえ、そういう驚きではなかったのですが……あと、充分広いですわ」

(……旦那様(予定)にカンツァレラ男爵家の屋敷を見せて本当の狭さというものを教えてあげたい!!  あなたの言う“狭い”は、本当の狭いでは無くってよ!)

「……そうか?  まぁ、騒がしくてすまんな。皆、私の迎える花嫁が楽しみだったらしく、どうも世話を焼きたがっているようだ」
「た、楽しみ……!?」

 嫁イビリする使用人は……いないの!?

(いえ、待って?  皆、私が没落寸前貧乏男爵令嬢だと知らないから、この好意的な反応なのよ。だから、本当の事を知ったらきっと!  嫁イビリが開始ー……)

「奥様、こちらは男爵領とは気候も違うので体調にはお気を付けくださいませ!」
「!!」

 私が男爵令嬢なのは既に知られている!
   
「だ、男爵……領とはあの男爵領の事ですか?」

 けれど、あの超貧乏な没落寸前のカンツァレラ男爵家とまでは知らないかもしれないわ!
 そんな一縷の望みをかけて私は、男爵家の名前を濁した発言をした……けれど。

「そうです。奥様のご出身のカンツァレラ男爵領ですよ!」
「!!」

 メイドは最高の笑顔で言い切った!

(最初から全部、知られていたんじゃないの……)

 温かく迎え入れてもらえて本来はとても喜ばしく幸せな事のはずなのに、何故かフラフラとショックを受ける私に旦那様(予定)が声をかけてくる。

「アリス嬢、楽しそうな様子のところすまないが、そろそろ皆に君を紹介しようと思う、いいか?」
「……」

 旦那様(予定)には、今のショックでフラフラする私がとても楽しそうに見えたらしい。
  
(そんな節穴の目でよく騎士が……王女様の護衛騎士兼恋人が務まっていたわね……)

 けれど、案外、王女様はこの方のこういう所がお好きだったのかもしれない。
 堅物なのにバカ正直で、ちょっと抜けてて……普段はノー笑顔なのに自分にだけ微笑まれたら……それはキュンとする。
 ましてや、普段は傍についてくれていて自分を護ってくれる……
 これはよくよく考えれば、キュンキュンする要素しかない。

(王女様もとてもお綺麗な方だという噂だし……きっと並んだ二人はとてもお似合いだったのでしょうね……)
  
 改めて、王女殿下の事を想ってお飾りの妻という存在を求めた旦那様(予定)に思いを馳せた。






「さて、既に皆に話はしていたが、こちらがカンツァレラ男爵家の令嬢のアリス嬢だ。皆も知っての通り私の妻となる女性だ」
「はじめまして。カンツァレラ男爵家の娘、アリスと申します」

 これまで、なかなか使う機会の無かった淑女の礼で挨拶をする。
 若干、たどたどしいのと足元がプルプルしているのは見なかった事にして欲しいわ。
 だって貧乏男爵家の私は、パーティーとは無縁の生活でしたのよ。

(でも、お飾りの妻でも、きっとこういう事には今後は慣れていかないといけないのよね)

 私は、旦那様(予定)の求める、完璧なお飾りの妻になってみせると決めているのよ。

「それでだが、アリス嬢……いや、アリスは非常に変わっていて実に面白い女性だ」

(…………ん?)

 私が気合を入れている横で何やら不穏な言葉が聞こえて来る。

「退屈なはずの長い馬車の時間を共に過ごしていたが、私は飽きないどころかずっと笑い転げていた」

 旦那様(予定)のこの言葉に使用人達が大きくざわついた。

(嘘、有り得ない……笑い転げるなんて……天変地異が起きるのでは……って、凄い言われようよ!?)

「あまりにも楽しくて、私はアリスを一日中でもずっと眺めて過ごせる自信がある。こんな女性は初めてだ。ぜひ、皆も仲良くしてやってくれ。多分、癖になるし、楽しい毎日を約束する」

(…………んん?)

 今、この旦那様(予定)。凄~く変な事を言わなかったかしら?? 
 私はお飾りの妻ですわよ?

「旦……ギルバート様」
「どうした?」
「一日中……」
「あぁ、君なら眺めていても絶対に飽きないな」

 うんうんと頷く旦那様(予定)

「癖に……?」
「あぁ。だって次は何を思い何を妄想して、どんな顔を見せてくれるのか、私は今から楽しみで仕方がないんだ、アリス」

 旦那様(予定)が今度は甘く微笑みながらそんなとんでもない事を言い出した。
   あと、最後の私の名前を呼んだ所の声が、あ、甘い!

「!!」

 ボンッ!
 耐えられなくなった私の顔が一気に真っ赤になる。

「ア、アリス!?  顔が……」
「た、大変!!  お、奥様が……茹でダコに!!」
「(茹でダコ!?)~~……!」

 お飾りの妻も、白い結婚も、嫁イビリも上等よ!  と、意気込んでやって来たはずなのに、
 何故か私はランドゥルフ伯爵家の皆の前でいきなり茹でダコ妻になっていた。




◆◆◆◆◆◆


  ────そんなアリスが伯爵家の茹でダコ妻になっていたその頃。 
 王宮のとある一室……王女殿下の部屋では───……


「王女殿下、婚約者の王子から手紙が届いておりますよ」
「……」
「いい加減、目を通してお返事を書かれては?」
「……」

 専属侍女にそう窘められた王女、ユーリカは無言のままそっと“婚約者からの手紙”を手に取る
 そうして、宛名を眺めてふぅ、とため息を吐いた。

「ギルバートは何故、わたくしに手紙をくれないの?」
「そ、それは私に言われましても困ります」
「だって、わたくしの護衛を辞めた後は故郷に帰ったのでしょう?  便りの一つくらいあってもいいじゃないの」
「それは、まぁ……そうなのですが。あ!  ギルバート様はきっと結婚式の準備でお急がしいのかもしれま…………って、あ!」

 専属侍女はうっかり余計な言葉を発してしまう。
 それは、先程王女殿下の部屋を訪ねる前に立ち寄った所で、殿下の元・護衛騎士ギルバートの結婚の話を聞いたばかりだったから、つい口を滑らせてしまった。

(しまった!  殿下のお耳にだけは入れないようにと、決めていたのに!)

 そう思ったけれど遅かった。
 ユーリカ王女殿下はしっかりと聞いていた。

「……結婚式?  ねぇ?  それは誰と誰が結婚するのかしら?」
「そ、それは……」

 目線を合わせず、オロオロするばかりの侍女のその様子が全ての答えだった。

「……ギルバートが結婚ですって……?  そんなの…………」

 この時、王女の手の中にあったはずの“婚約者の王子からの手紙”はグシャッと思いっきり握りつぶされていた。

   
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