4 / 26
第4話
しおりを挟む(おかしいわ……)
私の予想では……
『私達は没落寸前の貧乏男爵家の令嬢を奥様だとは決して認めません!』
『王女様の美しさの足元にも及ばないような人が、旦那様に愛されるなんて思わないでください! 図々しい!』
みたいな感じになると思っていたのに。
「ようこそ、いらっしゃいました、奥様!」
「王都からは長旅でお疲れだったでしょう? 大丈夫ですか、奥様!」
「ゆっくりお寛ぎくださいね、奥様」
(おかしいわ……)
奥様、奥様って連呼されている。
ちなみにまだ、婚姻誓約書を提出していないから、厳密にはまだ“奥様”ではないのよ……
そんな事を考えていた私に、旦那様(予定)が心配そうな顔を向ける。
「……アリス嬢、ぼんやりしてどうした?」
「いえ、余りにも想像と違っておりましたので驚いております」
「違った? あぁ、すまないな。狭い屋敷だろう? 使用人の人数も少ないしな。ガッカリさせて申し訳ないが、私は部屋が広すぎたり人が多すぎたりするのは好きでは無いのだ」
(……旦那様(予定)が変な解釈しているわ!)
「いえ、そういう驚きではなかったのですが……あと、充分広いですわ」
(……旦那様(予定)にカンツァレラ男爵家の屋敷を見せて本当の狭さというものを教えてあげたい!! あなたの言う“狭い”は、本当の狭いでは無くってよ!)
「……そうか? まぁ、騒がしくてすまんな。皆、私の迎える花嫁が楽しみだったらしく、どうも世話を焼きたがっているようだ」
「た、楽しみ……!?」
嫁イビリする使用人は……いないの!?
(いえ、待って? 皆、私が没落寸前貧乏男爵令嬢だと知らないから、この好意的な反応なのよ。だから、本当の事を知ったらきっと! 嫁イビリが開始ー……)
「奥様、こちらは男爵領とは気候も違うので体調にはお気を付けくださいませ!」
「!!」
私が男爵令嬢なのは既に知られている!
「だ、男爵……領とはあの男爵領の事ですか?」
けれど、あの超貧乏な没落寸前のカンツァレラ男爵家とまでは知らないかもしれないわ!
そんな一縷の望みをかけて私は、男爵家の名前を濁した発言をした……けれど。
「そうです。奥様のご出身のカンツァレラ男爵領ですよ!」
「!!」
メイドは最高の笑顔で言い切った!
(最初から全部、知られていたんじゃないの……)
温かく迎え入れてもらえて本来はとても喜ばしく幸せな事のはずなのに、何故かフラフラとショックを受ける私に旦那様(予定)が声をかけてくる。
「アリス嬢、楽しそうな様子のところすまないが、そろそろ皆に君を紹介しようと思う、いいか?」
「……」
旦那様(予定)には、今のショックでフラフラする私がとても楽しそうに見えたらしい。
(そんな節穴の目でよく騎士が……王女様の護衛騎士兼恋人が務まっていたわね……)
けれど、案外、王女様はこの方のこういう所がお好きだったのかもしれない。
堅物なのにバカ正直で、ちょっと抜けてて……普段はノー笑顔なのに自分にだけ微笑まれたら……それはキュンとする。
ましてや、普段は傍についてくれていて自分を護ってくれる……
これはよくよく考えれば、キュンキュンする要素しかない。
(王女様もとてもお綺麗な方だという噂だし……きっと並んだ二人はとてもお似合いだったのでしょうね……)
改めて、王女殿下の事を想ってお飾りの妻という存在を求めた旦那様(予定)に思いを馳せた。
「さて、既に皆に話はしていたが、こちらがカンツァレラ男爵家の令嬢のアリス嬢だ。皆も知っての通り私の妻となる女性だ」
「はじめまして。カンツァレラ男爵家の娘、アリスと申します」
これまで、なかなか使う機会の無かった淑女の礼で挨拶をする。
若干、たどたどしいのと足元がプルプルしているのは見なかった事にして欲しいわ。
だって貧乏男爵家の私は、パーティーとは無縁の生活でしたのよ。
(でも、お飾りの妻でも、きっとこういう事には今後は慣れていかないといけないのよね)
私は、旦那様(予定)の求める、完璧なお飾りの妻になってみせると決めているのよ。
「それでだが、アリス嬢……いや、アリスは非常に変わっていて実に面白い女性だ」
(…………ん?)
私が気合を入れている横で何やら不穏な言葉が聞こえて来る。
「退屈なはずの長い馬車の時間を共に過ごしていたが、私は飽きないどころかずっと笑い転げていた」
旦那様(予定)のこの言葉に使用人達が大きくざわついた。
(嘘、有り得ない……笑い転げるなんて……天変地異が起きるのでは……って、凄い言われようよ!?)
「あまりにも楽しくて、私はアリスを一日中でもずっと眺めて過ごせる自信がある。こんな女性は初めてだ。ぜひ、皆も仲良くしてやってくれ。多分、癖になるし、楽しい毎日を約束する」
(…………んん?)
今、この旦那様(予定)。凄~く変な事を言わなかったかしら??
私はお飾りの妻ですわよ?
「旦……ギルバート様」
「どうした?」
「一日中……」
「あぁ、君なら眺めていても絶対に飽きないな」
うんうんと頷く旦那様(予定)
「癖に……?」
「あぁ。だって次は何を思い何を妄想して、どんな顔を見せてくれるのか、私は今から楽しみで仕方がないんだ、アリス」
旦那様(予定)が今度は甘く微笑みながらそんなとんでもない事を言い出した。
あと、最後の私の名前を呼んだ所の声が、あ、甘い!
「!!」
ボンッ!
耐えられなくなった私の顔が一気に真っ赤になる。
「ア、アリス!? 顔が……」
「た、大変!! お、奥様が……茹でダコに!!」
「(茹でダコ!?)~~……!」
お飾りの妻も、白い結婚も、嫁イビリも上等よ! と、意気込んでやって来たはずなのに、
何故か私はランドゥルフ伯爵家の皆の前でいきなり茹でダコ妻になっていた。
◆◆◆◆◆◆
────そんなアリスが伯爵家の茹でダコ妻になっていたその頃。
王宮のとある一室……王女殿下の部屋では───……
「王女殿下、婚約者の王子から手紙が届いておりますよ」
「……」
「いい加減、目を通してお返事を書かれては?」
「……」
専属侍女にそう窘められた王女、ユーリカは無言のままそっと“婚約者からの手紙”を手に取る
そうして、宛名を眺めてふぅ、とため息を吐いた。
「ギルバートは何故、わたくしに手紙をくれないの?」
「そ、それは私に言われましても困ります」
「だって、わたくしの護衛を辞めた後は故郷に帰ったのでしょう? 便りの一つくらいあってもいいじゃないの」
「それは、まぁ……そうなのですが。あ! ギルバート様はきっと結婚式の準備でお急がしいのかもしれま…………って、あ!」
専属侍女はうっかり余計な言葉を発してしまう。
それは、先程王女殿下の部屋を訪ねる前に立ち寄った所で、殿下の元・護衛騎士ギルバートの結婚の話を聞いたばかりだったから、つい口を滑らせてしまった。
(しまった! 殿下のお耳にだけは入れないようにと、決めていたのに!)
そう思ったけれど遅かった。
ユーリカ王女殿下はしっかりと聞いていた。
「……結婚式? ねぇ? それは誰と誰が結婚するのかしら?」
「そ、それは……」
目線を合わせず、オロオロするばかりの侍女のその様子が全ての答えだった。
「……ギルバートが結婚ですって……? そんなの…………」
この時、王女の手の中にあったはずの“婚約者の王子からの手紙”はグシャッと思いっきり握りつぶされていた。
244
あなたにおすすめの小説
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
【完結済】侯爵令息様のお飾り妻
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
没落の一途をたどるアップルヤード伯爵家の娘メリナは、とある理由から美しい侯爵令息のザイール・コネリーに“お飾りの妻になって欲しい”と持ちかけられる。期間限定のその白い結婚は互いの都合のための秘密の契約結婚だったが、メリナは過去に優しくしてくれたことのあるザイールに、ひそかにずっと想いを寄せていて─────
【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定
大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました
ミズメ
恋愛
感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。
これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。
とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?
重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。
○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます
『壁の花』の地味令嬢、『耳が良すぎる』王子殿下に求婚されています〜《本業》に差し支えるのでご遠慮願えますか?〜
水都 ミナト
恋愛
マリリン・モントワール伯爵令嬢。
実家が運営するモントワール商会は王国随一の大商会で、優秀な兄が二人に、姉が一人いる末っ子令嬢。
地味な外観でパーティには来るものの、いつも壁側で1人静かに佇んでいる。そのため他の令嬢たちからは『地味な壁の花』と小馬鹿にされているのだが、そんな嘲笑をものととせず彼女が壁の花に甘んじているのには理由があった。
「商売において重要なのは『信頼』と『情報』ですから」
※設定はゆるめ。そこまで腹立たしいキャラも出てきませんのでお気軽にお楽しみください。2万字程の作品です。
※カクヨム様、なろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる